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ゲヘゲヘ言いながら現れたのはプリンとエイダン、そしてほっそりした背の高い少年。やだわ、シャルル。枯れ木みたいに細いじゃないの。人間はこのくらい細いのが好みって輩、多いけどアタクチは細すぎて心配になるわ。もうちょっと筋肉付けた方が良いんじゃない?
「シャンタル!」
枯れ木みたいな少年が腕を広げて駆け寄ってくる。
アタクチは迷わずその腕に飛び込んだ。抱き上げられて少年の顔を見上げる。
以前はピィピィうるさく泣いてたクソガキでアタクチの名前も発音できていなかったのに、今ではもう青年になりかけてアタクチの名前もしっかり呼んでいるではないの。
じんわり温かいものが胸に広がった。でも、アタクチはこの温かいものの名前を知らない。
「神獣様! 火を!」
あ、忘れてたわ。アタクチがまたふぅっと息を吐くと侍女の腕の火が消えうせる。
中途半端に立ち上がっていたコーシャクは、火が消えたのを見て力が抜けたように座った。
「アタクチの引っかいた傷もその火傷も一生消えないわよ」
慌てて手当に駆け寄ってきた他の使用人に向かってアタクチは言う。
さっきまで火を消すの手伝わなかったのに、今更駆け寄ってきてるんじゃないわよ。
「あとそいつ、コーシャクの愛人よ」
「あ、やっぱりそうなんだ? じゃあ、公爵夫人に教えてあげないとね。決定的な証拠がなかったんだ」
シャルル、あんた逞しくなったわね。
「ここは臭くてかなわないわ。別の部屋に行きましょう。アタクチを呼んだでしょ?」
「うん、シャンタルのことを考えてたんだ。来てくれて嬉しいよ」
「し、神獣様! どうか彼女に治療をお願いします!」
シャルルに抱っこされたまま部屋を出て行こうとしたら、コーシャクではなく執事が縋りつくように頼んできた。
「お前、何様のつもり?」
アタクチを檻に閉じ込めようとしたものね。
「彼女は私の妻なんです! お願いします!」
あら、夫婦だったのね。そりゃあ必死に消火するわね。
「まぁ、呆れた。その女はコーシャクの愛人なのよ? それを知っても治療を望むわけ?」
「は……はい」
ふぅん。人間って頭おかしいのね。
それとも、アタクチの言葉を信じていないのかしら。愛人の証拠っていっても臭いだけだものね。
「じゃあ、そこのコーシャクがアタクチに頭を下げたら考えてあげるわ。アタクチのお気に入りを脅して妾にしたそうだし? 自分の子供が死んだら妾からシャルルを取り上げて、さらに使用人ともデキてるなんて。ねぇ? 一対一の愛を説く神への冒涜だわ。頭くらい下げて欲しいものね」
シャルルはこんなアタクチを見ても面白そうにしている雰囲気が伝わってくる。子供にはお見せできない雰囲気だけど、この調子なら大丈夫ねぇ。ん? シャルルって何歳になったのかしら。
名指しされたコーシャクの眉間に苦悶の皺が寄った。あんた、偉そうだものね。頭を下げるのは嫌なんでしょうよ。
「旦那様! 妻が死んでしまいます!」
いやいや、腕の火傷とひっかき傷だけだから仕事はできるし命に別状はないわよ。人間が儚いからってそんなんで死ぬわけないでしょ。それとも人間は恥で死ねるのかしら? 傷から病気になったらそれはアタクチの関与することじゃないし。
「っ! 頼む。この通りだ」
いや、だから死なないって。コーシャクは何を真に受けたのか机スレスレに頭を下げる。
「ねぇ、こいつはあんたの愛人なの?」
今なら答えるだろうとコーシャクに問うが、コーシャクは頭を下げたまま答えない。あら、汗がすごいわね。
「アタクチを無視するとはいい度胸ね?」
「単なる出来心です……あれが誘ってきたので」
え、何それ気持ち悪い……。さすがに執事もショックを受けた顔してるわよ……。
ま、これで証言は取れたってことで。
「残念でした。アタクチ、攻撃だけで治療はできないのよ」
アタクチの言葉に侍女はとうとう泣き出し、コーシャクは頭を勢いよく上げた。あら、コーシャク。こいつ騙したなみたいな顔はしないでほしいわね。執事はショックだったのかもう縋りついてこない。呆然と床に座り込んでいる。やっぱり、アタクチのこと信じてなかったわね。
「アタクチにとって大切なのはアイシャとシャルルだけよ。あんた達がどうなろうと爪の垢ほどもキョーミないわ。シャルル行きましょ」
プリンのゲヘゲヘ音をバックミュージックに部屋を退室する。
やっぱりコソコソとフホーシンニューせずに門から入ると面白いことあるわね!




