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アイシャから聞いていたコーシャク家というものにやってきた。
それにしてもでっかい屋敷ね。外周回るだけで一時間はかかるんじゃないかしら。
アタクチは華麗にジャンプして、難なく公爵邸に入った。これって本日二度目のフホーシンニューってやつ? アタクチ、人間じゃないから関係ないけど~。
「何奴!!」
シャルルの部屋はどこかしらと優雅に庭を歩いていたら、叫びながら恐ろしい速さで何かが走って来た。よく躾けられた番犬である。
「お前は……あっ!!」
走って来た番犬のドーベルマンが驚愕している。
「番犬如きが。頭が高いわよ」
「もっ申し訳ありません!!」
速攻、伏せの体勢をとるドーベルマン。
「まさか神獣様がいらっしゃるとは夢にも思わず!」
「誰が口をきいていいと言ったの?」
今日のアタクチは機嫌が大変悪いので、番犬如きが許しもなく口をきくなど言語道断である。
ドーベルマンは細い体躯をさらに縮こまらせると、また伏せた。
「最近ここに子供が連れてこられたでしょう? 子供の部屋はどこ?」
「シャルル様のお部屋はあちらです」
ドーベルマンが示したのは二階の部屋だった。窓は閉まっている。う~ん、あまり神力は使いたくないんだけど。
「あの部屋に行かれるなら協力できます」
「あら、どうやって? お前が踏み台にでもなると言うの? それとも窓ガラスを割るの?」
「シャルル様の部屋には同僚のプリンがいます。呼べば部屋の窓を開けてくれるので、私めを踏み台にして跳んでいただければ」
「そうなの。じゃあ、それでお願いするわ」
「ははっ!」
このドーベルマン、どっかの軍隊にいたのかしら。状況判断が早いわ。それにしてもいいお尻してるわよね。
「おい! 窓を開けてくれ!」
ドーベルマンが二階の窓に向かって話しかける。ややあってから大きな体躯の犬がもそもそと窓を開けた。なんか、やたらデカい犬じゃない? ドーベルマンじゃないわね。
「さ、神獣様。どうぞ」
ドーベルマンはいつの間にか木箱を引き摺ってきており、その上にいた。飛ぶ距離が短くなるので助かる。
「助かるわ。お前の名前を聞いておきましょう。シャルルが大きくなったらまた来るから」
「エイダンと申します」
「覚えておくわ」
アタクチは助走をつけてからエイダンの上でジャンプした。今度も難なく、シャルルの部屋の窓まで到達する。
「ゲヘゲヘゲヘッ」
部屋の中では先ほど見えたデカい犬、ブルドッグが首を垂れていた。黙って眺めてみたが、ゲヘゲヘ以外に言葉を発しない。
「お前がプリンかしら?」
「ゲヘゲヘッ。はい。あっしがプリンです。シャルル様は母親を恋しがって夜に泣いてしまうのであっしが毎晩付き添っとりやす」
ゲヘゲヘって息切れみたいね。大丈夫かしら?
アタクチはシャルルの部屋を見回す。新品のおもちゃや絵本がこれでもかと積まれており、壁紙やカーペットも綺麗だ。シャルルは冷遇されてはいないようだ。
「ゲヘッ。神獣様。発言しても?」
「許すわ」
「シャルル様はその扉の向こうの部屋に。まだ泣いておられるんで。使用人は部屋にはおりません。シャルル様が嫌がって泣きわめいたんで扉の外にしか配置されておりやせん。ゲヘッ」
「あら、ありがとう」
コーシャク家の犬ともなると、報連相がしっかりしてるわね。
アタクチはわずかに開いた扉の隙間からシャルルのいる部屋に入った。
「うっえぐっ。ママ……ママァ……」
天蓋付きの大きなベッドの上で、アタクチの記憶よりも大きくなったシャルルが蹲って泣いていた。黒髪はアイシャ譲りなのよね。
「はぁ。ピーピー泣いて情けないわねぇ」
「ゲヘゲヘッ。いや……神獣様……一応、まだ三歳なんで……」
後から入って来たプリンが何か言っているがスルーする。アタクチは神獣だから人間と会話できるが、これまでアイシャとは会話してこなかった。でもシャルルには今、アタクチの声が聞こえたはずだ。
シャルルはハッと怯えた様にアタクチを見た。
瞳は憎たらしいことにコーシャク譲りよね。コーシャクってオーケの親戚なんでしょ? オーゾクって皆、瞳が紫色らしーのよ。シャルルの瞳も紫色よ。これが紫じゃなかったらアイシャのところにいれたかもね。
「サータル?」
「違うっつーの。シャンタルよ。ちゃんと発音しなさいよ」
久しぶりの再会は説教からだった。




