嫌と言えない人種
土曜日。
「フミさん……。俺、目が痛いですよ」
ウチにやってきてシロを見たカズマの第一声がこれだった。
「カズマ、お前から見てシロはどう見える?」
「オーラの質がやばい。量もやばい。この子って人間じゃない、よな? もしかして、フミさんと上位人の子供とか?」
「俺の血は入ってない。だが俺の子で間違いないぞ。言うなれば養子だ、養子。あとシロはカミサマだ」
「マジで言ってる?」
「マジもマジ」
「詳しく。詳しく聞いてもいいか? と言うか、話してオナシャス」
俺は頷き、シロに外にいるから何かあったら声をかけてと言って扉を閉め、壁にもたれて会話を再開した。
給料日にカスミちゃんへ貢いでハメを外しすぎて寝ゲロしてクソメガミとヤッて、と順を追って話をする。俺がカズマに話すのは定めだったかのようにするすると言葉が口から流れた。
「……で俺はシロを育てている。もう1度クソメガミとヤれるけどどうだって言われたら鉄アレイをヤツの顔面に投げつける事も厭わん」
俺は天に向かって中指を立てた。養育費をもう1回寄越せ。頼むから。2回でもいいぞ。
「カミサマに向かってその態度はダメなんじゃないかと思うが……」
俺の手を下ろそうと自分の手をのばすカズマに向かって俺は吠える。
「クソなもんはクソなんだ。上に行ったからってクソな世界に変わりはない」
「マジかー」
カズマと俺とで天を仰ぐ。
しばらくふたりで穴の空いた天井を見ているとカズマが
「吸ってもいいか?」
とジャケットの内ポケットからシガーケースとマッチを取り出してぴこぴこと振った。
俺が頷くとカズマはケースから煙草を取り出してマッチで火を着けた。
カズマの吸う煙草の匂いは正直言って苦手だ。
でも、数少ない友人でしかも筆頭だと言ってくれている手前、割り切って好きに吸わせていた。まあなんて定番の嫌と言えない日本人でしょうか。
カズマが吐き出した煙がいつも俺にまとわり付くのが嫌だった。しかし、今吐き出された煙はきらきらと煌めき俺にまとわり付くこと無く周囲に広がった。
「フミさん。俺がこれを吸うの嫌だったでしょ」
2本の指で挟んだ煙草をカズマが揺らす。俺は静かに首を縦に揺らした。
「そりゃそうだよ、フミさん。俺が煙で巻いて無ければ堕ちる所だったんだから。いやホントに」