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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第三章:カロン王国
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3-1 カロンにて

「で、どうして街道から外れることになったんでしたっけ?」

「俺が街道を歩いてると俺を追っているやつらに見つかりやすくなるからだって言った気がするけど。」

「そうですよね。確かにそうでしたよね。でも………。」


 そこまで言ってナギは体をプルプルと震えさせて叫んだ。


「魔物に囲まれちゃ意味無いじゃないですか!!」


 街道から少し外れたところにある森の中にナギの叫びが響き渡った。それを聞いたニミウスがナギの頭をはたく。


「なにするんですか!?」

「馬鹿か?馬鹿なのか?お前は!!

 お前が叫んだせいでまた魔物がよってきたじゃねーか!!」


 つい先程まで彼らは魔物と戦っていた。ようやく一息ついた。つまりはそんなときだったのだ、今は。ナギの叫び声が聞こえたのか魔物が集まってきた。森にいる動物のように四足獣の姿をしているものが多い。ニミウスは寄ってきた一匹を切り捨てた。後ろではナギが気分の悪そうな顔をしながらも魔法を魔物にぶつけて、殺している。

 ナギには、どうやら血なまぐさい経験をしたことが無かったらしい。そのせいか、森に入って襲われ、命を守るためとはいえ、魔物を殺した日には胃の中のものを嘔吐していた。今は、まだ慣れていないようだが、それでも、踏ん切りはついたらしい。


「くそっ。このままじゃきりが………うっ。」


 油断していたわけではないようだが、ニミウスの腹に一体の魔物が噛みついた。ナギが慌てて魔法を放ち、魔物を殺すことでニミウスから引き剥がすがその傷は深かったようで、ニミウスの動きが鈍り、その場に崩れ落ちる。


「ニミウス!!」


 ナギは急いでニミウスに近寄る。魔物たちは手強かった男は戦闘不能、残っているのはただの魔法使いと見たのか一斉に襲いかかった。


「くっ………『集え、風よ。形成(カタナ)すは竜巻』!!」


 ニミウスを浮かばせて竜巻で魔物の群れの一点突破するようにして逃げる。だが、さほど体力のないナギに魔物たちはすぐに追い付き襲いかかる。ナギはニミウスを守るようにしてニミウスに覆いかぶさる。ナギの方が上、というか魔物たちにとっては近くなるので、必然的にナギの方に攻撃が集中する。


(ああ、これは、もうダメかもしれませんね………。)


 彼女の体から、力が抜けていく。恐怖に怯えるように力強く閉じていたまぶたに力が入らない。


「ごめんなさい………。」


 誰に向けたのかもわからない言葉。そう呟いたのと同時に、完全に気を失ったのかナギの体から完全に力が抜けた。


◆◇◆◇◆◇◆


 ガバッとナギが起き上がる。ここは森ではなくカロン王国の王都付近の宿屋の一室。右、左と辺りを確認する。横のベッドで何もなかったように寝ているニミウスも確認すると再び横になり、眠りについた。

 夢でよかったと安堵しながら。


◆◇◆◇◆◇◆


 カロン王国の王都であるエリクシナは高台の上に存在する王宮を中心にしてできている。エリクシナの端の方へ行けば気にならないがそれなりの傾斜が存在している。そのためか、王都内の移動手段は徒歩が主流となっており、人件費が多少かかったとしても荷物は馬車を使わずに運ぶことが多い。風魔法を使える者がいれば重宝されるが、運搬には大量の魔力を必要とするためあまり使える人数はいない。


「本当にありがとうございます。」

「いえ、いいのよ。荷物を持ってもらえてこちらとしても助かっているもの。」

「運んでいるのは私なんですけどねー。」

「だってお前、実はものすごく魔力が多いだろ? それを有効利用しなくてどうする。」


 風魔法を使って物を運ぶ場合、魔法の発動の維持に魔力を消費するのだがこれが結構大きい。ニミウスは十寿の森でナギが歩かず魔法で浮いて移動しているのを見て気づいたのだった。

 ナギが恨めしそうにニミウスを見る。だが、ニミウスも何もしていない訳ではない。ニミウスの両手の先には子供が二人。どちらも黒髪黒目、よく似ていることから双子だとうかがえる。


「ねえ、みーちゃん。新しいおうちに着いたら何しようか。」

「んー。探検しよう!! ゆーちゃんと一緒に秘密基地作るの!!」


 きゃっきゃっと楽しげにしゃべる二人は、先程の女性の娘で、優華(ユンファ)明華(ミンファ)という。

 母親である優明(ユウミン)が住み込みでこのエリクシナの貴族の家で働くことになりカロンへと移動している最中、魔物に襲われていたのをナギたちが助けてからここまで一緒に行動している。

 しかし、この双子、あまりにも似すぎているので着ているものも一緒なので髪を結んでいる場所の違いでしか見分けがついていない。右下で結っているのが優華、左下で結っているのが明華である。


「じゃあ、ナギちゃんもおにいちゃんも一緒にやろ?」

「とりあえず俺たちは宿を探してからな。」

「「えー。」」


 見事にハモった二人のブーイングを受けて優明が二人を叱るが二人はどこ吹く風と気にせずにブーイングを続けている。やがて、一つの屋敷の前で足を止めて深呼吸をする優明。話を聞くと昔からの知り合いだと言っていたけれどもそこまで緊張するものなのだろうか。

 門番に話を通してもらって中へ入る。ナギたちはついてきただけだし外で待っていると申し出たが、その意見は優明の半泣きのような顔によって無かったことになった。

 本当にどんな人なのだろうと思いつつ、案内された部屋で屋敷の主を待っているナギとニミウス。優華と明華は辺りのものを興味深そうに見つめており、優明は娘たちがそれらを壊さないかと不安そうに見つめていた。


「お待たせいたしました。」


 やってきたのは彼らを案内してくれた執事。執事と言っても世間一般の年老いたイメージと違い、こげ茶色の髪を持つまだ若い青年である彼は主である人物を呼びに行っていたのだ。そして現れた主はこれまた貴族のイメージとずれていた。

 その職業柄をのぞき、着ている衣が薄かったり少なかったりすると貧しいという価値観があるため裕福であろう貴族は着飾っている、というのは皇国でも王国でも変わらないのだが目の前の人物が着ているのは必要最低限だけである。野暮ったい服装に、大きな丸めがね。髪の毛はぼさっとしており、まるで寝起きのようだが目はしっかりとしているので寝起きということはなさそうだ。とても貴族には見えない彼は優明を見ると顔をほころばせた。

 さらにそのまま突進してきた。


「会いたかったよ、マイスイートハニー、優明!!」

「「ハニー!?」」


 優明はびくっと震えると一歩下がったが突進してきた彼には一歩分など関係なかったらしくそのまま抱きつかれる。そういう遊びだと思ったのか娘二人も優明に抱きついていたが、ニミウスとナギはそれを引き剥がすこともできずにただただ、呆然としていた。二人は気付いていなかったが執事も言葉をなくして唖然としていた。

「始まりました、第三章!!」

『また濃そうなキャラクターが……。』

「はじめは厳格なイメージな貴族だったはずなのにね? 何でこうなったのかは紅月も不明だって。」

『ま、まあ「なぜこうなったし……。」とか言ってたらそうだろうなあとは思うわよ。』

「なんにせよ、この三章は長めになる予定です。いろいろとやりたいことがあるんだそうで。」

『やりたいというよりもやっておかないと困る、の間違いじゃなくって?』

「んー。そんなことも言ってたよ。」

『ところで、この貴族って何者? 優明の旦那様?』

「さあ?」

『……。』

「無言で大魔法展開しても知らないから答えられないよ!!」

『わかってるわよ。それではいつになるかわからない次回で、また会いましょう。』

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