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黄金の薔薇①

昼下がりの貴族学院、その庭園の東屋にて。


「シャロン様。私は貴方と共にいられることを、光栄に思います」

(あぁ……私は影武者なんですけど……)


親しみを込めて笑みを浮かべる公爵令息に、シトリーは動揺を隠すしかなかった。

どうしてこんなことになったのか。

影武者とは主人の身代わりであり、命に代えても守り通すことが使命。

しかし、こんな親身な言葉まで受け止める必要があるのか。

漆黒の髪を靡かせ、深紅の瞳で真っ直ぐに気持ちを伝えてくる彼は、今のシトリーには堪えた。


「どうかしましたか?」

「ウィルミア様……私は、その……」

「仮面であれば問題はありません。王家関係者以外の者に素顔を見せられないのは規則上、仕方のないことです」


残念ながら仮面(そっち)ではない、とシトリーはツッコみたくなる気持ちを抑える。

自分は影武者なのだ。

主人であるシャロンの身代わりでしかなく、その言葉には応えられない。

仮面も外せないし、影武者であるということも知られてはならない。

彼女は今、板挟みの最中にあった。


「それでも……」

「えっ?」

「仮面の有無など関係ありません。叶うならば、私は貴方のことを知りたいのです」


追い打ちである。

ウィルミアの微笑みがシトリーの心に突き刺さる。

今まで多くの羨望や敬いの言葉を浴びてきた彼女だったが、ここまで強力な攻撃は初めてだった。

主人が受けるべき確かな思いを、代わりに抱えてしまうという罪悪感。

言葉の重みが彼女の心に圧し掛かってくる。

それでも主人に選ばれた影として、屈する訳にはいかなかった。


「一つ、宜しいですか」

「はい」

「何故、そこまで私を……?」

「知りたいという思いに、理由が必要なのですか?」


愛情を向ける理由を問うと、混じり気のない疑問を告げるウィルミア。

先に胃薬を飲んでおくべきだったと、彼女は後悔した。


「確かに、シャロン様のお言葉も尤もです。私達の関係は、あくまで陛下が条件を課したことが始まり。ですが私は、貴方に確かな愛を示したいのです。そして愛とは、相手を敬い知ろうとする思いのはず」

「私に対する敬意……それがウィルミア様の動機なのですね?」

「無理強いは致しません。私との対面に不都合があるのでしたら、付き人を連れて頂いても構いません。専属の方がいらっしゃるという話も聞いておりますので」

「……もしや、彼女(・・)のことですか?」

「彼女、がどなたかは分かりかねますが……やはり不服でしょうか?」


ほんの僅かだけ寂しそうな顔を見せたのは、シトリーの気のせいだったのか。

分からないまま思い返す。

シトリーは建前上、王女として従者を一人連れていた。

今この場にはいないが、学院の中では基本的に傍に置いている。

大よそ同い年くらいで冷静沈着。

何事にも動じない金髪少女が、彼女の従者だった。

そして彼は、シトリーが一対一での対面を避けたがっていると思っているようだ。

ただそれは半分当たっていて、半分間違っていた。


「いいえ。ウィルミア様の仰るとおり、確かに目付け役は必要でしょう。あらぬ噂を立てられる訳にもいきません」

「そうですか。安心いたしました」

「安心、ですか?」

「仮に拒絶されていたのなら、と考えていましたので。その時は、貴方の手で処分されることも受け入れ……」

「しませんよ?」


首を垂れる姿に、シトリーは反射的に答えてしまう。

一体、何が彼を突き動かしているのか。

確かな愛を示したいと言っていたが、アッサリ自分の命を投げ出そうとする言動は、少し行き過ぎている気もする。

当然、シトリーにそんな判断が下せる訳もない。

本当に困ったことになったと、仮面の裏で顔を引きつらせる。


(ど、どうしてこんな……。まずは姫様に報告しないと……)


何故ここまで悩んでいるのか。

それは先程話題になった、専属の従者が原因だった。

落ち着き払い、常に彼女の後ろで様子を窺っている従者は、誰よりも心強い。

これまでも、シトリーに知恵と勇気を与えてきた。

だからこそ、より一層この板挟みに拍車をかける。

何を隠そうその従者こそ、正体を隠した本物の第二王女、シャロン・ヴァルメールなのだから。

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