ショートホラー第6弾「遺影」
葬儀会社の人の言い回しなど、正しいかやや微妙ですがご了承ください。
「この度は……」
俺は葬儀会社で働いている。
大好きだったおじいさんが亡くなった時に葬儀を取り仕切ってくれた葬儀会社の人達を見て正体は自分もあんなふうになりたいと思ったからだ。
哀しみの最中に居る遺族の皆さんの支えに少しでもなりたい。
そんな風に考えながら日々、仕事をしているのだが……
「あの遺影の写真ですが、これでお願いします」
「はい。お預かりします」
ある日の事。
俺はある葬儀で遺影に使う写真を遺族から預かった。
こいつの背景などを加工して遺影っぽくしていくわけだ。
写真にはタピオカミルクティーを持ち笑う老婆の姿が。
「んんん?」
あれ、おかしいぞ?
「えーと、本当にこれでいいんですか?」
思わず聞いてしまった。
きょとんとする遺族だが先輩は。
「素敵な笑顔の写真ですね」
と横から入りそのまま受け取ってしまった。
奥に引っ込んでから俺は先輩に聞く。
「先輩。あれ、まずくないです?」
「うーん……」
先輩も困った様な貌をしている。
そりゃそうだ。
「だって今日のご遺体、『19歳の女子大生』ですよ?」
そう、亡くなったのは19歳の女子大生だ。
一方で遺影に使ってくれというこの写真は……どう見ても80歳くらいの老婆のもの。
明らかに別人だ。
もう一度データを確認するがやはり今日のご遺体は不慮の事故で亡くなった19歳のものだ。
「はぁ、お前にもばあさんが見えてるんだよな」
「はい。他人の写真なんて流石にまずいですよ」
「…………いいんだよ。だって『同一人物』だから」
「はい!?先輩はおかしくなったんですか?どう考えてもご遺体より年取ってるじゃないですか。こんなの……」
「この写真さ、ばあさんは何を持ってる?」
「タピオカミルクティーですけど……」
「何かさ、これ自撮りっぽい写真だよな?」
「はい。確かにそうですね」
「じゃあ、やっぱりそれで合ってるんだよ」
先輩はため息をつきながら話してくれた。
時々明らかに『ご遺体より歳を取った写真』を遺影として出されることがある。
だが家族にはご遺体本人と認識されているようでしかもよくよく見ると写真の中の人物は歳こそとっているがどこか遺体と同じ若さを感じさせるような仕草をしている。
そして家族たちにはやはり『遺体と同じ年齢』に見えているらしい。
つまり、俺達の認識が『バグってる』だけだ。
「何でかはわかんねぇけどな。まあ、これでいいんだよ。さっさと終わらせようぜ」
結局若いご遺体に年取った遺影という謎の葬式はそのまま進んでいき、無事終了した。
お経を唱えるお坊さんも特に何も言わなかったのでやはり俺達の認識がバグってるのだろうか。
あれから10年。年に1回か2回くらいのペースでそういう葬儀に出くわする事がある。
最初は何か法則が無いのだろうかとか探ろうとしていたが結局共通点も何もわからず。
結局俺も先輩と同じで『気にしない』という選択肢を取る事にした。
「素敵な笑顔ですね。それではお預かりさせていただきます」
俺はそう言うと、『遺体より歳を取っている遺影用の写真』を遺族から預かった。