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14話 一つ屋根の下?

 俺たちが乗る馬車は盗賊の襲撃から一夜明け、太陽が登りきる前に目的地へと到着した――のだが。


「はー……」

「ほー……」

「わー……」

「お前ら今、すっごいマヌケ面してるぞ」


 俺、リオン、カナタの三人は見たことのない建造物とその“高さ”にため息をつくばかりだった。


 街への入り口は巨大な門が(そび)え立ち、堅牢な外壁が囲っていた。どれぐらい大きいかというと、上を向きすぎて首が痛くなるほどだ。


 開かれた門から見えるのは、門と同じぐらい大きな建物群。そして、絶え間なく行き交う人や馬車で地上はものすごく混雑していた。

 さらには、行き交う彼ら彼女らの頭上を、杖や巨大な鳥に乗る人が飛び交っている。


 噂には聞いていたが……こんなに発展した都市があるとは。まるで異世界にでも来たみたいだ。

 人の多さに目眩がする、というのはこういう光景をいうのだろう。


 また門を見上げて呆然とする俺たちをよそに、ユルナがテキパキと馬車の返却手続きをしていた。


「ユルナは来たことがあるのか? なんだか慣れてる風だけど」

「幼い時に親の都合で住んでたんだよ」

「シティガールだ……ッ」

「変な呼び方するな」


 ユルナは馬車の契約書を丸めると、ぱこんとリオンの頭を叩いた。


 こんな栄えた所に住むって……実はユルナってお金持ちの生まれなのか?

 普段の言動の粗暴さからは考えられない、お上品なユルナを想像して、少し笑ってしまった。

 俺と目が合ったユルナは、(いぶか)しんだ目をしている。


「……何だよ」

「イエナニモ」


 積荷を下ろし、期待に高鳴る胸を抑え、いよいよ俺は“大都会アークフィラン”へと足を踏み入れた。



 街中は全て地面が舗装されていて、均一な模様がどこまでも続いていた。立ち並ぶ店もよくみる戸建ての物から、ガラス張りの喫茶店、何階建なのかも分からない塔のような建造物もある。


「ここは本当に同じ世界なの……? 目眩がしてきたよ、私」

「奇遇だな。俺もさっきから目がチカチカしてるよ」


 目に映る物全てが新鮮で輝いている。都会ってすげぇ。ふと自分の体に視線を落とすと、なんだか“田舎感”が溢れている気がして、恥ずかしくなってきた。

 ちなみにそう感じたのはリオンも同じらしい。二人で顔を見合わせて、乾いた笑いが出た。


 そんな田舎者の心情に気づいてか、ユルナはズンズン先行して歩いていく。土地勘があるのかその歩みに迷いがない。


「しばらくはここに滞在することになるだろうから、まずはギルドにいくぞー」

「ギルドで何か手続きがいるのか?」

「ギルド所有の“レンタルハウス”を借りないとな。野宿がいいなら別だが」


 レンタルハウス。その名の通り、ギルドが期間を定めて貸している家や部屋があるらしい。

 宿に長期間滞在するとお金がいくらあっても足りなくなるので、一ヶ月単位でレンタルするほうが得なんだそうだ。


 ユルナに案内されるまま街の中心に向かって歩いていると、一際目立つ建物が見えてきた。


 王様でも住んでそうな立派な城。幾本もの塔が天に向けて高くそびえ建っている。

 真ん中の塔には、街のどこからでも見えるぐらい大きな時計が、四方に向けて街を見渡していた。

 入り口の扉は縦長に数十メートルはあり、開けるのも閉めるのも大変そうだ。


「ここがアークフィランの冒険者ギルド。ここを入り口として、敷地内は小さな町一つ分の広さがある」

「すっげぇ……」

「冒険者の町っていうだけあるわね……」


 俺たちは感嘆の声をひとしきり上げてから、開放された扉へと進んだ。

 城内には何百席ものテーブルと椅子が至る所に用意されていて、冒険者たちが食事をとったり、談笑したりと賑わっていた。


 ここに居る冒険者たちだけで、出発した町の人口と同じぐらい居そうだ。


「ここは集会場だ。んであっちが受付」


 ユルナが指差す奥には、横一列に受付カウンターが並んでいた。等間隔で仕切られたカウンターは、それぞれの役割によって別かれているようだ。


『任務・依頼受付』

『報告受付』

『冒険者登録』

『居住・相談』

『買取・換金』


 と、天井から看板が吊り下げられている。


「タクトはまず冒険者登録からしてきな。レンタルハウスを借りれるのは、登録された冒険者だけだからさ」

「……あのーそのことなんだけど、男でも簡単に登録できるもんなのかな?」


 ユルナは口元に手を当てて考える素振りをする。


「んー……行商人や整備士で登録している人はよく見るけど、タクトはそういう技術ないしなぁ」


 行商人はいわば“冒険者の財布役”だ。お金になりそうな物を見繕って売買をし、パーティ内の金銭管理を行う。


 整備士は武器や防具、馬車なんかを旅に支障が出ないようにする重要な役割がある。戦えなくなったり、移動の足が無くなれば外の世界じゃ死に直結するしな。


 冒険者と一緒にいて違和感の無い職業……うーん、いい感じのものが思い浮かばない。


「『冒険者の許婚(いいなずけ)です』とかならいけるんじゃない?」

「リオン、冒険者登録に嘘は御法度です」

「嘘ならもっとマトモな嘘をつくよ……」


 三人に考えさせるとロクな答えが出てこなさそうなので、結局自分で考えることにした。


「じゃあ、隣の居住カウンターにいるから何かあったら言ってくれ」

「またあとでね!」


 離れていく三人に手を振り、俺は『冒険者登録』と書かれた看板のカウンターに向かった。



「――は〜い、次の方どうぞ〜」

「よ、宜しくお願いします!」

「あら? ここは冒険者登録の窓口よ〜。並ぶ所間違えてない?」


 巻かれた髪をふわふわと揺らしながら、受付のお姉さんは首を傾げている。


「いえ! 俺も冒険者登録をしたくて来ました!」

「あらあら、若いのに命知らずなのね〜。まあ、必要条件を満たせば登録はできるけど〜」


 フェミニンな香りを漂わせるお姉さんは、三本指を立てると丁寧に説明をしてくれた。

 男が冒険者として登録できる条件は三つ。


 一、二人以上の女性冒険者とパーティを組むこと。

 二、パーティメンバーの活動方針と合致していること。

 三、なんらかの仕事をし、社会とパーティに貢献すること。


 女性冒険者は三人いるからクリア。

 活動方針は世界中を旅して周る目的があるからクリア。

 三つ目……社会とパーティに貢献? 


「行商人は経済を回すし〜、整備士なら卓越した技術でより冒険を安全に出来たりするからね〜」


 うむむ……『最強の魔術師目指してます!』 とは、言えないよなぁ。きっと鼻で笑われて終わりだ。

 ならば――俺自身にも関わる事を仕事にしよう。


「……魔法の研究?」

「はい! なぜ魔法の得意不得意があるのか、どれだけの魔法が存在するのか。それを冒険者として世界を周り、調べたいんです」


 口から出まかせのつもりだったが、自分で言っていて納得できる嘘だと思った。

 魔女が俺に渡した力……『男でも魔法が使える方法』を突き止める。それが俺にとっても世界にとっても貢献できそうなことだ。


「……まぁ、実際に魔法を研究している人はたくさんいるからね〜。いいんじゃない〜?」


 そういうとお姉さんは、カウンターの下から一枚の紙を取り出す。そこには名前や年齢、職業などを書く欄があり、冒険者登録の同意事項、保証人署名欄が書かれている。


「これを書いて、保証人になる冒険者パーティの人から、二名以上のサインを貰ってきてちょうだい〜」

「は、はい! ありがとうございます!」


 やった! これで俺もついに冒険者になれる。

 さっそく隣のカウンターにいる三人の元へいくと……なにやら揉めていた。


「……それはイケナイことだと思います!!」

「いいじゃねぇか別に、仲間なんだし」


 カナタが珍しく怒ってる? なんで?

 俺は二人のやりとりに挟まれて戸惑っているリオンに、声をかけた。


「……何かあったのか?」

「あ、タクト。それがね……」


 ユルナが借りてきたレンタルハウス。それは一つの家に四人で暮らすプランだった。

 借りてきた本人曰く、『一部屋ずつ借りるよりも戸建てタイプで借りてしまったほうが安かった』という。

 ただ、その理由はカナタの持病を強く刺激した。


「お、おと、男と同じ家に住むなんてッ! 破廉恥ですッ! タクトは年下とはいえ、男ですよ?!」

「同じ家、と言ってもちゃんと各部屋あるんだから平気だろ?」

「健全な男女、一つ屋根の下……何も起きないはずが……ありませんッ!!」


 なるほど、だからそんなに顔真っ赤にしてたのか。

 俺としてはどちらでも構わないが、そこまで嫌がられるとちょっと凹む。


 カナタは俺の心境を読み取ったのか、目をそらして何かぶつぶつ言っている。


「嫌ではない……ですよ? ただ、タクトも男の子ですし……いろいろ溜め込むのも如何なものかと……それが突然限界に達し、眠っている私たちに……ぁあ」


 ついに妄想が許容範囲を超えたらしい。またもや白目を向いてカナタは倒れてしまった。

 この子はもう、駄目かもしれんね。うん。


* * *


 リオンとユルナから保証人のサインを貰い、今日から俺は『研究者』という肩書きで冒険者デビューとなった。

 明日、証明書のようなカードが発行されるらしい。それまでは『冒険者(仮)』という紙切れを渡された。


 そうして無事に手続きを終えた俺たちは、ユルナが契約したレンタルハウスに向かっていた。


 広すぎるギルド内は魔法石と呼ばれる、円盤型の『浮いた石』に乗って移動するのが普通らしい。

 硬い見た目なのにふわふわしている、不思議な感覚を楽しんでいると、リオンが嬉々とした様子で話しかけてきた。


「今日は新居でタクトの冒険者就任祝いだね!」

「まだ(仮)だけどね」

「それでもれっきとした冒険者だよ! 明日、早速任務でも受けに行こうよ!」


 リオン達と同伴必須とはいえ、俺も任務を受けれるようになった。じゃんじゃんこなして旅の資金を稼がなければ。


 いつまでもみんなに頼ってばかりはいられないしな。


 リオン達と出会ってから、全てがトントン拍子に進んでいる気がする。冒険者登録に条件があることも知らなかったし、一人ではきっとどこかで(つまず)いていただろう。


「――みんな、ありがとう」

「ど、どうしたの急に? 何かお礼されるような事したっけ?」


 とぼけているのか、いやリオンの場合は本当に分かっていないんだろうな。


「ううん。なんでもないよ」

「?? よく分からないけど、分かった!」

「――二人とも注目ーぅ!、カナタもそろそろ起きろ!」


 突然、大きな声を上げたユルナが振り切れんばかりのテンションで騒ぎ出した。そして前方に向けてビシッと指を()す。


「あれが……今後の私達の拠点になる、レンタルハウスだ!!」


 小高い丘の上。そこに茜色をしたレンガ作りの建物が見えてきた。

 遠目でもわかるほど大きくて立派な家だ。


「うっそ! もしかしてあの家?」

「結構でかいな! 何部屋あるんだ?」


 ユルナは自慢げにふんすと鼻を鳴らすと、レンタルハウスの説明をし始めた。


「4LDKのお風呂完備! トイレは一階と二階の二つ! 収納たっぷり、ベッドもテーブルもソファも全て備え付け! 同じぐらいの物件が一ヶ月、五十万円のレンタル料だが、超破格の二十万円! ()()()()()物件だ!」

「おぉおおおおお!!……ん?」

「……最後なんていいましたか」

「超破格の二十万円」


 ちがう、そこじゃない。もっと重要な事を最後にさらっと言ったぞ。


「“いわく付き”ってのがなんの事か知らんが、付いてないより付いてたほうがお得だろ?」


 先程まで輝いて見えたレンタルハウスが、何故かどんよりとした物に見えてきた。

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