89話 その日の終わり
ギルドに戻って階段を下る。そのまま降りて左手側のドアを開けた。此方が解体所となっている。そう言えば昼間にオルカのサポートのお陰であるけれども優先買取に出していたっけか。
ポケットから紙を取り出して置いた。時間に関してはあまり明確に効いていなかったんだけれども魚一匹だし終わっていてもまぁ不思議じゃないのではなかろうかという期待である。
そう言えば夕方頃なわけだけれども、隣でやっているはずの祝杯ってどうなったんだろうか。時間も時間であるし流石にお開きになったのかな。後で覗いてみるかな。
「あの……」
解体所の受付で座っている人に話しかけた。俺が魚の解体を頼んだ時と同じ人物のようで、顔を覚えていたのか反応してくれた。
「おお、確かオルカさんと一緒に来てたか?」
「覚えてたんですね」
「ま、イドロヴィアの人達の知り合いとあってはな。さっき出してくれた魚なら解体も鑑定も終わってるからちょっと待ってくれ、取ってくるから」
「ああ……それとついでに新しく買取をお願いしたくて」
「オーケーオーケー。量は多いのか? それならテーブルに案内するから」
その言葉に頷いて適当なテーブルまで移動した。その際にちらっと解体所の様子を見たがガレオスの姿は見えないからもしかしてまだ続いているのか……?
兎にも角にも案内されたテーブルに獲った獲物を一つずつ置いていく。猪と熊と……。新しく発見した種に関しては頭が消し飛んでしまっているので……大丈夫かなこれ。まぁ次からはもう少し慎重に狩りをして買取金額ってところにも留意していくとしよう。
テーブルが若干血に塗れるがまぁ仕方ないという事でスルーさせて頂く。
「うおっ!?」
戻ってくるなり声をあげた。まぁ血塗れのモンスターだらけなのだから無理もない。俺の収納魔法の中では時間が止まってしまうので、ある程度血の流れが収まった段階で仕舞ったとしても不完全であれば再開してまた血が流れだす。
「すいません……ヘッドショットしたので……」
「まぁ別にいいが……っとコレだコレ」
言いながら渡されたのは麻の袋。この中に件の買取金が入っている。持ってみた感じでは少なくとも前の街の森にて狩りをしていた頃と比べると数ってところもあるからか、やはり少なく感じる。
「サイズ的には大きかったが、傷がちょっとな。買取金額が減ってそんくらいって感じらしい」
やっぱり捕え方、今一つだったようだな。
……そういえば魚を出すよりも前、本当に総長も早朝ってくらいの時間帯だがその時にも小さめの動物程度ではあるが買取に出していたよな……。ポケットの中から紙を探し出して手に取る。俺がそれを見ている様に気づいくと受付の男も反応した。
「ん? 別のもんも買取に出してたのか? 見せてくれ」
そう言われて彼に紙を渡した。少し眺めてから「ちょっと探してくる。多分終わってるだろう」との事で。そんな訳で二度目の待ちぼうけを食らう形になったが、そこまで長く待たずともすぐさま麻の袋を抱えて戻ってきていた。先程のモノと比べて雲泥の差で小さいのが分かる。まぁホントに捕えた獲物が只管に小さいのばかりだったし無理も無いだろうな。
一先ずは獲得できた分の買取金を有難くため込んでいきたいところだな。買取金の両方を一つの麻袋に纏めてその後、先程提出したモンスター達の分の買取を紙として書き記して貰ってそれも受け取った。
「もう大丈夫か?」
「ああ、はい」
それじゃあ、という感じで解体所を後にする。まぁとはいっても次の目的地はこの解体所の扉を出てすぐ、目の前にある別の扉の先である、地下食堂。開いてみた所、食器などはまだある程度置いたままの状態であったのだけれどもしかし人の数は随分と減っており雰囲気だけで祝杯が終了したのだなという事は容易に見てとれた。しかしながら、と続けるべきか当然ながら、と続けるべきかは分からないけれどもパッと見た限りではガレオスの姿はそこには存在していなかった。ガレオスだけではなくてイドロヴィアの他三名にしても存在していない。って事は普通にお開きになってその後、彼らに関しては仕事が入ったとかそんな感じなのかな?
時間帯がまだ夕餉前という事もあって飯を食べている客の姿が少ないな。流石に俺もまだそこまでお腹空いていないしもうちょっと時間をおいてからまた訪れよう。
まぁガレオス達に何か用事がある訳でも無し何より悪い予感というのは一時的とは言え消え去ったわけだからそういった部分での相談事も今のところはない。ま、偶然にでも会った時にまた話せば良いかな。
これから更に暗くなるわけだし一先ずは……別の釣具店でも探そうかな。夜になるとはいえ町の中であれば最低限の明かりは保証されているので買い物程度ならば問題ない。さっきの店の付近には流石に同じ店を構えてるわけがないだろうからその周辺以外を探すことにしようか。
流石港町、別のルートから雑に探してもすぐに発見することが出来た。今度の店に関しては冷静な目で見れば別段極々普通の店で尚且つ普通の店主でという感じだったのだけれども、釣り竿を購入した時の店が店であるからか凄く好印象に思えた。ただこの世界には疑似餌の技術というか概念は存在していないらしいという事も同時に分かってしまった。まぁ簡単に言うと徒労というやつである。こういった時代というか世界というかの知識の乖離が地味に面倒くさかったりするんだよな。
結局何も得られなかったままもう一度ギルドに戻るほかないかな。例によって例のごとくギルドに訪れたとてやる事がある訳ではなく、ついでに言えば夕餉にしても若干まだ早いかなということを体内時計が示している。なので暫くの内はあれだ、ギルドの一階にてぐだぐだするくらいである。
……そのつもりだったのだけれども、ガレオス効果なのだろうか、やたらと視線らしいものを感じた。同時に何やら俺を見つけるなり小声で話している様も確認できている。こういう時俺のような人間だと真っ先にその声が陰口ではないかという不安に襲われる為あまりしっかりと耳に入れたくないのだけれども悲しきかな今の俺は女神の力でもって五感がある程度向上しておりつまりは彼等彼女等のうわさ話も勝手に耳に入る。多分気にしなければそこまでちゃんと耳に入らないとは思うんだけれども一度そう思うと嫌でも耳の中に言葉が入ってきてしまう。
けれどもまぁそこまで悪いように言われている訳ではなさそうだ……が、同時に俺という人間の顔もある程度覚えられつつあるらしい。
「アレか?」
「そうそう彼奴が例の人だって。ガレオスさんが言ってたし」
「マザーホエール一撃ってガチなのか?」
「ガレオスが大声で言ってたからな、あの人酔ってても嘘は言わないし」
「でも一撃ってえぐ過ぎだろ」
明らかに俺を指さしているからバレている筈だ。こういう時大抵の場合はこうした声と共に陰口も存在するという事を俺は知っている。変にざわざわしすぎる前にギルド出た方が良いか……。それこそギルドの地下に食堂があると言っても別にここ以外にも食事処は存在しているらしいし時間潰すがてら探した方がメンタル的に楽になるかな……。
今日の所はそんな訳でこれまでとは打って変わってギルド以外の飯という事になる。まぁ魚が嫌いなわけではないけれども昨日にしても今日の昼にしても魚介類しか殆ど口にしていないからな、もう少し別のモノにもありつきたい所だ、とかそんな感覚である。
まぁ折角だし出来れば肉がいいがどうだろうかと探したところ別段苦労することなく見つかった。確かに狩場自体には海系以外のモンスターもいる訳だし肉料理は普通にあるか。
なので久々に肉を食った。
それから昨日と同じ宿に向かって部屋を取ってベッドの上に座った。ふぅ、と一息つく。
「明日からは暫く狩りかなぁ……」
今日は早めに寝た。




