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夕方には彼らは村についていた。今日はこの村で宿泊することになるようで御者が近くに馬車を止めておいてもいいかと聞きに行っていた。この間も虹牙は寝ている。昼ごはんのときに龍望と口げんかした後に不貞寝をしたのだ。その際にも起こさないようにと命令されている。正直、いつまで寝ているのか、そもそも、寝ているように見えるけど生きているのだろうかと思ってしまうほどによく寝ている。龍望が「起こすな、と命令されているのですから起こさない方がいいでしょう」と言わなかったら誰かが間違いなく起こしていただろう。
やがて戻ってきた御者からよかったら、村に泊まっていってくれという返事を聞き、御者、勇者一行は村の外れに馬車を止めて村へと向かった。
虹牙をおいていったのは龍望がそう言ったからだ。
村ー四寿村ーの人たちは快く彼らを迎えてくれた。村の人間が食べるには豪華すぎるような料理まで出して歓迎してくれる。勇者一行もそのありがたくその意を受けて、歓迎会という宴会を楽しんでいた。
「それではこれからカロンへ向かわれるのですか?」
「はい。」
「エルフなんて初めて見たわ。」
「すごーい。髪の毛さらさら。しかも綺麗。」
「ありがとうございます。」
「あんちゃんいい飲みっぷりだね。」
「おうよ。まだまだいけるぜ!!」
「えー。おねえちゃんもきゅうせいしゅさまなの?」
「みえないー。」
「なんなんですかー。私は結構強いんですー!!」 質問に答えるのはメグミ、村の女たちに囲まれて誉められているのはハンナで村の男と飲み比べをしているのがジェフで、ミールは子供たちに遊ばれている感じた。それがまた賑やかさに拍車をかけていた。
「あなたがが救世主様?」
「うん、そうだよ。」
十才くらいの子供がメグミのところにやってくる。どうしたの?といった顔で子供を見ると固い顔をした彼ー男の子だーは勢いよく頭を下げた。
「お願いです!!」
「え?」
「三日前に僕を魔物から助けてくれた人たちがいたんです。でもその人たち、魔物の話を聞いたら魔物の住みかに行っちゃって………。」
生きているかはわからないけどどうにかして生死の確認ができないだろうか、ということだそうだ。
「女の子とカロンの国の人でした。女の子の方はナギと呼ばれていました。」
ナギ、という単語にメグミはわずかに反応したがそれには気づかなかったらしい少年はひたすら頭を下げている。何事かと他の人たちが遠巻きに見守るなか彼の祖父とおぼしき老人が現れた。どうやら老人はその二人組のことを忘れるようにと言っていたようだ。
「わざわざ死にに行ったような連中のことをいつまでも引きずるんじゃない!!」
「でもじいちゃんだって気にしてたじゃないか!!」
そのまま子供は泣き始めてしまった。
先程までの歓迎ムードとはうってかわって静かになる。どうしたものかと勇者一行の面々は顔を見合わせる。三日前となると生きている可能性は無いと言ってほぼ間違いない。それに、彼らは今虹牙をカロンまで連れていくという仕事がある。でもこのまま無視するのも気分がよくない。
この状況を打破したのは彼らがすっかり忘れていた人物によってだった。
「行きたいなら、行け。この南宮が許す。」
南宮―皇位継承権第三位を表す号だーこと虹牙がそこにいた。
「でもいいのですか?カロンへの到着が遅れますが。」
「かまわん。民の憂いを払うのは皇族の役目だからな。」
龍望は遅れると体裁が悪いのではないのかというつもりで聞いたのだろうが、虹牙はそれを気にせず民を優先した。
(ここで機嫌をとっておけば後々俺にとって有利に働くだろうからな。)
虹牙の心情にはみんなが感心していたために気づかれることがなかった。
「それより、お前。ちょっとこっちに来い。」
虹牙は龍望を呼ぶとそのまま馬車の方へと向かっていった。当然のことだが、馬車のところには人はいない。別に、何か怪しいことをするわけではなく、ただの龍望の憂さ晴らしの時間である。
「なぜ、俺を起こさなかった。」
「おや?虹牙様が起こすなとおっしゃったから僕は起こさなかっただけですが。」
「俺は何か起きたら起こすようにと言ったな。」
「ええ。ですが何事もなくこの四寿の村についたので起こさなかったのですが、何か問題がありましたでしょうか?」
龍望がずっとやっている行動。それは虹牙の言動に対する揚げ足取りだ。どうやら虹牙があれやこれやと命令したことを龍望なりの解釈で受け取り、あえて虹牙の癪に障るように行動しているのだ。理由は自分達を駒としか見ていないところ、別に荒く扱っても構わないと思っているところだろう。
(僕自身が選んだ仕事の依頼人がこんな性格だったら自分を呪いますが、ね。)
八つ当たりにも近い行動ではあるが、メグミをはじめとした仲間は飛んでくる火の粉を恐れてか一切口を出さない。それも、龍望の八つ当たりを加速させている一因でもあった。
だが、このまま虹牙の怒りが頂点に達してもよくない。これでも一応は皇位継承権を持つ人間だから、怒っている声が四寿村の人たちに聞こえるのはよくない。彼ら皇族のイメージを損なわせるのは龍望の依頼主であるヴァダリアの皇帝も望んではいないだろう。
なので、龍望は心にもないことを口にする。
「ですが、虹牙様がああ言ってくださったおかげで村の者達はきっと感謝しますよ。」
「そうか?」
「ええ。小さい子供の願いまで聞いて差し上げる皇族の方なんて他にはいらっしゃらないのではないですか?」
それを聞いて照れるようにして顔をゆがませる虹牙。正直、こんなことをほざいた口が気持ち悪くなった龍望。二人はまったく対照的な顔をし、しかし互いにそれには気付かずにメグミたちや、村人たちのいるところへと戻っていく。
「新連載、始めました。よかったらそっちもどうぞー。」
『軽く触れたところで今回の話。』
「龍望って意外にねちっとした性格してるよね。」
『紅月の中ではお金にがめつい、と言う時点で決定していた性格けれど。』
「前回、あれだけかっこいいサブタイみたいなのいっときながらグダグダだねー。」
『まぁ、言ってしまった以上仕方なかったみたいよ。』
「さて、それじゃあ、次回は?」
『えーっと。森へ向かうことになった救世主一行様。魔物が襲ってくる中、森の奥で見たものとは?』
「というわけで、次回。お楽しみにー。」