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アタクチは空を歩いていた。空中散歩だ。
「あら、アタクチ。空を歩いてるわ! すごくない!?」
隣を飛ぶゼノンに同意を求める。
「まぁ、オレにとったら普通だなァ」
「あんた飛べるものねぇ」
下を見ると、庭に大量のハトやシカやイノシシが見える。アライグマらしき動物がこちらに手を振っている。
第一オージはカラス達に掴まれてどこかへ運ばれて行くようだ。カラスが掴んでも案外服って破けないものね。
それにしても空中散歩っていいわねぇ。空をてちてちと優雅に歩いているだけだけど、移動が楽だわ。あと、なんだか懐かしい気持ちがするもの。
しばらく歩くと平民たちがこちらを指差して何か叫んでいる。
高貴なるアタクチを指差すなんてマナーがなってないわね。
「神獣様だって叫んでるんだよォ」
その言葉を聞いてアタクチはため息を吐く。
「どいつもこいつもシンジュー、シンジューってうるさいわ。アタクチ、そんなこと一言も言ってないわよ。大体、アタクチがシンジューだって言ってないのに何で人間如きがシンジューって分かるのよ」
「そりゃあァ……」
言いづらそうなゼノンにアタクチはさらにため息を吐く。
「見たいものだけ信じ過ぎなのよ。本に載ってるのと見た目が似てるってだけでしょ! アタクチはジョゼフィーヌよ!」
ポン
ん? どこかから可愛い音がしたわね?
あら。さっきまで空中を確かに踏める感覚があったのに、今はないわ。
「お前ェ! ネコに戻ってるぞォ!」
「アタクチは元から高貴なるネコ様よ!」
「っ落ちてってるぞォ!!」
叫ぶと同時に空中を踏めず、アタクチの体は落ちていく。
う~ん、落ちてるわね。この高さならケガするかしら? それともそれだけじゃ済まないかしら? けっこう上空にいたものねぇ。
後ろから追いかけてきていたであろうモモンガと乗っているハリネズミが大慌てしているのが見える。
ゼノンが叫びながらアタクチを追いかけて急降下してくる。
ゼノンの叫びを聞いたカラス達が第一オージを池にほっぽってこっちに向かってくる。
「あら、みんな高貴なるアタクチを助けようと必死ね」
「お前ふざけんなァ!」
「あらアタクチ、落ちて死ぬならそこまでよ。毎日やりたいことはやってきたもの」
「てめェェ!! あの時と同じこと言うんじゃねェ!!」
「ふふん、みっともないわよ。ゼノン。泣きそうになっちゃって。アタクチ、たいして後悔はなくってよ。今、この瞬間も楽しいわ」
「楽しいのはいつもてめぇだけだァ! またオレを一人にすんのかよォ!」
「あら失礼ね。アタクチの人生なのだからアタクチが楽しまなくちゃ。それに死ぬときは大体一人でしょ」
どうもカラス達は間に合わないようだ。
ゼノンもこの距離じゃあアタクチが地面に落下するまでに間に合わないわね。この速度なら下手したらゼノンまで地面にめり込むわ。
あら、今度は城から大量にヒツジが出てきたわ。面白いわね。
「クソォ!」
なんであんたがそんな顔してんのかしら?
ゼノンの真っ黒な瞳から涙がこぼれてアタクチに向かって落ちてくる。
「ゼノン。あんたの涙は美しいわね」
次の瞬間、アタクチは白い光に包まれた。
明日で第一章は終わりです。




