第一章 6話 反撃
「ふわぁ〜〜、むちゃくちゃ寝た気がする」
大きなあくびをして窓から外を見る。
太陽が高く登っており、街の雑多な音が聞こえて来る。
「完全に寝過ぎた」
いまからダンジョンに行くのも億劫に感じるので今日は休みにしてゆっくりしようと思う。
「エリドおはよう!ずいぶん寝てたねぇ」
「カルアさんおはようございます。お陰で昨日の疲れは取れました!」
「そうかい!とりあえず少し早いけど昼ごはんにするかい?」
「そうですね、よろしくお願いします」
久しぶりに温かい昼ごはんを食べた。
「さてと、とりあえずギルドに行って換金してくるか」
昼ごはんを食べた後、昨日のダンジョンでいっぱいになった袋を持ってギルドに向かった。
「換金お願いします」
「かしこまりました。確認するのでお待ちください」
そう言って受付の人が裏に行こうとした時にギルドの扉が大きな音を立てて開いた。
扉の方を見るとセッタと見知らない男が1人立っていた。
「おい!受付のねーちゃんちょっとまちな!」
また絡まれるのかと思っていたら受付のお姉さんが呼び止められたら。
「換金のために素材を持っていくので並んでお待ちください」
この人もなかなかの胆力だな。
ギルドで働いていたらこんなことは日常茶飯事なんだろう。
「その素材のことで大事なことがあるだ」
「なんでしょうか」
「その素材はこの男のもんだ!言ってやれ!」
セッタは横にいる男に指をさしたあと促すように背中を押した。
「その素材は俺たちのパーティーが狩ったものなんだ!エリドに素材の袋を盗まれたんだ!」
「は?!」
いきなり知らない男に窃盗犯扱いされて大きな声を出してしまった。
「おいおい〜、何驚いてるんだよエリド、そんな演技したって見苦しいぞ」
俺の驚いた表情をみたセッタが嫌な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「演技でもなんでもありません。そもそもこの人と会ったこともないです」
「お?シラを切るつもりか?じゃあ俺が説明してやるよ」
「エリドが1人で寂しくしているところをこの男がパーティーに誘ってやったんだ!なのにエリドはお金に目が眩んでこの男のパーティーが頑張って倒したホーンラビットの角を奪って逃げたんだよ!」
セッタは周りに言い聞かすように大きな声で説明した。
「いえ違います。私はこの人にパーティー誘われていません。もう一度言いますがこの人と会ったことすらありません」
「はぁ…お前が素直に認めるなら示談で済ませようとしてたのに」
「そう言われましても、俺は何もしていません」
「じゃあなんでお前は昨日の夜中袋を抱えながら急いで走ってたんだ! 俺は見たんだよ! お前が周りを警戒するように必死に走ってる姿をな!」
なんでこいつはそのことを知っているんだ?
帰りはほとんど人がいなかったはずだ。
まさか!こいつずっと俺のことをつけてたのか?!
なまじ真実をおりこんでいるあたりセッタの狡猾さが表れている。
そんなことを言われたとしても理由を説明すればいいだけか。
口を開けようとしたところで俺たちの様子を見ていた周りの中から1人の男が声を発した。
「お、俺も見たぜ!こいつがキョロキョロしながら走ってるところ!」
またも、会ったことも話したこともない男が現れた。
暗い中俺がキョロキョロしていたのを見えているのなら俺の近くにいないとおかしい。
こいつもセッタとグルだろう。
どいつもこいつも暇なものだ。
「ほらよ!他にも証人がいるんだよ!どうせここ最近換金してた物も全部盗んだ物なんだろ!」
セッタは捲し立てるように話し出す。
それにより静観を決め込んでいた、受付のお姉さんも疑惑の目を向けている。
周りの声も俺がやったんじゃないかと声が聞こえてくる。
まずいな…このままじゃ俺が窃盗犯としてこの街のギルドから追放される。
もしくはギルドのブラックリストに登録されるかもしれない。
ダンジョン内のことは監視がないためどうしても証人の発言が優先されてしまう。
どうすればこの状況を切り抜けれるか考えていたら聞き覚えのある声が聞こえた。
「この人は窃盗犯じゃありません!」
「あぁ?なんだてめぇ?でしゃばってんじゃねぇぞ!」
「ぼ、僕たちはこの人がホーンラビットをたくさん倒してるところを見ています!そして、この男の人はダンジョンに来ていません!ぼくたちも長くいましたが会っていません!」
そこには、前にウトルダンジョンで忠告してきた男の子が立っていた。
セッタの恫喝に少し怯えながらもはっきりと言いきった。
「チッ……めんどくせぇなぁ……、だったら証拠はどこにあるんだよ!」
「これです!」
男の子たちのパーティーがパンパンになった袋を3つテーブルの上に置いた。
「なんだこれ?」
「ホーンラビットの角です!この人は倒したホーンラビットを放置してずっと戦っていたため私たちが回収した物です!」
「だからなんだってんだ!」
「僕たちのレベルではたとえパーティーを組んでいたとしてもここまで倒すことはできません。なんならステータスをお見せします!」
あ、他にもパーティーいたじゃん。
申し訳ないことしたなぁ…と呑気なことを考えていた。
「ヒャハハハ!お前そりゃ無茶があるぞ!」
「な、何がですか!」
「エリドはほとんどレベルが上がらずにこの街に1年いつづけるような雑魚なんだよ!」
その雑魚に足引っ掛けられ、ぶざまにこけた男なのによく言えたものだ。
「悲しい悲しいエリドに同情して勇気を出したおこちゃまのために俺が救いの方法をあげようじゃねぇーか。こいつが俺のことを倒せたらお前が言ってたことを信じてやるよ!」
エリドは俺をボコれる理由ができて嬉しいのかニタァと笑顔を浮かべた。
いや、ニチャ~か?
「俺もそれでいいですよ、さっさと始めましょう」
「は?何調子乗ってんだ?お前が俺に勝てるわけねぇだろ!」
「グチャグチャうっせぇな、さっさとかかってこいよ!お前は叫ぶだけしかできない猿かよ!」
なんだかんだ俺もこいつには溜まっているものがあるため、口が悪くなってしまう。
「ボコボコにしてやる!」
エリドが殴りかかるため右手を振りかぶった。
セッタの動き的にレベル40ぐらいはあるだろう。
ただスキルは素早さアップをとっていないのかそんなに早くない。
大振りのパンチを余裕で避ける。
「おいおい、本気でこいよ」
「て、てめぇ…コロス!」
セッタは額に青筋を浮かべながらひたすらに殴ってくる。
殺すと言いながら剣を使わないのは本当に殺したら自分もタダじゃすまないとわかっているのだろう。
にしても…こいつの動き酷いな、フェイントもしてくるわけでもなく牽制するためのパンチをしてくるわけでもなく、ひたすら大振りのパンチを繰り出しているだけだ。
「ク、クソ!なんで、あたんねぇんだよ!」
「いや、そんなゴブリンみたいな低脳な動きで殴りかかられてもあたるわけないだろ」
素早さアップを取得していないにしても酷すぎる。
こっちは【レベル還元】してレベル1のままだぞ。
スキルやステータスだけじゃなくそれ以外の部分が大事だと父に教わったことを充分に理解できた。
そろそろセッタの汗が飛んできそうで嫌なのでこの茶番を終わらせる。
セッタの右の大振りのパンチをギリギリで避け、カウンターを顔面に決める。
こいつは防御力アップのスキルを持っているのか倒れることなく後ろにのけぞった。
俺はその隙を見逃すことなく、嫌々ではあるがセッタの後頭部を掴み、全力で右膝をセッタの顔面にめりこませる。
流石に耐えられなかったのか鼻がひん曲がり鼻血を出して倒れたまま動かなくなった。
全力で膝蹴りを顔面にかましたが感触的に死んではないだろう。
「「「「うおぉぉぉぉ!」」」」
様子をみていた連中から歓声が聞こえた。
いや、見せ物じゃないんだけどな。
「なにごとだ!!!」
ギルド全体に大きな声が響いた。
熊のように大きな男が奥からでてきた。