7話 街の姿と狩場
気付くと俺は地上にいた。具体的に言えば街道から少し外れた裏路地のような場所に放り出された。唐突に街の真ん中にでも現れたらどうしようか、とか思っていたが多少は気の利く女神らしい。その裏路地からきょろきょろと様子を伺うように街道の様子とそこを行き交う人々を見る。衣服こそ異なれど、見目だけで言えば俺と変わらぬ人間だ。強いて言えば冒険者という概念があるからか全体的に体躯の良い人が多い印象を受けた。そして上を見る。空はまだ青空であった。先程の宮殿の時点で一応空の様子は見えていたけれど、転移したからといって流石に時間までもが流れた等という事は無いらしい。つまり今は昼頃だろうか。
いざ異世界、と行きたいところだがこの格好は絶対に目立つ気がする。いや、案外大丈夫なのか? しかし……。
未だ路地裏でうじうじしていると唐突に頭の中に声が聞こえてきた。
『おい貴様何をしている。早う出ていかんか!』
この声の主は明らかで、先程まで俺が会話していた相手、即ち女神だった。すぐに分かったとはいえ突然の事にうわあ、と吃驚声が漏れる。
『驚き過ぎではないか……』
「な、何だこれ」
『これは女神の権能の一つ、信託だ。信徒であれば誰とでも心の中で会話することが叶うものだ。……まぁ流石に信徒全てと信託を通じて会話することはせんがな』
どうにも俺は優遇されているらしい。さっきの大量チートバフの時点でそうなのだけれど。というか俺から念じてないから女神テティスが一方的に此方の事情を把握したうえで話しかけているという事になるわけだが、それはプライバシー的に問題が無いか? 安心してトイレも出来やしないじゃないか。
『下らん事を言うな! ……で、貴様は何をしておる?』
「いや……まぁ……今から出ようかなぁ……と」
一言で言えばその出ていくにあたっての心持みたいなものが不足しているわけだが。
『呆れたわ……それ、ならばこうだ』
そういうと自分の頭の中が刹那程の間真っ白になった。かと思うとすぐに明瞭な思考に戻る。それと同時に何故先程まで躊躇いがあったのだろうか、と疑問がわいてきた。
『私の魔法で貴様の精神状態を少し弄らせてもらった。分かりやすく言えば度胸を与えてやった、というところだな』
成程、それは有難い限りだ。
『では、また。何かあったら念じるが良い。此方でも何かあったらまた信託を下すが故、ゆめ気を抜く出ないぞ』
抜いてられる訳なかろうが。女神がいつみているかも分からん状況で。ともあれ問題なく街道に出る事は叶った。
「じゃあ取り敢えず……服を……」
この服がちゃんと買い取ってもらえるのか疑問だが。こんな事なら学ランでも着ていた方が多分珍しさで言えば勝っていたから値が張っただろうか。今更考えても仕方がないと福屋がないか探し回る。ついでにこの街の様子も見て回った。俺の世界と比べるとやはりと言うべきかビルなんてものは当たり前に存在しておらず建物の造りも木に石にレンガという印象だ。ファンタジーで見まくった光景と言えばそれらしくなる。それから遠目にやけにデカい城らしきものが見えた。最初は貴族の家か何かかと考えたが、あれが恐らくテティスの宮殿とやらなのかもしれない。
「っと服屋服屋……」
不思議なことにそこにある文字と言うのは日本語ではないしアルファベットが使われている訳でも無かったのだが、何が書いてあるのか読むことは容易だった。これも女神が魔法で与えてくれたものの一つだろうか。本屋に食器、食べ物を売っているところ、更には異世界独特と言うべきなのか防具屋なんてのも見つかった。今はそこに用はないけれど。
暫く歩くと無事に服屋は無事に見つかったし運が良かったのか自分が今着ている服と交換で適当なサイズの合う服を手にすることが出来た。
無事にまだ昼頃であったのでモンスターとやらを狩りに行きたい所だが、流石に街道にはいないのでまずはこの街を一旦出ていく必要がある。女神から情報としてこの国の大まかな形だとかは教えて貰ったけれど、流石に街の細かな配置だとかは分かる訳もなく、かといって地図を手にしたくても買うための金もなくこの着の身着のままの状態で勘だけでモンスターを探し出して狩らなければならないという事だ。そもそもどのモンスターが売れるとかよく分からないのだが。
「そうか、こんな時の女神様かな」
と思うよりも先に女神からの信託として通信が入る。
『貴様私を便利な何かだと勘違いしておらんか?』
え? あ……いやぁ……ま、まぁ兎も角俺にこの街の事に関する知識が無いのは実際問題として存在してるんで……。
『流石に細かな情報など送れぬからそのうち自分で手に入れよ』
との事だったが、しかしひとまずの狩場を教えてくれた。
『取り敢えずそこの街道を今貴様が向いておる反対に進め。そうすれば街から外れてその内森に出る。そこならばモンスターが出るであろうよ。まぁ他の者たちが狩りつくしてすぐでもない限りはな』
との事なので、言われるがままに街道沿いに歩いた。進んでいくと策が見えた。一部だけが解放状態になっており、そこから出入りが出来るらしい。門番と思しき鉄の鎧を身に着けた人が二立っており警備をしているようだ。特に俺に何かを言う事もなく通り過ぎる時に軽い会釈だけをしてくれた。成程、そういう教育がされているのだな、と感心しつつ同じように俺も頭を軽く下げた。
そして森へと進んだ。