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8話 焼き鳥は宙を舞う

「たったこれだけか……」

「隣町のギルドにも救援要請していますが、飛んできても二時間はかかるかと」

「仕方ない。それまでここにいる者で被害を食い止めるしかないな」


 ギルド前広場に集まった冒険者たち、二十数名の前に一人の女性が立った。

 深い緑色の髪を揺らし、(ざわ)ついている集団をぐるりと見渡す。一度大きく息を吸い込むと――。


「――黙れ貴様らァアッ!!」


 清楚な顔立ちからは想像できないほど、エッジの効いた声が轟いた。

 一瞬にして静まり返る冒険者たちを一瞥(いちべつ)し、彼女は舌打ちをする。


「貴様らは冒険者だろうがッ! 冒険者が慌てふためくなッ!」

「ねぇ……あの人って」

「あの気性の荒さ、緑の髪……あれは冒険者ランクAの……」


 『深緑の魔女』誰かがそう口にした時、彼女の赤い瞳が怒りによりさらに赤みを増した。


「魔女っつったやつ誰だコラ! 変な二つ名付けやがって! 私はリーフィリアだッ!」


 髪を逆立たせて怒り狂う姿に、もはや口を開く者はいない。


 なんか凄い人みたいだけど、怖いな……ランクが上がるとあんな人ばかりなんだろうか。

 俺は冒険者たちに混ざる事は出来ないため、民家の陰から広場の様子を窺っていた。


 おそらくはギルド職員だろうスーツを着た男の人が、怒る彼女をなだめている。


「ふぅ……いいか貴様ら。今、この町に向かって『ファイアーバードの群れ』が飛来している。このままではあと数分で町に到達するだろう」


 ファイアバードの群れだって?!

 ちょっとマジにヤバいやつじゃん。

 まさかアレと戦えっていうの?


 方々から不安と焦燥の声が上がる。

 リーフィリアは手に持った槍を地面に強く叩きつけた。


「うろたえるな! 貴様らが全力で戦わなければ、この町は火の海に沈むのだぞッ! それが嫌なら、家族を守りたいなら、立ち向かうしか道はないッ!」


 リーフィリアの言葉で、その場にいた者の顔つきが変わった。皆、決意の目をしている。


「水系魔法が使える者は町全体に水を撒き続けろ! 使えない者は一羽でも多く火の鳥を討て!」


 わたしが……みんなを守らなきゃ……!

 やってやる……! 家族を守るんだ!

 町を燃やされてたまるもんですかッ!


「時間はないッ! 行動に移せ!」


 リーフィリアが叫ぶと冒険者たちは町に散っていった。半数の者は北西に向けて走り出す。

 その中にリオンの姿を見つけた。


「リオンッ!」

「――えっ! タクトなんでここに? 避難してないと危ないよ!」

「俺も、戦うよ!」


 ユルナとカナタも俺に気付いて近づいてきた。


「無茶をするな。これは()()()の仕事だ」

「俺の魔法は、人を助けるために使うって決めてたから……だからッ! 俺だってみんなを守るよ!」

「しかし……タクトの魔法は……」


 カナタの言いたい事は分かっている。俺の魔法は使い勝手が悪い。それでも何か役に立ちたい。


「みんなの邪魔にはならないようにする。だから、俺にも戦わせてくれ」


 三人は顔を見合わせると、やがてユルナが諦めたようにため息をついた。


「……なら、カナタとタクトは町の西側に行ってくれ。そっちは人が薄い」

「ちょ、ユルナ?! タクトに戦わせるつもり?」

「タクトは、カナタがもし危なくなったら助けてやってくれ。行くぞリオン、時間がない」


 ユルナがリオンの手を取り、北西に向けて走り出した。リオンはユルナと俺を交互に見て不安そうにしていた。


 (かたわら)に立つカナタは、真剣な眼差しで俺を見上げていた。


「……タクトは私から離れないようにしてくださいです。それなら人に魔法を見られても、私が使ったように見えるでしょうから」

「分かった。さあ、行こう!」


 数分後、ファイアーバードの群れが町に到達すると町は熱気に包まれた。


* * *


「ところで、ファイアーバードの群れってそんなにヤバいやつなのか?」

「まさか知らないで戦うって言ってたんですか?」


 カナタはあからさまなため息をつく。

 村から出た事も無ければ、冒険者がどういうものなのかも詳しくは知らない。ましてやモンスターなんて……熊と犬ぐらいしか見たことがない。

 俺は知らないことが多すぎた。


「……ファイアーバードは全身を火で纏った鳥です。遠目で見ると大きな一羽に見えますが、実際は集団行動をする群れです。いつまでも燃え続ける体温を維持するために、冬を求めて世界中を飛び回る、渡り鳥です」


 なるほど。だから伝説の火の鳥、『不死鳥の原型』なんて言われてるのか。


「水魔法で一気に消火は難しいのか?」

「高さがあり、すばしっこいので中々当たりません。しかもアイツらの羽ばたきで落ちる羽は、火そのものなんです。アイツらの通った道は、畑は焦げ、屋根に落ちれば火事になります」


 冬という季節もあって一度火事になれば乾燥した空気でさらに燃え広がる。厄介この上無いな。


「じゃあカナタが水魔法で消していって、撃ち漏らしたのを、俺が――」

「使えませんよ」

「……え?」

「水魔法。使えませんよ、私は」


 ……えええええ?! 嘘だろ? ユルナがカナタに西を任せたってことは使えると思うじゃん! どうやって戦えと!!


「私が使えるのは読心魔法と風魔法です。なので、こっちに飛んできた鳥を風魔法で北西に送り返す感じです」

「それ、根本的解決になってなくないか?」


 そういえば冒険者ギルドで競技中も、カナタは全然魔法を使っていなかった。

 ふと、競技前にカナタが何か言いかけていた事を思い出す。思考が読めるなら戦いでは有利になるなって感じの事を言った時だ。


『そうでしょうか。私は――』


 もしかして相手の思考が読めても、それを利用して戦う術が……無い?


 カナタが俯いてプルプルと肩を震わせている。


 あ……思考が読めるから、いま考えていた事も筒抜け……もしかして怒らせたか? 直球で言いすぎた?


「か、カナタ? ごめんそんなつもりで言ったんじゃ――」


 顔を上げたカナタの瞳は潤んでいて、頬を膨らませ俺を睨んでいる。


「……私だってそれぐらい分かってますっ! でも、だって……使えないんだからしょうがないじゃないですかっ! うわぁああん!」

「悪かった! ごめん、謝るよ! ほ、ほらもうファイアーバード来るから! 別の策を考えよう? な?」

「……ぐすん。私は年上ですよ……馬鹿……」


 さて……水魔法が使えないカナタと、そもそも魔法が自由に使えない俺。

 なんとか打開策がないか考えていた時、上空からパチパチと何かが弾ける音がした。


 キラキラと揺れながら落ちてくる一粒の光。雪のように思えた粒が俺の頬に触れると――。


「熱ッッ!?」


 なんだこれ……火の粉? まさか……ッ!!


「タクト! 上を!」


 ヒリつく頬を抑え、空を見上げた。

 そこには、羽ばたくたびに火の粉を撒き散らす、数十羽のファイアーバードがいた。

 もうこんなに来てるなんて……どうしたら――。


「――きゃあっ!」


 背後で聞こえた悲鳴に振り返ると、小さな女の子が地面に倒れていた。女の子のスカートの端に小さな火が付いていた。


 避難し損ねたのか! まずい!


「カナタッ!」

「分かってます!」


 カナタは既に杖を構え詠唱をしていた。足元と杖の先に詠唱紋が浮かび上がる。


「【風の精霊よ 彼の者の厄を払え! 風の刃(ウィンドシュート)】」


 杖の先から、半月状の光が女の子に向かって飛んでいく。刃はスカートの燃えた部分だけを切り取った。

 すぐに父親らしき男性が女の子に駆け寄り、抱きかかえる。


「ここは危険です! すぐに避難を!」

「ああ……! ありがとうございます!」


 二人が去っていくのを見届けてから、目の前の問題と再度向き合う。


「カナタ、今の魔法でこの()()()どもを切れないか?」

「それは無理です! 火に風を送っても、より燃え広がるだけです!」


 つまりカナタの使える魔法は、相性最悪ってことか……。

 もう周囲に人は居ない。今なら俺も魔法を使える。


「これだけの数……今の俺がどれだけできるか、練習相手になってもらうぞ! 焼き鳥どもッ!」


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