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43話 本当の仲間選手権(3)支える編

「で、今度は何をするんだ」


 『信頼』、『思いやり』ときて次は『支える』。

 これまでの勝負で本当に、『仲間としての資質』が計れているのか、まったくもって疑問だ。


 お互い一勝一敗。次の最終種目で勝者が決まる……そこで別の疑問が浮かんだ。

 この勝負に勝って何になるんだろう? と。


 リーフィリアは、前回負けたリベンジに燃えているのは分かる。だがリオンとユルナは何故そんなにも、リーフィリアへ敵対心を燃やしているんだろうか。


 チラリとカナタに目を向けると、さも「君の言いたい事は分かっている」とでも言いたげな笑みを浮かべる。あ、こいつまた俺の心を盗み見やがったな。


「さて、次が最後の勝負になるわけですが、三人にはもっとやる気が出る事をお伝えしましょう」


 何をそんなに勿体つけているんだ。


「この『本当の仲間選手権』に勝ったほうには、それぞれ権利という名の報酬を与えます」

「報酬? なんだ、金でもくれるのか?」

「そんなくだらない物ではないです。リーフィリアさん貴女には――」


 カナタはそこで言葉を区切り、ズイッとリーフィリアに顔を近づける。


「――貴女が勝てば、タクトの仲間に……つまりは私たちの冒険者パーティに迎え入れましょう」

「「なっ?!」」

「わ、私をパーティに……?」


 驚いて固まる二人をよそに、リーフィリアは肩を震わせて俯いている。

 そりゃあ、そんなやり方でパーティに入れられても嬉しくは無いだろ――


「本当だな?! 本当にいいんだな?」


 あ、あれ? なんかすごく嬉しそう?

 リーフィリアはキラキラ目を輝かせて、興奮気味にカナタに詰め寄る。


「はい。勝てたらリーフィリアはもうパーティの一員です」

「絶対だぞ!! この前みたいに手のひら返すような事をしたら許さないからなっ!! うぉおおおお! 私はやるぞ!! 必ず勝つ!!」


 深緑の髪を沸き立たせ、ゆらゆらと揺れる(さま)は、リーフィリアのやる気を表しているかのようだった。


 対して、氷魔法でも食らったのかというぐらいフリーズしているリオンとユルナに、カナタが耳元で何か伝えている。


「もし二人が勝ったら、リオンには……を、ユルナには……を与えましょう」

「え? ええっ?!」

「ほほう……」


 なんだ? ボソボソと言っていてよく聞こえなかった。


「私、勝つよ! 何がなんでも勝ってみせる!」

「ふふ、ふふふふ……これでリーフィリアに……どうやって痴態を晒してもらおうか……ふふふ」


 一体カナタは何を言ったんだ?

 二人とも俄然やる気になったみたいだけど……。


 雄叫びをあげるリーフィリア。

 鼻息を荒くするリオン。

 不気味に笑うユルナ。


 三者三様の思いを胸に、最後の戦いが始まろうとしていた。


 俺だけが、この場の空気についていけず、取り残されている気がする。


* * *


 四人は場所を移動して外へ出る。

 動けない俺は、室内の窓からその様子を眺めていた。


 リオンとユルナ、そしてリーフィリアが対立して距離を置き、試合を執り行う主審のように、カナタが間に立っている。

 右手を高く上げたカナタが、最後のタイトルコールを告げた。


「これより最終種目を始めます! ずばり、『仲間を支えるには強固な気持ち! 気持ちis(パワー)! 押し出し対決ー! どんぱふー」


 『どんどんぱふぱふ』すら言うのめんどくさくなったのか。略すぐらいなら言わなくていいのに。

 しかし、今回の勝負は今までよりもずっと分かりやすいな。


 向かい合うリオンたちとリーフィリア。彼女たちの背後には三メートルほどの距離を空けて、地面に白線が引かれていた。


「ルールは簡単。それぞれの魔法を用いて相手を外側の白線より外に押し出せば勝ちです。ただし、横に逸れて避けたりはダメですよ。魔法の力だけで押し出してください」


 ユルナが手をあげて質問をする。


「ルールは分かったが、私たちはどうしたらいい? 一人ずつやるのか?」


 たしかに二対一では不公平になってしまうし、かといって一人ずつ戦ったら、一人に勝ってもう一人に負けた時、勝敗がより分からなくなる。


 しかし、そんな悩みを他でも無いリーフィリアが一蹴した。


「貴様らは私を見くびりすぎだ。所詮(しょせん)、冒険者ランクEの貴様らが束になっても私には勝てん。二人同時にかかってこい」


 この挑発で火がついたのか、ユルナのこめかみに青筋が浮かんで見えた。リオンも顔は笑っているが……あの目は本気だ。


「言ってくれるじゃねぇか、後悔するなよ」

「あとで泣いて謝っても許さないんだからね」


 睨み合いにピリピリとした空気が張り詰める。


「それでは……ゴホン。押し出し対決、よーい……」


 『ドン』の合図で、ほぼ同時に詠唱が唱えられた。


「【水の精霊よ その身を(もっ)て敵を押し流せ】」

「【雷の精霊よ 流れに添い障害を貫き砕け】」


 リオンの足元から大量の水が噴出すると大きな波となって湧き立つ。波は時折、青白い稲光を発生させている。

 あれは……かなり本気(マジ)のやつだ……。


「「【雷光の濁流ライトニングストリーム】ッ!」」


 二人による合成魔法が放たれると、大きな波がリーフィリアに押し寄せる。

 対するリーフィリアはそれを見ても、慌てる様子はない。


「【炎の精霊よ 豪炎を纏いて 全てを燃やし尽くせ】」


 既にリーフィリアの髪は景色を埋め尽くすほど大きく広がっていた。

 壁のようにも見えるその髪から、剣山のように幾本もの槍が突き出していた。

 詠唱紋が地面に展開されると、深緑色の髪が炎に包まれ赤く染まる。


「【炎槍の雨(フレイムレーゲン)】!!」


 突き出された真っ赤な槍が波に触れると、小さな爆発が起こり、波を打ち消していく。

 槍が突き出されるたびに、周囲には蒸気が立ち込めた。


 ……リーフィリアも本気(マジ)だ。


 バチバチとした閃光音。飛沫をあげ飲み込もうとする濁流。触れるものを燃やし尽くそうとする豪炎。

 

 お互いがジリジリと魔法の圧によって押されていく。リーフィリアのほうが押されて、白線まであと半歩といったところだ。

 流石に、二人相手じゃ厳しいか?


「――ッ! 思ったよりいい魔法(モノ)持ってるじゃないか」

「二人掛かりでも耐えてるなんて……!!」

「押せえリオン!! 魔力を出し切れッ!!」


 ユルナの掛け声で、さらに勢いを増したリオンの魔法が、リーフィリアを白線ギリギリまで押し込めた。(かかと)は既に白線に付いている。

 辛そうに顔をしかめるリーフィリアだったが、その目にはまだ力強さが残っていた。


「負け……られるかァアアアアッ!!」


 直後、髪を覆っていた炎がオレンジ色から青色へと変わった。さらに炎は勢いを増し、今度はリオンたちが押し込まれていく。


「――え?」


 リーフィリアが叫んだ時、俺は胸がざわついた。それは彼女の鬼気迫る姿から――ではない。


 俺が魔力暴走を起こした時と似た感覚。僅かだが、リーフィリアの瞳に俺の魔力と似た、紫色の光が見えたのだ。


(なんで……リーフィリアに……アレは)


『彼女の血筋には、私の魔力が多く流れ込んだみたいだね』

「――ッ婆さん?!」


 耳元で聞こえた声に反射的に振り返ったが、室内には誰もいない。

 何度か聞こえた憎しみの魔女、レイラの囁くような声は、たしかに耳に残っている。


 魔力を世界中に分け与えたのなら、その根源は憎しみから生まれた魔力だ。それならば、リーフィリアにその片鱗(へんりん)があってもおかしくはない?


 いや、考えすぎ……か?


 その時――俺の思考は爆発音により吹き飛ばされた。

 外から室内へ向けて凄まじい風が舞い込んでくる。

 室内にある本や椅子が動くほどの衝撃。思わず顔を左手で覆うも、服が水飛沫により一瞬でびしょ濡れになった。


 窓の外へ視線を向けると、勝負の決着が着いていた。水蒸気と砂埃が巻き上がる煙の中で、一人の影が立っていた。


「――か」


 地面に何本も槍を突き刺して、衝撃に耐えていたのは、リーフィリアだった。

 対抗していたリオンとユルナは、白線があったところよりさらに数十メートル後方へ飛ばされて、地面に倒れていた。


「勝ったぞぉおおおおお!! うおぉおおお!」


 両手を上げ、喜びに吠えるリーフィリア。


「お、おーい……二人とも大丈夫かー?!」


 リオンとユルナは寝転んだまま、腕を上げて返事をする。どうやら無事のようだ。

 そしてもう一人、真ん中に立って主審をしていたカナタを探すが、どこにもその姿がない。


 まさか、あの爆発で吹き飛んだ……?


「おーい! カナター?」

「……し、しぬかと思いました」


 声のした上空へ目を向けると、杖に両手で掴まってふわふわと宙に浮くカナタがいた。

 ゆっくりと地面に降り立つと、ホッと安堵のため息を漏らす。


「いてて……」

「まさか、二人掛かりで力負けするなんて……」


 起き上がったリオンとユルナは、服に付いた土や泥を払っている。多少すり傷ぐらいはあるだろうが、大きな怪我はしていないようだ。


 全員の無事を確認し、一息ついたカナタがゆっくりと口を開く。


「……これは誰が見ても明らかですね。『本当の仲間選手権』の勝者は――リーフィリアッ!」


 カナタの宣言により、突如始まった『本当の仲間選手権』なるものは幕を閉じた。


 ただ、憎しみの魔女の言葉が俺の耳に焼き付いて離れなかった。

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