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いよいよ明日の宴で後継者が発表される。
これまでユーインと一緒に寝ながら暗殺者が来たら相手をした。アタクチはオボロほど眠らなくっても問題ない。神力もほとんど使っていないから大丈夫だ。
というかオボロが寝すぎなのだ。あれは異常だ。
「オボロ?」
池の近くの定位置にオボロはいなかった。
まったく、どこ行ったのかしら。オボロが後継者決めなんてしてないことは分かり切っている。だが、それと大臣たちがオボロを利用しようとするのは別問題だ。
「オボロを利用しようとするのは相当難しいけど。一応、探りは入れておかないとね~」
オボロは自分さえ良ければオールオッケーなタイプだから利用などできない。オボロの好物を国中から集めて捧げても、オボロは全部食べてそれで終わりだ。見返りや感謝なんて期待してはいけない。
アタクチはキョロキョロしながら庭を歩き回る。白っぽい何かを視界の端に捉えた。
「オボロ」
こんなコーキューの近くで何してるのかしら。臭くてかなわないわ。
鼻の穴をすぼめて小さくしながらオボロの背中に近付く。
「オボ……」
呼びかけようとして思わず、途中でやめた。
オボロの前に色鮮やかな羽根が散らばっている。見覚えのある色だ。赤と青と黄色。
さらに近づくと、嘴を開けたまま虚ろな目をして動かないオウムの姿も見えた。よくよく見ると、血が出ている。
「どう……いうこと?」
オボロがこちらを振り返る。その目に光はなかった。
神力を使って運命の糸を見る。オウムの運命の糸は完全に切れていた。
二人で呆然としていると、コーキューから数名の人間が走ってきた。
「神獣様!」
なんなのかしら、こいつら。走ってきた人間たちはアタクチではなく、オボロに話しかける。というかオボロに向かって叫んでいる。
「この者が見ておりました! こちらの神獣様がその鳥を殺害するところを!」
走ってきた人間は三人。そのうちの一人がアタクチを指差す。
なるほど、そうきたわけね。
ユーインの暗殺がキアランとアタクチのせいでうまくいかない。アタクチやオボロを利用しようとしてもできない。
それで神獣同士を仲違いか。アタクチがいなくなったら好きに後継者を決められると考えているのか、それとも後継者選びを白紙にしたいのか。宴の前日にこんな形で仕掛けてくるとはね。ユーインの暗殺だけを警戒してたわ。
「ご覧ください! あちらの鳥には神獣様の爪の跡が!」
どうやってつけたのか、オウムの体には三本の爪のような跡がついている。失礼ね、アタクチの爪は五本よ。
オボロはぼんやりとオウムを見ている。アタクチもオウムを見た。
結局、名前はどうなったか聞けなかったわね。きっと『ユンファ』になったと思いたいわ。
アタクチが「殺害などやっていない」と口にするのは簡単だ。でも、ここでは悪手だろう。だって、やっていないことをアタクチは証明できないのだから。
アタクチの美しい毛に赤い血や羽根がついていないとか? いつオウムが殺されたかわからない以上あまり意味がない。
今この場で、呆然状態のオボロがアタクチと人間のどちらを信じるかに懸かっている。
こいつ、体が大きいのよね。人間の言葉を信じて、怒りでアタクチに向かってきたら……勝てるかしら。神力、こいつはどのくらい残っているのかしら。ほぼ使ってないはずよね。
オボロがゆらりと体を動かし、アタクチを見据えた。その目にはほの暗い炎が宿っている。
アタクチは頭の中で計算しながら、どちらに転んでもいいように足に力を入れた。




