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キラキラしたシャンデリアの光が頭の上から降り注ぐ。チリ一つ落ちていない赤い絨毯。絨毯と揃いのように作られた赤いクッションの上にアタクチは鎮座して、下僕5番である執事がクッションを持っている。自らの足で歩く必要がない状態だ。アタクチ、とっても偉そう。偉いけど。
しかし、アタクチのご機嫌は大変悪かった。
目の前でへいこら挨拶してくる貴族たちが何か口にしているが、そんなことはカンケーない。無視で無視の無視である。
下僕が心配して何度かアタクチの顔を覗き込んでくるが、ご機嫌が悪いものは仕方ない。
それは瞳の色のせいである。金色の中に不気味な虹色が混じったままなのだ。
下僕に医者を呼ばせたが、原因は分からない。治らないし腹が立つ。
「神獣様、本日は……」
目の前で挨拶してくる貴族を一睨みすると、ビクビクしながら目の前から消えた。何がシンジューよ、ネコに睨まれたくらいでビクビクするんじゃないわよ。
とゆーかここ、臭いのよ。ケンコクキネンパーチィだかなんだか知らないけど、食べ物と香水の匂いが混じって臭いったらありゃしないわ。アタクチのキレイな鼻が曲がるじゃないの。
新しいオーサマの権威のためにってサイショーに頼まれたからって、つまんないパーチィに来るんじゃなかったわ。
「あらぁ、ヴィクトリア。その白いネコがローズヴェルト公爵家が独り占めしてるっていう神獣様なのかしら?」
ねっとりした女の声が後ろから聞こえる。アタクチ、視界に入れてもいないけどこの女嫌いだわ。声だけで分かるわ。
「え、ええ。そうよ。独り占めしているつもりはないけれど……」
まぁ下僕。何、初動で負けてるのよ。他人に気圧されたら負けよ、あんたこの女苦手なんでしょ。ちゃんと初動で潰しなさい。てかさっきから挨拶してくるって下僕2番はどこ行ったのよ。こんな時にいないなんて使えないわね。
「ふぅん、綺麗なネコだけどなんかフツーよねぇ」
派手な赤いドレスのケバイ女がアタクチを覗き込んできた。くっさ! この女、くっさ!
それに何よ、その変なニードルみたいな髪型。両方とも巻いてんの? 地毛だったら何のジョークなのかしら。ジョークは臭い香水だけにして欲しいわ。いや、そもそもファッションでもおかしいわね。
「ジョゼフィーヌに失礼よ」
「神獣だ、神獣だってみんなこぞって騒ぐから見に来てみれば。神獣様の絵とは全然似てないじゃない。白いってだけでしょう?」
「ちょっと、ダイアン。やめて」
「ヴィクトリア、あなたまさか第一王子に婚約破棄されて傷物になったのが嫌で飼ってるネコを神獣に仕立て上げたんじゃないの? 祝福とやらもしてもらってないんでしょう? おかしいわよ」
なんかヤな感じねぇ、この女。ダイアンって呼んでるけど、下僕の様子からしてもトモダチってわけじゃなさそうね。人間関係ってめんどくさいわねぇ。
「そんなことないわ。ジョゼフィーヌを変に侮辱するのはやめて。それに婚約破棄はされていないわ。元殿下とは婚約解消だもの。書面でもそうなっているわ」
お、下僕が頑張って言い返しているわ。もっとがんばんなさい!
「嫌だわ、ヴィクトリア。何をそんなにムキになっているのよ。ただ私が外国で見た神獣様の絵は、もっと体の大きいネコのようなお姿で尻尾だって12本で虹色が体のどこかに使われていたもの。おかしいと思ってしまっても不思議はないでしょう?」
ダイアンといういけ好かない女は、周囲に語り掛けるように大袈裟に身振り手振りする。好奇心丸出しでこの二人の会話に聞き耳を立てている貴族たちの中には、確かにとばかりに頷く者もいる。
「絵画は正確ではないかもしれないわ。それにジョゼフィーヌは私の前でその姿になったことがあるもの」
いやいやいや、そんなにアタクチをシンジューだって言い張らなくていいわよ。アタクチ、シンジューとかじゃないから。か~なり美しくてとっても高貴過ぎるただのネコだから。
「じゃあ今すぐそのネコにお願いして神獣様のお姿にしてみてよ。あなたのお家にいるんだから簡単でしょう」
はぁ、何なのかしらこのシツレーな女。下僕は押し負けてるし。クッションを持ってる下僕5番の手が震えてるから居心地が悪いし。
アタクチの元々悪かったご機嫌は地面にのめり込みそうに悪くなった。




