降りやまない雨
「どこから行ってみる?」
私は少し考え、その漁師の話を聞いてみたいと思った。
「そっか、じゃあ聞いた住所に行ってみるか?」
陽太は嫌な顔もせずそう言ってくれた。
「ねぇ、どうして陽太はこんなに良くしてくれるの?」
突然の質問に陽太はびっくりした顔をした。
「普通、そんな事情を聞いてほっとけないだろ」
そう言って照れた表情を見せた。その表情を見てますます気持ちが膨らんでいった。しかし、この想いは知られる訳にはいかなかった。
その漁師の家は割とすぐに見つかった。中からお酒の匂いがプンプンしている。どうやら今もお酒を飲んでいる様子だった。
「どうする?飲んでるみたいだけど」
そう言って陽太が苦笑する。
「陽太お願い」
陽太の背中を押す。私はその後ろに隠れるようにして、家の中に入っていった。
「お邪魔します。」
そう声をかけ中に入ると、老人がテレビを見ながらお酒を飲んでいた。
最初鋭い視線を向けられたが。私達を見る、何故か笑顔になった。
「おお、兄ちゃん久しぶりだな。元気だったか?」
どうやら陽太の知り合いの様だった。
「知り合い?」
「今日は歩いて来たのかい?」
私が陽太に聞いた時に、老人は意味ありげにそう言って笑った。
「まあいい。どうだ酒でも飲むか?」
「今日は遠慮しとくよ。それより人魚と会った時の話を聞きたいそうだよ。」
そう言って陽太は私に話題をふる。私はまた細かく事情を話した。
お酒を飲んではいたが、意識ははっきりしているらしく。真剣に聞いてくれた。
老人は陽太に視線を移しながら、私の話しに相づちを打つ。
「誰も信じてないが、わしは昔若い男の人魚と酒を飲んだことがあるんじゃ。」
「男の人魚?」
「そうじゃ、只の海水浴の客かと思ったら、なんと魚の胴体を見せよった。わしは間違いなく人魚と出会ったんじゃ。」
少し興奮気味に老人はそう語った。
「どこで人魚と会えたんですか?」
私は男の人魚というのが気になりはしたが。本当に人魚が居るということに衝撃を受けた。
「どこで?どこでかが良く思い出せないんじゃ、すまんのう。」
申し訳なさそうに老人は謝った。
「そんな、沖か浜かだけでも思い出して頂けませんか?」
しつこく聞く私を陽太が止めた。
「お嬢さん、本当に申し訳ない。そんな事情ならユタに話してみるといい。」
老人はそう言って見送ってくれた。
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