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神から与えられたアタクチの名前は「ヒメ」だった。
「おいィ、なにボサっとしてやがるゥ。その三つ頭はもう脅威じゃないんだカァら放っておけェ」
ゼノンの言葉にアタクチは現実に戻る。
そういえば、この三つ頭はアランが倒したんじゃなかったかしら。なんで生きてんのかしら。
「ん? お前ェ、両目とも虹色に戻ってるぞォ!?」
「は?」
そう言われても鏡などないので確認できない。
「なんカァ思い出したのカァ?」
「アタクチの名前を思い出したわ」
「だカァらカァ。じゃあ元の大きさになって上まで登れるカァ? お前ェ掴んで飛ぶの結構重いんだよォ」
こいつ、ほんっとにデリカシーないわね。
「ふんっ。う~ん、元に戻らないわね」
「お前ェ、この状況で本気でちゃんとやってんのカァ?」
「当たり前でしょ。アタクチの下僕が捕まってんだから」
「……ガブリエラ……さまの……」
「ん?」
足元で声がした。三つ頭の真ん中の頭が何か喋っている。左右は気絶している。
「仇……勇者……」
左右はキャインキャインしか吠えなかったけど、真ん中はきちんと喋るようだ。
ぺチンとはたくと気絶した。なんとも呆気ない。
「神獣の大きさにはまだ戻れないわね」
「う~ん、お前ェ。多分まだ全部思い出してないナァ。仕方ねェ、公爵家の姫さんのためダァ」
ゼノンはため息をつくとアタクチの体を掴んで翼を大きく広げて飛び上がった。
「あの三つ頭、魔王が復活しないカァらあんなにちっこいんだろうナァ」
「どういうこと?」
「魔獣は魔王から生まれるカァらな。親玉が弱ってると魔獣も弱るんだぁ。アランがつけた傷もきちんと塞がってなかったもんナァ」
「あんた、アランに会ったことあるわけ?」
「あのなぁ、俺は会ったことはないがアランは有名だ。なんたって……いや、早く思い出してやれェ」
分からない。
アランがアタクチの名前を当てた後、どうしたんだっけ?
相変わらず夜、一人でトイレに行けずピーピー言ってたわ。
「力が完全に戻ってるなら転移ができるんだガァ。お前ェ、ここに来たことあるだろォ? でも、まだお前ェも俺も無理だナァ」
そうだ、山を下りて迎えの使者と合流したんだった。
「こ、こちらは神獣様!」
「なんと! 勇者様には神獣様がついておられる!」
「これは素晴らしい!」
「え、神獣って何?」
使者たちはアタクチを見て喜んでいたが、アランは神獣が何かさえも分かっていなかった。
「真っ白で虹色の目! 神様の遣いである神獣様に間違いありません!」
「あぁ、神は聖剣とともに神獣様まで遣わして下さったのか!」
「魔王の討伐は成功するに違いない」
使者たちは大喜びでアタクチを馬車に迎え入れた。アランは相変わらずきょとんとしている。
「え、ヒメってなんか凄いネコちゃんなんだね?」
「ふふん」
「凄いなぁ。あ、余ってるスノウウルフのお肉食べる?」
「城でのパーチィではもっと美味しいものが出るわよ」
「あ! そうだよねぇ。魔王討伐のパーチィメンバーも紹介されるらしいし。どんな人だろうね」
アランはアタクチが神獣だと分かっても態度が全く変わらなかった。というか神獣が何か理解していないんだと思う。
ノリで馬車に乗ってしまったので、ついでにお城のパーチィでも見て帰ろう。
ただ、そこにいたアランのパーチィメンバーはいけ好かない連中だった。
「勇者様が来ると聞いていたのに。なぁんだ、ただのモサい田舎者じゃないの」
プライドの高い聖女。こいつは王女様らしい。
「こんなひょろひょろの男が勇者? 神はうっかりミスをしたのか?」
神をしれっと批判する剣士の男。アタクチ、こいつ嫌いだわ。
「神獣も一緒にいるのでしょう? じゃあこんな男でも勇者だと迎え入れるべきです、うまくいけば我々も神獣に祝福をもらえるかもしれません」
丁寧な喋り方ではあるが見下している様子がありあり見える魔法使いの男。
げ。聖女は王女であとは貴族のお坊ちゃんじゃないのよ。
こいつら実戦経験あるんでしょうね? マオー討伐舐めすぎじゃない?




