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「おい! 上!」
「何っ!?」
アタクチの気配に気づいて、叫びながら矢を構える遠方の人間。馬車の扉に手をかけようとした人間は素早く短剣を構えた。
「そんなもので死ねるのは人間くらいよ」
神に愛されている神獣を何だと思ってるの。
短剣は確かにアタクチを掠めた。仕留めたと思い込んだ襲撃者の目が驚きに見開かれる。
アタクチほど美しいネコはいないものね。
体を掠めたはずの短剣は粉々になって砂のようにサラサラと地面に落ちた。
アタクチの足が地面につくと同時に衝撃波が襲撃者たちを襲う。
「神に祈る気になったかしら」
衝撃波で吹っ飛んだ人間達を優雅に見下ろす。あら、アタクチったらうっかり元の大きさになっちゃってるわ。
「ば、化け物!」
「やめろ! そいつは!」
「まぁ失礼ね」
震えて叫びながら剣を突き出した襲撃者に向かってアタクチは爪を振り下ろす。化け物なんて失礼よね、ちょっと大きくなっただけでしょ。
剣ごと愚かな人間は切り裂かれて再び地面に無様に転がった。
「どうして神獣が……」
「あら、あんたはアタクチが何者か分かってるのね」
襲撃者のボスっぽい男だけが呆然と半身を起こしている。先ほど恐怖でアタクチに向かってきた襲撃者を止めようと叫んだ男だ。
アタクチはジャンプしてその男の元に一瞬で移動した。
「まさかあの女には神獣がついていたのか? だから何度も暗殺が失敗して……」
祝福は万能ではないものの複数から襲撃されない限りは大丈夫だ。祝福を受けた者を毒殺することもできない。
「はは……。運のいい女だと思っていたが。神獣がついてるなら暗殺を引き受けなかった」
ボスっぽい男は乾いた笑いを漏らすと、もぞもぞと動いて正座をし、頭を下げた。
「何のつもり?」
「殺すんだろう? 俺は神なんて信じちゃいなかった。なんなら、いないと思ってた。でも目の前に神獣がいる。つまり神はいるということだ。目の前で存在を見せられちゃあ最後くらいは祈って死ぬさ」
「ふふ」
アタクチは思わず笑ってしまった。
「なんて思い上がった人間。そして頭が高いわ。あんた、アタクチに殺してもらえるほどの人間なの? 人間の血って汚いのよ。アタクチの綺麗な毛が汚れちゃうじゃない。せいぜい、依頼主に依頼の失敗を伝えに行くのね」
ダンッと足を踏み鳴らしてボスっぽい男を吹っ飛ばす。
「はぁ、つっかれた~」
さて、アイシャはどうしたのかしらと馬車を振り返ると、扉が開いている。
血の臭いが充満する中、馬車にゆっくり近付くとアイシャは誰かを抱きかかえて泣いていた。
アタクチが土を踏みしめる音が響くと、アイシャはハッとこちらに顔を向ける。
「シャンタル……なの?」
「そうよ。アイシャ」
今はアタクチ、大きいサイズだものね。アタクチだと分かると安心したのか、すぐに抱きかかえている男に意識を戻した。ねぇアタクチ、初めてアイシャと会話したんだけど驚きとかないわけ?
こう、「え! 喋った!?」とかないの? 感動の再会ってやつよ。
アイシャの腕の中にはコーシャク家の執事見習いがいる。彼の胸はまだわずかに上下していたが、その胸には矢が深々と刺さっていた。
「サウロ……お願い。一緒に来てくれるって言ったじゃない……。もう私を一人にしないでよ」
アイシャはサウロとかいう男に必死に呼びかけているが、アタクチには分かる。サウロの呼吸音はどんどん弱くなっていく。それに、サウロとやらの運命はここで潰える。運命の糸が色濃くそう示している。
アタクチはサウロの命が潰える様子を黙って見ているつもりだった。
「ねぇアイシャ。助けて欲しい?」




