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85話 イドロヴィアの様子

 有無を言わさず服の首根っこを掴まれる形で持ち上げられて自由を奪われた。驚く俺とガレオス以外のイドロヴィアのメンバー。それを他所に何処に連れていくのかと思っていたら別のテーブル。そこでは他の冒険者と思しき風体の者たちが食事をとっていた。空いている椅子が一つだけ存在しているから恐らくはガレオスが先程までここのテーブルに邪魔していたのだろうか。

 眼前にいる冒険者は年としては俺と同じくらいか俺より少し上といった印象である。……が当然と言えば当然だが冒険者稼業に身を置いているという事で明らかに俺よりもフィジカルが優れている。そんな冒険者たちが揃いも揃って此方を、というか俺を羨望めいた眼差して見ている。この状態だけで何で連れてこられたのかも何で彼等がこんな目線を俺に向けているのかも理解できた。

 理由としては今現在進行形で俺の首根っこを掴んでいる、俺をここまで運んできた男、ガレオスであろう。多分彼がこの目の前の冒険者たちに話をしたとか、そういう流れだろうな。


「こいつが例の奴だ」

 ガレオスがそう言いながら漸く俺を解放するのですぐさまそんなガレオスの方へと向いた。勿論どういうことかと問い詰める為に。俺が聞くよりも先にその目線というかで何となく察したらしく口を開いた。

「あん? 俺が此奴らにテメェの事教えてたんだよ。そしたらか知らねーけどえらく興味を持ったから連れてきた」

「教えたって……」

「お前な、自分じゃ自覚ねーかもしれねーけどあの馬鹿デケェ災厄レベルのマザーホエール一発でぶち倒したんだからな」

 やっぱりその件か……。


「貴方がサクヤさんですか!?」

「マザーホエール倒したってやっぱりマジなんすか!?」

 言葉からもその興味らしいものが伺える。しかしこうしてガレオスによる積極的な拡散のお陰もあって俺であるという事実は幾ら誤魔化しても無駄という結果になりそうだ。

「おらサクヤ、テメェからも何か言ってやれ」

「言ってやれって言われても……何もいう事ないんですけど」

 面倒なおっちゃんに絡まれた時の気分である。それこそあれだ、前にいた街の解体所のおっちゃんみたいな……。

「俺達サクヤさんの話聞いてみたいです!」

「同じく!」

「特にその強さとか」

 純真無垢なところ悪いが生憎として俺の強さの秘密は正しく守秘義務でがっちりと守られたものであり女神から授かった……なんて言える訳がない。


「強さって言っても魔力に恵まれただけなので……」

 苦笑いで何とかやり過ごそうとしたのだけれども無駄であった。何を言っても質問の嵐を食らうばかりで只管に疲弊だけが募る。暫くして彼等も満足したようで俺だけ退却した。一方でガレオスはまだ件のテーブルにて飲み食いを続けるらしい。そしてオルカやクテイス、カラマリのいるテーブルに戻ってきた。ある程度の一部始終を見ていたらしい彼らは俺に対して同情の言葉を投げかけてくれた。

「大変だな……」

「でも羨ましいっすね~」

「皆さんって……こういう事ないんですか……?」

「いや無いな」

 イドロヴィアの人達の人気みたいなものを考えたらあり得る話のように思っていたけれどもどうやら違うらしい。

「ガレオスはやたらと声掛けられるけどな」

「ま、あいつの人望考えたらな」

 成程、一手に担っているっていうことなのだな……。

 その後の暫くの間は地下食堂に入り浸っていたが段々と時間の経過とともに騒いでいた人たちも大人しくなりつつあった。俺が抜けても良いのかちょっと気になったけれど、早い所捉えた魚を解体に出したいしそれに狩りだってまだあまり出来ていないからって事でお暇させて頂くことにした。ガレオスに関しては延々と他のテーブルで騒いでいたので同じテーブルにいたオルカ達には伝える。少し過ごしてみて気づいたのだけれどもこんなにガタイの良い集団ではあるのものの、オルカとクテイスの二名に関してはブレーンというかブレーキというか理性的な役割を持っているらしい。俺が抜けると告げた時も「おお、そうか。まぁ狩りも中途半端だったしなぁ」と笑いながら答えてくれた。


「魚先に解体に出すか? それなら解体費用安くしてもらうぜ?」

「えっ……良いんですか?」

「港町の災厄を簡単に振り払ってくれたんんだから、これくらいは当然だろ」

「わざわざ有難うございます」

「お礼を言うのはこっちの方だ」

 この人の方がブレーン的な役割だしリーダーに向いているのではなかろうかと心の中で思ってしまった。

 そんな訳で一度オルカと共に席を外して地下食堂に繋がる扉を出る。目の前にある扉をあければすぐさま解体所であった。時間が時間だからか人の数もまばらって感じだな。受付にいた人が此方に……というかオルカに気づくと途端にピシッと姿勢を正していた。

「お、オルカさんか。向こうで祝杯の筈じゃ?」

「ああ、ちょっとな。此奴が獲物買取に出したいってんで」

「はぁ、成程」

 オルカは言いながら此方を指さす。そして俺はすかさず魔法でもって件の魚を獲り出した。

「解体費用タダにしといてくれ」


「えっ」

「えっ」


 俺と受付の人と同時に驚きの声をあげた。さっきは安くしとく、くらいの話だったからてっきり精々半額とかその辺だと思っていたんだけれども。

「サクヤさんにはさっき言っただろ」

「いやでも安くするとしか……」

「サクヤさんに助けて貰ったもんだしな、これくらいはしないとな」

 言いながら俺が手にしていたあのでかい魚をひょいと奪って受付に渡して勝手に紙を取り出して書き記していた。これ勝手にやっていいやつなのか……いやでもガレオスがこの解体所で時たまにやってるようだしオルカも同じように働いているのかな……?

 そんな訳で解体所恒例の紙を受け取る。……あれ?


「オルカさん……これって優先買取……では?」

「そうだな。別にそこもタダにするし良いだろ?」

 いやまぁこっちからしても特にマイナスになる要素はないんだけれども……。何か特しかないぞっていう後ろめたさがどうしてもな……。そんな表情の俺を気にすることなく、オルカは「善意は受け取っておくもんだ」と発言する。

「まぁ……はい」

 これが嫌ならばまた何かあった時に助けにでもなれたら……いいかな。そんな気持ちでギルドを後にする。

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