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ゼノンって名前、かっこいいと思ったんだけど。
神妙な顔で黙り込んだカラスをカゴの中から見上げる。
「ねぇ、第一オージの部屋にも窓があるの? 外に出られないように封鎖されてない?」
「いや、窓は封鎖されてなかったなァ」
「ふぅん」
オーケって子供に甘いのかしら。それとも逃げてほしいのかしら。
「あの部屋だァ」
アタクチはまたバルコニーに降り立つ。正面から堂々と入らないとね。
あ、扉からじゃないから正面ではないかしら。でも、アタクチが入るところが正面入り口だから問題ないわね。
木立の中からカラスが一声鳴いた。
「どうやらァ、脱走したことがバレたみたいだァ」
「アタクチは別に問題ないけど、ハリネズミ達は大丈夫かしら?」
「問題ないィ。プランびーだなァ」
「ゼノンって意外とデキる男よね」
「さっきは小さい男って言ってただろうガァ」
「根に持つ男は嫌われるわよ」
ボスカラス改めゼノンはさっきのカラスに応えるように鳴いた。
ま、こいつが名前を気に入らなくてもアタクチは呼ぶわよ。だって、この高貴なるアタクチがつけた名前なんだから。
「おい、馬が動かないぞ!!」
城の中にいるどの馬も一斉に動かなくなり、馬車が立ち往生した。出入りの商人などの馬車も途中で動かなくなった。鞭で打っても馬は尻尾を振りながら、地面に鼻をこすりつけたり、欠伸したりしている。
「誰か! 王妃様のペットのモモンガとハリネズミが脱走した!! 大至急探さないと!」
やっと王妃のペットの脱走がバレた。ちなみにハリネズミとモモンガはたくさん働いたので休憩中だ。
「きゃあ! なんで書類部屋にサルとヤギがいるのぉぉぉ!!? あぁぁ! 重要書類が!」
サル達がウキウキと書類を適当に掴んで投げ、投げ捨てられた書類をヤギがもっしゃもっしゃ食べていた。ヤギから書類を取り上げようとすると、サルが襲い掛かってくる。すでに何人か文官が引っかかれた。
「部屋にサソリが! 騎士を呼んでくれ!」
ずれたカツラに構いもせず、会議中だったガーライル侯爵が部屋から飛び出す。ちなみに前のカツラはボスカラス改めゼノンに盗られたので、新しいカツラである。
「なんでサソリ???」
「こないだ砂漠の国の大使が来た時に荷物に紛れ込んでたのか!?」
サソリはテーブルの上で参加者たちに向けてハサミを振り上げていた。
「両陛下の衣裳部屋にガが大量発生! それとネズミがドレスかじってますぅ!!」
「ガよりネズミが大変じゃないの!」
「ガは鱗粉に毒を持つ種類です!」
「なんでそんな詳しいの!?」
「うちの田舎に出る奴と同じです~」
衣裳部屋の前では中に入れず、侍女達が大騒ぎしている。
「お菓子と野菜にアリが群がってます!」
「おい、アフタヌーンティーに間に合わないぞ!」
「数が多すぎて取れません!」
キッチンも修羅場だった。
「庭にシカとイノシシが! イノシシは花壇を荒らして、シカは樹皮を剥いで食べてます!」
「このままじゃ木が腐るぞ!?」
「花壇の土を掘り返しすぎて穴が出来てます!」
「ビーバーが木を齧ってるんですけど!?」
シカを追い払おうとすると地上からはイノシシが襲ってきて、空からはカラスが襲ってくる。駆り出された騎士達は糞だらけにされている。
「大変です! 噴水でハトが水浴びしています!」
「うるせぇ、ハトなんてほっとけ! それどころじゃねぇ! サソリはどうなった!?」
「ハトが多すぎて噴水の水がなくなってます! あとですね!」
「まだなんかあんのか!?」
「アライグマがいて可愛いです!」
「お前いい加減にしろよ!」
「あ、隊長! 後ろからヒツジの大群が……!」
「なんで城の廊下にヒツジがいるんだよぉぉ!」
廊下はあっという間に走るヒツジの大群に埋め尽くされた。たまに牛も混じっている。
ヒツジの背にはたまにインコやオウムが乗っている。
ガーライル侯爵や国王達と会議中だった宰相は複数のサソリに威嚇されながら跪いて祈った。サソリは一匹ではなかったのだ。
「これが……神獣様のお怒りか……」
ジョゼフィーヌがその場にいたら、「アタクチの怒りよ!」と言ったことだろう。




