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コーシャク夫人の部屋の前をウロウロしたけど、全然会えないわね。厳めしい顔の大柄な侍女に「奥様はお会いになりません」と追い返される。シャルルもここしばらくコーシャク夫人を見ていないようだ。
神力を使って無理矢理部屋に入ってもいいんだけど、アイシャのこともあるし最後でいいか。
シャルルがアタクチを抱き上げて顔を寄せてくる。
「シャンタル。計画を変更した。明日、母を移動させるよ」
あら、抱っこしたのはコソコソ話のためだったのね。
「もう少し先だったでしょう?」
「公爵夫人が何か企んでるからね。予定を早めたんだ」
「襲撃もあり得るってこと?」
「うん、そうだね。護衛は雇ってるんだけど」
シャルル、あんたその年で護衛を雇えるのね。12歳って人間だとお子ちゃまでしょ? 貴族の世界でも凄いことなんじゃない?
***
新月の、光のない真っ暗な夜。
アタクチはとある馬車の屋根に座っていた。
アイシャは馬車の中。御者を務めるのはコーシャク家の執事見習いだ。
家に食料を運んで来ていた使用人で、アイシャといい仲らしい。シャルル公認だから、アタクチが口を挟むこともないだろう。
アイシャの前にアタクチはまだ姿を見せていない。急いで出発する必要があったからだ。
ガッタンゴットン音を立てながら馬車は今のところ順調に走っていて、シャルルの雇った護衛もちゃんといる。
月の光がないから、襲撃にも人目を忍んだ逃亡にも絶好の機会……こんな時に不謹慎だが星がとても綺麗だ。強い光がないと、他の小さな光がより輝く。あんな風に神が姿を隠したら、人間達は個々で輝くのだろうか。やだわ、アタクチ。今日はロマンチックじゃない?
星を楽しんでいると、なにやら複数の黒い影が動く。来たわね。
護衛が襲撃者と交戦し始めたが、アタクチはまだ動かない。剣の交わる音と怒号が飛び交って、護衛が数人の襲撃者を撃退したところで残りは逃げていく。ふぅん、なんだか大したことないわね。
襲撃者を撃退してしばらく走ると、また襲撃者が現れた。今回もしばらく交戦した後、逃げていく。そんなことが何度か続いた。
「これはまずいわね」
こちらの護衛の負傷者が増えている。そして、何度も襲撃に遭うため緊張が解けない。相手の目的は、こちらが疲弊したところを叩くことだろう。
「一体、コーシャク夫人は何人雇ったのかしら」
襲撃のやり方にコーシャク夫人の執念がうかがえる。コーシャク夫人の実家の力もあるわよね、これ。
「こういうピンチの時、人間は神に祈るのかしらね」
護衛のほとんどが負傷し、馬が射られて大きく揺れながら馬車が停まる。バタバタと護衛達がやられる中で、馬車に走って近づく襲撃者がいた。
馬車ごと崖に転落させるのが手っ取り早いと思うが、アイシャの遺体の一部でも持って帰る必要があるのだろう。
襲撃者が馬車の扉に手をかけようとした瞬間、アタクチは間に割って入るように身を躍らせた。




