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神の後ろには心配そうなゼノンや面白がっているハルモニア、そして呆れたような視線を向けるマルタといった神獣たち。神の隣には舌を出したりおさめたりしているダンがいる。
ユタは相変わらず颯爽とアタクチを迎えに来たから、普通にいるわね。
「ヒメ、私が与えた虹色の目を悪魔に差し出すとは」
「はい。申し訳ございません」
「なぜあんなことをした」
神の表情は相変わらず読めない。悲しそうにも怒っているようにも見える。無表情と言われれば、そうだ。
「アランに幸せな人生を送って欲しかったのです」
「それがお前の考える豊かさか?」
「はい」
「それは今、叶っているのか?」
「分かりません」
「それならお前は人間と同じだ。お前は自分の貧困さを私に差し出している」
アタクチはさっぱり意味が分からなかった。神のことを理解できたことなど中々ないが。
「人間は不足感から豊かさを作り出す。貧困から押し出した豊かさだ。人間に豊かさを問えば自分の中の貧困さを語る。『争いのない世界を作りたい』『世界中のすべての人が幸せになってほしい』『家族で食べるものに困ることなく幸せに暮らしたい』とな。お前も同じだ。お前をここから追放する」
「分かりました。アランの魂だけはどうか地獄に戻すことがないよう伏してお願い申し上げます」
「一度地獄からこちらに来た魂はもう地獄に戻せない。悪魔との約定だ」
「それが聞けて安心しました」
自分の顔は見えないが、きっとアタクチは微笑んでいるだろう。
今回は審判の間に行くこともなく、一発アウトである。
そんなことくらい、分かっていた。神から与えられた虹色の、体の一部を差し出した神獣なんてこれまでいないのだから。しかも相手は神と対極に位置する悪魔。
「すぐに出ていくように」
神の言葉に一礼してアタクチは歩き出す。神は興味を失ったようでこちらを見てもいない。
「ねぇねぇねぇねぇ。何で目を交換しちゃったの? そんなにあのアランっての好き? キョーミあるなぁ。後で俺探してみよっかなぁ。 ねぇねぇねぇ、なんで? 金色の目ってまぁまぁ素敵だけどさぁ」
「ねぇ」だろうが「まぁ」だろうがうるさい鹿野郎ね。無視して歩き続けていたらハルモニアは諦めてついてこなくなった。
「お前が目を差し出さなくても良カァっただろォ。たった二百年待てばあいつはここに送られてきたはずだァ」
ハルモニアよりももっと面倒くさいカラスがついてくる。
「ふん。アタクチのためよ」
「ハァ?」
「アタクチはアランにもう一度会いたかった。アランに一秒でも地獄にいてほしくなかった。アランのためなら虹色の目なんて惜しくなかったし、別にアタクチの命を差し出しても良かった。アランが幸せな人生を送ってくれれば」
「お前ェ……」
「でもそれはアタクチのエゴでしかないわ。神のおっしゃる通り、アランが幸せかは分からないわね」
庭の端までアタクチは到達した。
「それでもアタクチは後悔していない。神のおっしゃる豊かさはアタクチにはまだよく理解できないから、アタクチはここよりも人間に近いんでしょうね」
最後に見たゼノンの顔は、涙でぐちゃぐちゃでアランみたいに情けなかった。
「おいィ! 俺ガァ運んでるカァらってボサっと寝てんじゃねェ! トラップの位置くらい見ろォ!」
ゼノンの声でアタクチはハッとする。地に足がついていない浮遊感とともに目の前がぐらぐらしている。
ゼノンに掴まれたまま城の中を進んでいた。
「カァなりトラップガァ残ってやがるゥ」
「問題ないでしょ」
「ハァ!?」
「思い出したわ」




