3
いつもお読みいただきありがとうございます!
神の庭と女のところを行き来する。
神獣たちは食べなくても問題ないが、定期的に神の庭に戻らないと神から与えられた神力が弱まっていくのだ。
その女の名前はアイシャといった。
異国出身の踊り子で劇団の一員だったようだ。
この国で公爵に見初められ、この国や他国で興行できなくさせると脅されて妾になったという。この辺りの情報はアイシャの周囲を歩いていたら簡単に手に入った。
脅されて妾になった割にアイシャは見る度に楽しそうにしていた。
アタクチがしばらく神の庭にいる間にアイシャは男の子を生んでいた。
赤子は嫌いだ。うるさいし、乳臭いし、何よりサルの様にクシャクシャだ。だが、アイシャの口ずさむ子守唄は好きだった。
アイシャの子守唄でチンクシャの赤子と一緒にアタクチは眠る。とても心地よかった。
「シャルルという名前なのよ。ねぇ、あなたはシャルルより先にここに来たからシャルルにとってはお姉さんね。シャンタルって呼んでもいいかしら?」
人間たちはアタクチ達に勝手に名前を付けて呼ぶことがある。アタクチ達には神から与えられた名前があるのにも関わらず、だ。
人間というのはとても傲慢な生き物である。そして愚かなのに頭が高い。
だが、アタクチが気に入っている人間がつけた名前ならば別だ。それに「シャンタル」という響きはアタクチを満足させるほど美しかった。
アタクチが喉を鳴らすとアイシャは嬉しそうに笑う。
「シャンタルはお姫様みたいに綺麗よね。シャンタル姫かしらね」
眠るシャルルのほっぺをツンツンとつつく。アタクチも真似して触る。弾力のあるその感触はアタクチを満足させた。チンクシャだけど。
ある日、アイシャはコーシャクからの贈り物だと真珠のネックレスを見せてくれた。
「シャンタルとおんなじ白ね。でもシャンタルの方がずぅっと綺麗だわ」
アタクチは真珠を触った。スベスベしていて他の宝石とは輝きが違う。
「気に入ったならシャンタルの首につけるのにしちゃいましょう。シャルルが何でも口に入れちゃうから、私あまりアクセサリーはしたくないもの。シャンタルがつけてくれると嬉しいわ」
人間から身に付ける何かを貰うのは初めてだった。アイシャはチェーンを黒いリボンに代えてアタクチの首に付けてくれる。
アイシャの家は居心地が良くてついつい長居をした。だから神の庭に戻った時、回復にいつもより長い時間が必要だった。
神の庭から人間界の様子を見るには、泉を覗くしかない。ただ、その泉で人間界を見ることができるのは神だけだった。神は気まぐれにアタクチ達神獣を呼びつけ泉を通して人間界の様子を見せてくれるが、その時以外は泉に近付くのをアタクチ達は禁じられていた。
でもアタクチはそのルールを破って泉に近付こうとした。アイシャの様子を見たかったのだ。
神しか人間界の様子を見れなくても、アタクチにも泉に入れば何か見えると思ったのだ。
「おい、やめろォ!」
アタクチが何をしようとしているか気付いたゼノンが無理矢理止めようとしてくる。こいつ、昔から勘だけはいいのよね。泉の方に行こうとしたアタクチの前に翼を広げて立ちふさがる。
そこにふらりと出てきたのは、シカの姿をした神獣のハルモニアだ。
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。いいじゃないか。泉に何で近づいちゃいけないのか興味あるしぃ? もしかしたら泉に入ったら僕達も人間界の様子見れるかもしれないしぃ?」
チャラい。「まぁ」って何回言う気なのよ。
こいつは先端だけ虹色に光る角を持っている。だが、角によく泥をつけているからせっかくの虹色が台無しだ。
「神様が決めたルールだろォ! 泉には近づくなァ!」
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。ほらほら、女の子に好かれるには願い事はかなえてあげないと」
ハルモニアはとにかくチャラい。このチャラさで祝福を与えまくって国が一つなくなったのよ。
ギャーギャー騒ぐゼノンとチャラチャラしているハルモニアを置いて、アタクチは泉のほとりまで来た。
「おや○○、どうしたんだい? 泉に来てはいけないよ」
姿は見せないが神の声がする。おかしい、神はアタクチの名前を呼んでいるはずなのに名前の部分だけ音が飛んで聞き取れない。
「もしかして最近のお気に入りが気になる? 今大変みたいだよ? 早く行ってあげた方がいいかもね」
アタクチは神のその言葉に反応した。おざなりだが頭を下げ、滑り台に向かう。
これも神が創ったものだ。人間界にはこの滑り台で下りる。神は滑り台が好きなのだ。子供っぽいとか言ってはいけないわよ?




