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あと1話で第二章終了です。
目を開けると、光があちらこちらに煌めいていた。
何度か瞬きをして目が慣れてくると、草についた水滴に光が反射して眩しかったのだと気づく。
体を起こすと、いたのはマルタと神だけだった。
「ああ起きたかい? ちょっとやり過ぎたかな。まぁこれで文句だけ声高に言っていた天使達も反省するだろう。天使だからと慢心は良くない。自分が正しいという正義感の暴走もね」
石でできたイスもアタクチが入っていた檻も恐らく流されてしまって、ない。滝がなければ同じ場所だと分からないくらいだ。濡れた土の香りが充満している。
ここがこの様子なら、人間界では噴火や洪水が起きた国があるだろう。神の怒りは神の庭だけにとどまらないのだ。
「さて、私は別に君に罰を与えようとは思ってないんだが何か言いたいことはあるかい?」
「はい。アタクチはずっとアイシャとシャルルを救ったと考えていました。でも、違いました。アタクチが彼らに救われていました」
「ふふっ。そうだね。誰かを救おうとするのは救われていない者だけだからね」
神の言葉に視界の端でマルタが体を震わせた。
アイシャとシャルルの祈りを見せられた時に悟った。彼らと一緒に過ごして救われていたのはアタクチの方だった。
「自分が救ってやったのだという傲慢さを知ったのかい?」
「はい……」
「そうか。その気付きがあったのなら、今回はやはり君がルールを破ったことは例外ということにしよう。あそこでサウロという人間が死んでいたらそれはそれで面倒なことになったわけだし。アイシャは失意の中すぐ死んでしまって、少年シャルルは母を救えなかったことに絶望して内乱を起こすからね。そうなるとあの国はむこう五十年ほど荒れる。するとまた人間の祈りの純度が下がるからね。『戦争が終わらないのは神のせいだ』なんて変なこと言われるし。人間界が荒れるのは人間が無意識で望んだからに他ならないのに」
しれっと明かされる未来図に神を見上げて黙るしかない。アタクチは神ほどの解像度で運命の糸が見えるわけではないのだ。
「じゃあね、○○。私がなぜ君達と人間を創ったのか、よく考えてね」
空間がぐにゃりと歪み、髪をなびかせながらその狭間に飄々と神は消えた。
「審判にかけられるなんて。あんた本当に何考えてるんだい? 気でも狂ったのかい?」
神がいなくなってからマルタが呆れたように口を開いた。言葉とは裏腹に目じりのシワの中にうもれた目はアタクチを案じているようにも見える。
「アタクチはアタクチのためにやっただけよ」
アイシャとシャルルのためにやったと最初は思っていた。でもそんなのはただの綺麗事で逃げなのだ。他人のためではなく、アタクチはアタクチを救うために神のルールを破ってまで運命の糸を操作したのだ。ユタに苦し紛れに放った言葉が本当だった。
「マルタも本当は分かってるんでしょう。あんただってあんたのためにやったはずよ。人間の中に何らかの共感できる部分を見つけてね。人間はアタクチ達に強制できないんだから。いつまでも人間のせいにしてひねてるんじゃないわよ」
マルタはゆっくり目を閉じた。返事はなかった。




