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アタクチとゼノンの目が点になる。
オーヒの後ろからトコトコ出てきたのはピースサインを高々と掲げたハリネズミだ。よく見ると、オーヒの丈の長いドレスはハリネズミの針で何か所も床に縫いつけられている。
これで転んだのね。
アタクチは軽い身のこなしでオーヒの元にジャンプした。体が大きくなってもアタクチの身のこなしは変わらないわね。
「っイタ!」
自分が転んだことにやっと気付いて起き上がろうとしたオーヒの顔を、アタクチご自慢の爪で引っかく。傷口からバイキン入って化膿したらいいのよ。
そしてすぐに息苦しそうな第一オージのところに舞い戻り、頭を押さえつける。
アタクチのおみ足で踏んでもらえるなんて、泣いて感謝してよ?
「平民風情……じゃなかった。オーゾク風情がアタクチとアタクチの下僕に干渉しようなんて五万年早いのよ」
そう言いながらアタクチの美しい爪を第一オージの喉元にツーっと滑らす。第一オージがジタバタするから皮膚が切れて血が出てるわよ。
ハリネズミは針を相変わらずオーヒのドレスに刺したり、脛にツンツンしたりしている。人間の脛って急所らしいわね。
ゼノンはアタクチに便乗して第一オージの目をつつこうとしている。
「いっ慰謝料なら払うわ! それに婚約の破棄は子供が勝手にやったことよ!」
王妃は針のせいで起き上がれずに、無様に床に倒れ伏したまま叫ぶ。
これが飼い犬に手を嚙まれるってやつ? 飼いハリネズミに針を刺されるってやつ?
「あら、イシャリョーを払うのは当たり前でしょう? それにアタクチは誰が勝手にやろうとカンケーないのよ。アタクチが気に喰わないだけよ」
「公爵家よりも王家で保護された方があなたも幸せだと思って! 陛下はあなたを神獣だと信じていて王家で保護しろと!」
「頭が高いわ。本当に、頭が高いわ。アタクチの幸せを人間如きが図ろうだなんて。あんた達、オーイを退いて他に譲りなさい。後釜はこれと第二オージは駄目よ」
「そ、そんな……」
「あら、別にいいのよ。退かなくっても。でも、退かなかったらどうなるかしらね~。アタクチ、全部の部屋のカーテンをダメにして床やカーペットや壁を日焼けさせてあげても良くってよ?」
「おぃぃ、なんかそれ地味じゃねぇカァ?」
ゼノンが口を挟んでくる。今、いいとこなのよ! アタクチ、カーテン破きたかったのよ!
「調度品を全部割ってあげても良くってよ?」
色んな音が出て楽しそうね!
「なんカァ小さいなァ。今なら火でも吹けるんじゃないカァ?」
「そぉ?」
火ってどうやって吹くのよ。試しにオーヒに向けてフゥッと息を吐いた。
オーヒのドレスの端にブワッと火がついた。
「ギャアア!!」
「ついた! ついたわよ!!」
アタクチはコーフンした。火ってとっても美しいものね。やっぱり高貴で美しいアタクチは火も吹けるのね! 消し方分からないけど。
悲鳴を上げてのたうち回るオーヒ。さっさと逃げるハリネズミ。やっと到着した騎士達が慌てて消火をしている。
第一オージがどさくさに紛れて逃げようとしたので、アタクチは再度踏みつけた。そろそろコイツ踏むのも飽きてきたわね。
「そいつはあいつらに渡せェ」
ゼノンの視線の方向を見ると、バルコニーの手すりはカラスだらけだった。何羽ものカラスが黙ってこちらを見ている様はむしろ不気味だ。
火から逃げて来たハリネズミが「イエーイ!」なんて言いながら、第一オージの手と足を紐で器用に縛っている。モモンガまで一緒に手伝っている。こいつら、器用よね。
アタクチはすでに興味を失った第一オージをバルコニーに蹴り出した。もう一回サービスで引っかいといたわ。
「じゃあ、分かったわね? ちゃんとオーイは譲るのよ? あんた達みたいなクズがトップにいるから国が腐ってくのよ」
ユーインがそう言ってたわ。んん? ユーインって誰かしら? 下僕2番の名前とも違うし……。
とにかくアタクチ、お腹空いたから帰るわ。いっぱい運動したもの。アタクチの屋敷で美味しいご飯が待っているわ。
アタクチはバルコニーから空中へと身を躍らせた。
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あと2話で第一章は終わりです。




