8話 森の中の卑劣なモンスターの存在
森についた。正しく森。街道は街を出てもある程度続いているようだったのだが、この森の付近の時点で消えている。まぁ少なくともこんな森の中にまで入って整備する気にはならないか。
「ええと……無警戒でいいのかな……」
女神曰く俺に色々と授けれてくれた時点で防具がなくとも相当な耐久があるようにしてくれたらしい。流石にここまで手厚いのであれば感謝しかない。信仰できるかどうかは別として。
「っと変なこと考えてる場合じゃないな、聞かれてるかもしれないし」
モンスターの討伐でもって金稼ぎをする、という事だが、まぁおそらく小説にしてもゲームにしてもよく見たアイテムドロップとか素材ドロップとかでそれを売りさばいて稼げばよいのだろう。ゲーム何かだとオーバーキルしても素材はきちんとドロップするがこの世界はゲームではないから流石に加減も必要だろうか。
「……兎も角そのモンスターとやらを探し出さないとなぁ」
具体的にどんなモンスターがいるのか予め聞いておけばよかったか。まぁ最悪今から念じて通話しても良いけれど、ただそうは言っても自分で見つけたい気持ちもある。あと強いて言えばあの女神様の少女の見目故からかの甲高い声をそう何度も耳にしてると脳が狂いかねない気がする……特に根拠は無いただの感覚的な、何となくの話だけれど。
「うーん、流石にここいら一帯を魔法でぼーんってしたら駄目だろうし、地道に探すしかないかな」
この森と言うのは先程の大きめの街からそこまで距離が離れているわけではない。故にの推測に過ぎないけれどうじゃうじゃとモンスターが出て来る、なんてことはないだろう。そんな大量に出てきたら街に住んでる人たちも気が気でないだろうから。
「まぁ虱潰しに適当に探していくか」
と気楽に探索を開始した。ともあれもっと中に入らねばいけないだろうと思い人の道など存在しない森を進む。だがそこですぐに気づいた。
「……これ帰れるか?」
基本的には迷わぬようにまっすぐ進んでいるつもりであるけれどそれでも木々なんかに阻まれて必ずまっすぐではない。となれば帰りが面倒になる。ならば何か道しるべが必要になってくるか。
「道しるべ……パンをちぎって……とかやりたくてもパンなんて無いしな、あいや……」
パンが無ければ魔法を使えばいいじゃない、という事ですっかり女神様の宮殿で慣らした水の玉を生み出す魔法を使用する。上手に上手にイメージを凝らしてサイズは小さめ。こいつをある程度の感覚を開けて水たまりになるように地面に落とそうという算段だ。まぁ森であるから既に水たまりとかも存在しそうではあるがきっと大丈夫だろう。
「で、取り敢えずこれを……」
ぼん、と下に。地面が少し抉れてそこに水がたまった。
「さてと道しるべは出来たから、本題のモンスター探索だな」
しかしどう探したものか。少しだけ奥に進んだのだけれど、見つかるのは基本的に木と植物だ。
「うーんなんか探索の魔法とかないのかな……」
そういえば神様が魔法とは形を変える、大事なのはイメージとか言っていたか。それこそ探索のイメージとかからそういう敵をサーチする魔法とかなら見つかるのではなかろうか? とは言え探索のイメージと言われても難しいな、頑張ってサーモグラフィの映像が浮かぶくらいだ。
「いやでもモンスターなら植物よりはあったかいから可能性あるか……? いやそもそも不思議パワーなら昇華してくれるだろ!」
という事で実践だ。誰かに見られているわけではないし見られていても精々神様位であろうからたとえ不発に終わっても多分恥ずかしく無いだろう。目を瞑って頭の中にサーモグラフィーをイメージしていく。青をベースに温かい場所のみが赤くなるその光景をそしてそれを視覚的に自発的に捉える様を……。そしてそれを発展させてモンスターだけを綺麗にサーチする光景を!
息を深く吸い込み、叫ぶ。
「サーチ!!!」
叫びながら目を開く。成功したのかよくわからなかった。少なくとも今自分の目には変化が無いように思う。それこそ俺が眼鏡族であったらもしかするとそのメガネのレンズにそれっぽい何かが映っていたのかも知れないけれど少なくとも自分の目には変化がない。
「……モンスターが近くにいないと結局反応しないのかな……?」
辺りをきょろきょろと見渡す。どこを見ても木々、とその隙間から少しだけ光が差し込んでいたりする程度。と思っていたところ、左前方向に何か見えた気がした。視界端だ。見間違いか、と思ってもう一度見ると確かに何か光って見える。これが先程のサーチの力と言うやつか。
「取り敢えずこっちの方向に進んでみよう……」
水は忘れずに落としていく。
幸運にも雨はしばらく降っていなかったという事か、特に地面が湿っているという所もなく自分が生み出していく水たまりだけが唯一地面を湿らせているのみのようでどうやら道しるべとしてはひとまずはこれで大丈夫だろう。
それからまたも進み、あの視界端に捉えていた光のようなものが唐突に向きを変えて下を指し示した。指し示す、というよりは地面が光っていたのだ。これは……寧ろアイテムとかが見つかる時の演出ではなかろうか?
一度目を瞑りサーチの魔法をオフにしてから改めて地面を見つめなおす。しかし地面にはそんなアイテムらしいものは無くて、ただ植物があるだけであった。
「あれぇ……何だったんだろうあの魔法……」
まさか失敗したという事か? だとすれば先程のはどういった魔法になっていたのだろう。ともあれしかし一つの目印であるから、とひとまずとしてその光っていた部分にある植物を少し避けて水魔法を使用する。水溜りが出来た。少し先程の植物が浸かっている。
「うーん、あの光の正体は気になるよなぁ……」
きょろきょろと辺りを見渡しても何もない。
やはり木々ばかりだ。もう一度と思ってサーチと叫んで魔法を発動させても依然として下側がうっすらと光るばかりだった。
「というかこのモンスターがいないって状況、まさか狩りつくされたってことなのか?」
この世界においてのモンスターが動物的な扱いなのかゲームによくあるというか当たり前の勝手にスポーンするタイプなのかは分からないが、ここが異世界とは言え一つの世界であるならば魔法こそあれドきっと動物的に繁殖して生きている、と捉えた方が良いのだろうか。いやでもそれだと冒険者と言う肩書で飯は食えないよな……。
口元に手を当てながらうんうんと考え事をしていると、足に違和感が走った。
しかしその時点ではもう既に遅かったのだ。