6
いつもお読みいただきありがとうございます!
フラフラ男はユーインと名乗った。
ユーインがアタクチに城を案内している間も一人だけぴったり影のように離れずについてくる目つきの悪い男がいる。
「俺の乳兄弟で護衛兼補佐、というか暗殺から書類仕事まで何でもこなすキアランだ。生まれた時から一緒だな。用を足す時までついてくる」
アタクチはユーインに抱っこされながら、キアランを振り返る。
無造作に束ねた長い黒髪に切れ長の目。目が細すぎて瞳の色は分からない。めちゃくちゃ睨まれてるように感じるわね。一言であらわすと、感じが悪い男だ。
「あっちは父の妃たちだった者が住まう後宮だ。行くと面倒なことになるから近づくなよ」
ユーインってアタクチが人間の言葉が分かるの前提で話すわよね。
「あんたさっきから当然のように話してるけど、アタクチが話せると知ってたわけ?」
ユーインの波長に合わせて話しかける。こういうことがアタクチにはできるのよ。レディーには内緒話とかあるじゃない。
「神獣だからネコとは違うんだろう? きっと喋れると思っていた」
「ふぅん。で、あんたのお妃はどこにいるの?」
「俺の妃はいない。対外的にいるが、いない」
「人間界のルールは分からないからちゃんと説明しなさいよ」
「父の急死により俺が即位した。それによって父の後宮を引き継いだんだ。だから、父の妃は対外的に俺の妃だ」
「ふぅん。そんなもんなのね。一対一の愛を説く神に反しているわね」
コーキューってあれでしょ、ハーレムってやつでしょ。
「君の言う神とは違う神をこの国では昔から信仰している。だから、後宮が許容されるわけだ」
「聖職者が捻じ曲げたわけね」
「宗教はそんなものだろう。人間たちが自分のいいように改ざんしたのかもしれない。そしてそれを信仰している。俺は神を信じていないけど」
「じゃあ神獣のアタクチのことも信じてないってことね」
「あぁ、そんな意味じゃない。俺の母親は他国出身だからこの国とは神の概念が違う。俺はこの国が信仰している神を信じていないってことだ」
「めんどくさいわね~。それなら何でコーキューがそのままなのよ」
アタクチはめんどくさくなってきた。キアランは相変わらずぴったりとついてきている。この男、足音立てないわね。
「歳をとった妃や希望した妃は実家に帰したが、大臣の娘や富豪の娘が父の子供を産んでいて全員帰すと面倒なことになるんだ。気軽に下賜もできん。だから後宮にとどまらせるしかないわけだ」
「大人の事情ってやつね。あんたが前の国王を殺したの?」
ユーインはここで初めて皮肉気に笑った。
「さんざん母を苦しめたあいつには死んでほしいといつも願っていた。だが、殺したのは俺じゃない。痴情のもつれってやつだ。あいつは女狂いで、後宮の規模は過去最大級だったんだ」
「はぁ、ほんと人間ってめんどくさいし救いようがないわね」
ユーインが、父をいつの間にか「あいつ」と呼んでいることには突っ込まないでおく。
「違いない」
アタクチには広い部屋が用意されていた。明らかに準備が良すぎる。昨日今日で準備できるものなのだろうか。
「あんた、アタクチがついてくるって知ってたわね?」
「いや、一種の賭けだったよ。部屋は気に入ってくれたかな?」
アタクチはユーインを睨んだ後、広い部屋を見回す。白を基調としたタイルが張られた壁に貝殻をかたどった寝台。テーブルの上にはフルーツが並べられ、壁際にはボールやネコジャラシなどのオモチャもある。
「上品でアタクチは好きよ」
「それは良かった。足りないものがあれば何なりと言ってくれ」
「で、あんたはこんなおもてなしをして何が望みなわけ?」
さっさと話せとアタクチはユーインの腕を叩いて急かす。ユーインはアタクチの頭を軽く撫でた。
「神獣に俺の後継者を決めて欲しいんだ」




