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78話 特大アクアボール

「オレが誘導するから構えてろ。場所は……分かりやすくいくか。川と海の境目、そこにする」

 言いながらガレオスは場所を指さした。そしてすぐさま両手を構えて右手に力を籠めているのが見えた。


「ヴォーテックス!」

 ガレオスが叫ぶと途端に目の前の海からゴゴゴ、と地響きのような音が鳴りだして海の中に渦が発生する。これがさっき使っていたガレオスの魔法のようである。この渦を使ってモンスターを無理矢理動かしているのか。渦が右へ左へと僅かに動いている。

「おら! ボケッとしてねぇでテメェさっさと構えやがれ!! すぐにマザーホエール如き、海ん中から這いずり出してやっかよぉ!!!」

「は、はい!」


 言われて右手に力を籠めた。ここで選択するのは、使い慣れた水の魔法、アクアボール。……ガレオスの叫んでいたヴォーテックスに比べて幾分とダサいと痛感させられたが兎も角として、慣れ親しんだと言っても過言ではない魔法を選定した。

 魔法はどんどんと溜まっていく。女神の恩恵により無尽蔵に近しくなったとは言えまだまだ魔法に関して慣れ切っていない。

「……よし……」

 この調子なら彼が引き上げてくれる頃には問題なく最大火力が叩き込める筈……だ。だけれども問題は別に存在していた。

 ガレオスのパワーが明らかに、先程に比べて下がっているように見えるという事だ。渦の回転だとか大きさだとかが控え目になっている。あれじゃあ、もしかしてモンスターを引き上げる事も困難なのではないか……?

「テメェなぁ!!」

 すると背中を向けたままガレオスが叫び出す。

「オレの魔力が消耗してるとでも思ってやがるだろ!!!?」

「えっ……いや……」

 見るからに、その通りだろう。

「んな事ねーからなぁ!! テメェは気にせずに力溜めてろ!!!」

 そう叫んでいる。けれども明らかにそれは虚構であり見栄であるのが傍から見ても明瞭だ。幾らなんでも俺の魔法を水面に対して打つのはリスキーが過ぎる。威力という面で見たら女神の力でもってガレオスとは雲泥の差であり何が起こるかというと推測の域を出ないけれども多分……マザーホエールどころではない水飛沫でもって下手したら港町全部を水で覆うみたいな事態になりかねない。

 かといって彼の持ち上げる……というソレを手伝う訳にもいかない。当てる方に全力を注がねば。

『貴様はそれに集中しておればよい』

 女神の声が脳内に響いてくる。この心の声もそのまま聞こえているってんなら、すぐさまガレオスに力を貸してあげて欲しい所なのだが……。

『言われずとも』

 そう言うと女神は小さく何かを呟いた。

「!?」

 途端に目の前のガレオスの動きが変わったように見えた。なるほど、正しく力を貸したという事か。

『そういう事だ。私の力の一部を限定的に貸し与えた』

 俺が女神から力を授かったように、それ程ではなくともガレオスにも魔力を分けたという事だ。

 漲ったその力を彼は遺憾なく振るう。


「出ってっきやがれェッ!!!」

 巨大な影が海に現れたかと思うとすぐに飛沫となって空中に物体が現れる。その姿は正しくマザーホエール。あの巨大すぎる鯨そのもの。マザーホエールは持ち上げられたことで若干の唸り声のようなものを発している。先程一度持ち上げた時点で相当な力を消費したように見えたのだが、しかしこれが根気というものなのだろうか彼は汗を掻きながらもマザーホエールというその巨体すぎるモンスターを空中にまで飛ばしてみせた。

 轟音が響いて更には不可思議にも地響きすら起こる。バランスを保ちながらも右手には大量の魔力が宿った。


「はっ……はっ……サクヤ!!!」

 後ろを振り返りながらガレオスが此方に対して喉が枯れる勢いで叫んだ。

「はい!」

『今だ、放て!!』

 テティスの言葉。それに合わせて叫んだ。


「アクアボールっ!!!! フルバースト!!!!!」


 全力で放つ、巨大な水の玉。それが空中に浮かんだモンスターめがけてとんでいく。

 クリーンヒット。

 忽ち水の玉が爆発したかのようになって光が飛び交い、そして爆風に包まれた。

 どぉぉぉぉん。

 轟音。耳を塞ぐ暇すらなく、鼓膜に劈くような感覚がした。


 爆風が止んで視界が段々と明瞭になる。辺りにはかのマザーホエールと思しきモンスターの残骸である肉塊であるとか血しぶきだとかそれから飲み込まれたのであろう魚の欠片のようなものが伺える。当然ながら一番近くにいた俺とガレオスは水浸しの上から更に血塗れになってしまった。

 けれども今はそんなのはどうでもいい。今は只管に事の終了というその事実を噛み締めていた。


「終わった……?」

 流石に疲れてしまって気力の無い言葉が俺の口から漏れる。


「はっ……はっ……ああ、意外とあっけなく感じちまうが、終わらせたんだよ」

 肩で息をしつつガレオスがゆっくり呟いた。

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