77話 マザーホエール
『グォォォォッ!!』
「うおっ!? 何だありゃ!?」
海の沖から何かが現れた。ざばぁという大きな音と共に波が起こる。鳴き声と共に巨大なモンスターの姿が露わになる。サイズにして先程狩った魚のモンスターの倍どころでは済まないなこの大きさは。
大きな鳴き声と共に自ら這い上がったかと思うとそのまま再び水の中に消えた。サイズに見合っただけの水飛沫をあげながら。その水飛沫に飲み込まれるようにして他の魚が陸に半ば強制的に引き上げられた。びちびちと水びたしなだけの砂浜で動いている。それでもって周辺にいた人間は当然ずぶ濡れ状態だ。
「あれは……マザーホエールだ!」
確か女神からもらった情報にあった気がする。しかしながらその情報と比べてサイズ感があまりにも雲泥の差何だ。マザーホエール、流石に俺でも名前だけで鯨であることは理解できた。……鯨がデカい図体をしているのは元の世界でも同じなのだがしかしそれと比較してもやはりサイズが可笑しいように見える。つまりは突然変異ってやつ……なのかな。それに鯨って鳴くのか? ……確か鳴き声自体は存在していたと思うけれども声が人間には聞き取れないとか……そんなものだったような……いやはイルカだったかな。……じゃなくて、今はそれどころじゃないんだ。頭の中がぐちゃぐちゃになっている。余計な考えが次々に巡る。
「成程な……何となく察したよ」
ヒュージボアなんて目じゃないその大きさに圧倒されて思考回路が混乱状態である俺のその横でガレオスが何か意味深に呟いていた。それから頭にハテナを浮かべている此方に説明をくれる。
「マザーホエールは、基本的には攻撃的じゃねぇからな。デケェ魚ってのは食わねぇんだ。……まぁあのサイズだと口開けるだけでちいせぇのが勝手に飲み込まれてくけどよ」
ああ、成程、と頭の中でパズルのピースが嵌まるかのような感覚があった。最近イドロヴィアの人達だとかあとは釣り具の店主だとかが言っていた、小さい魚が獲れなくなる現象というものの正体がコレ、という事か。しかしこんな大きなモンスターに……何で気付けなかったんだ?
「あのサイズは流石に久しぶりで済まないな。多分初めてだろ」
「てってっていうか……どうするんすか!?」
カラマリが後ろで慌てたような声を出している。
「一先ずカラマリぃ! テメェはすぐにギルド戻って報告してこい! それからオルカとクテイスは一応狩場の奴等を避難させとけ!」
「うっ……うっす!」
「了解!」
「オーケー!」
ガレオスの咄嗟の叫びに対してイドロヴィア全員がそれぞれで応答しすぐさま駆け出して行った。
「あとサクヤは早く逃げてろ!」
自分に対しては何も言わないという事に違和感を覚えていたが、成程な俺はあくまで港町に来ただけの人間だからな。
「おい、こら早くしろ!」
そう叫んで彼は海の方向にダッシュした。それから海に向かって魔法を発動させているのが見えた。よく見た限りでは右手でもって海に渦を発生させて左手でもって何か溜めの動作をしているのが見える。
「うぉらっ!!! 出てきやがれ!!!」
怒号。それと共に右手を上にあげる。彼の魔法に引っ張られるかのようにマザーホエールと呼ばれたそれが少しだけ顔を覗かせた。すかさず彼はもう一方の左手で攻撃をした……のだが、外れる。というのも鯨が姿を見せたのは先っぽ程度であってすぐさま隠れられてしまったらしい。それにそれぞれの手で二つの作業を行っているから集中力と魔力とが分散してしまっているようだ。しかもあのマザーホエールのサイズがサイズなだけに持ち上げるだけでも一苦労に見える。
『貴様そこで突っ立っておるつもりか。あやつのみではマザーホエールは倒せんぞ』
「えっあっいや……」
女神が話しかけて来る。マザーホエールだなんだで若干存在を忘れていたがそもそもこのモンスターが出て来る事を真っ先に伝えてくれたのはテティスだったな……。
『貴様の力なら問題ないから共に戦え。貴様なら一発で仕留めれるであろう』
「勿論、行きますよ」
女神の言葉に対して素で声に出して応答した。そして駆け出す。
「あ? ……サクヤ、テメェ逃げろっつったろ!」
「俺も戦います」
「あ……?」
「一人じゃ絶対無理ですよ」
「わーってるよんなことは……っても一人じゃ無理だ」
「だから一緒に戦いますって言ってるんですよ」
少しの間の沈黙。此方を見つめながらガレオスは考えて、それから開けた口を塞いだ。
「…………分かった。テメェはこれでもオレの攻撃防いだ野郎だしな」
俺の出しゃばりに対してガレオスは否定などせずに受け入れてくれた。それでもってガレオスは指示を出すでもなく此方に問いかける。
「テメェ、大口叩いたんだから、何か策とかあんだろうな? ありゃ槍なんかじゃダメージにもなんねぇぞ」
「俺の魔法で……倒せます」
魔力量としては問題ない。問題があるとすれば、それを今この場で実践できるか、という部分になるか。
「馬鹿言うなよ、幾ら耐えたからってんなもの……」
「いけます」
最初は否定的であったがしかし俺の言葉を信用したかのようにガレオスは途端に黙り込んだ。
「……そうか。ならオレが誘導するから構えてろ。場所は……分かりやすくいくか。川と海との境目、そこにする」




