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目が回って気持ち悪い。足元の感覚がふわふわしている。
空中散歩なら好きだけど、これはいただけないわね。
体がどこかに当たった感覚があった。
足でゲシゲシとそこら中を蹴ると、暗闇に裂け目ができて体が投げ出された。
柔らかい地面をゴロゴロ転がる。
「あんの、黒チビ。アタクチになんてことしてくれてんのよ」
起き上がると、目の前には古城がそびえたっていた。
ツタとコケがびっしりだけどアタクチの屋敷よりも大きくて立派だ。オーサマでも住んでるのかしら。
周囲を見回しても誰もいない。離れた山の頂上には白い物がかかっている。
まぁ、あれは雪だわ。
下僕のいる国では雪は全く降らないのよ。ではここは国が違うのかしら。
というか、雪いいわねぇ。
この古城周辺に積もっていないのは残念だわ。あれで遊びたくてわざわざ人間界に下りてきたこともあった。ふっかふかで誰も足跡をつけていない雪の上を跳ね回るの最高なのよ。陽に当たるとキラキラして綺麗だし。
「にゃはは。そこにいたかにゃ! おみゃあ、転移魔法を途中で破ったにゃ~!」
雪に思いを馳せていると無粋な声がした。古城の入り口で黒い塊がぴょんぴょん跳ねている。
「ネコの姿はどうしたわけ?」
「あんにゃの、人間を騙すための変身だにゃ。人間は子猫が好きだにゃ」
まぁ、それもそうね。ってか、こいつ。ネコの姿の時より今のモサモサ塊の喋り方がネコっぽいわね。
「こんなところに連れてきてどういうつもり?」
「にゃにゃ! こんなところぉ!? おみゃー、ふざけるなよ! あの時、散々仲間を殺したくせに! おみゃーにとってはこんなところでも、オイラにとっては大切な場所だにゃ!」
「アタクチ、あんたとは初対面だからあんたを尊重する義理はないんだけど。それに、こんな汚いとこ来たことないわよ」
「にゃにゃっ! いや、あのヘビ記憶にゃいって言ってたにゃぁ。これがそういうことかにゃ」
「あんた、さっきからニャンニャンうるさいわね。ネコじゃないなら静かにしないさいよ」
「にゃー! むかつく! この神獣、ほんっとむかつく! でも、こっちにはこれがあるにゃ~」
黒い塊はぴょんぴょん跳ねる。空間が歪んでそこから出てきたのは――
「アタクチの下僕」
下僕は眠っているのかピクリとも動かない。空間の歪みから出てきて空中に浮いている。転移魔法に巻き込まれたようだ。
「にゃはは! これはおみゃーの大切なものだにゃあ。返してほしかったら最上階までくるんだにゃあ! 赤髪勇者もいないのに来れるかわかんにゃいけどにゃっ!」
パチンっという音とともにモサモサ塊と下僕は消えた。
「ムカつくわね、あのモサモサ。ポンコツだし、アホだし」
モサモサ塊の言動を思い返しても決して狡猾とは言えない。むしろ抜けていてアホだ。しかし、その分あのモサモサの行動が予測ができない。
「下僕もそろそろ結婚式なのだから、さっさと帰らないとね。それにアタクチに喧嘩を売るなら覚悟してもらわないと」
古城をもう一度見上げる。
なんだか見覚えがあった。こんなツタとコケだらけの古城なのに?
いや、むしろ今日は明るい方だ。もっと禍々しい雰囲気なら覚えている気がするのだが……。
それに「赤髪勇者」って誰よ。下僕2番は赤髪じゃないし。
心の中で盛大にブツブツいいながら城に足を踏み入れた。
三歩歩いたところで何かの気配がする。アタクチは嫌な予感がして走った。
金属音がしてさっきまでいたはずの地面に槍が何本も刺さっていた。
「ふーん、罠があるってわけね。だから最上階まで来れるか分かんないとか言っていたわけね」
ムカつきながらスタスタ歩く。
やっぱり、アタクチはここに来たことがある。こんな汚いところに来たなんて不本意だけど。
でも、あの時。あの時はこの石でできた冷たい廊下を歩いたかしら。もっと目線が高かった気がする。
そんなことを考えていたからだだろうか。足元への注意が疎かになっていた。
「うん?」
踏み出した足の感覚がない。そこには地面がなかった。
「ちっ! 落とし穴!」
正確には床の一部が急に抜けたのだ。滑り落ちまいとバランスを取ろうとするが、後ろ足二本では体を支えられなかった。




