73話 釣り事情
その後見かけたことのあるグリーンボアを見つけた。多分森に入れるか海で粘ればもっと売値の高いモンスターも出たんだろうけれど、それはもう少し後になるだろう。
遠目から見ても大きなぁと分かるようなサイズのモンスターも見えたのだけれど、その近くに冒険者らしい影も見えたから流石に横取りは出来ないのでスルーした。
結局獲得したのは小さめのモンスターが数体程度なので売値としては微妙だろうか。
「ま、こんなもんでいいかな……」
数で言えば心もとない事この上ないがひとまずこの程度で済ませておこう。
そんな訳でギルドに戻った。買取は向こうの街と同じようにギルドの解体所に直接行くべきなのかな? まぁいずれにせよ先に正面から入ってすぐの受付に辿り着くことになるから、そこで真っ先に尋ねたけれども。
「買取をしたくて」
「でしたら基本的には地下の方に降りて頂くことになりますかね。植物等、解体が必要でないものだけでしたら此方での買取になりますが」
「ああ、なるほど……有難う御座います」
軽くお礼だけ言って地下に向かった。
解体所は一度連れられる形ではあるが入った事がある。地下に続く階段の先、
降りて右に出たらば食堂で左側が解体所である。まぁ左右で別れてはいるけれど、解体所と厨房も扉一つで繋がっており当然ながら厨房と食堂も繋がっているのだが。
解体所に入るとガレオスらしい背中が遠くに見える。声を掛けた方が良いのか悩んだけれど、別に直接ガレオスに用事があるわけでもなし、という事で今回はスルーである。
「お、なんだ?」
受付で待機していた大男が此方に気づいて話しかけて来る。やっぱりこっちの受付に関しては解体業の中で手の空いている人間が適当に担当しているのかな。
「ええと買取を……」
「そうか、サイズがでかくねぇんだったらテーブルに出して貰って構わねぇが……」
そう言われて魔法でもって仕舞っていたモンスター達を取り出した。俺が収納魔法を持っている事に対して大男は少し驚いた様子ではあったがそれに対して過剰に反応したりはなかった。普段から慣れてるのかな。それは兎も角として言われたとおりに並べた。前の街とは違って此方は普段から大きい魚とかを目にしてるだろうから今回に関しては逆にどやされるとかあるかな。
「ほーん。ボア系ばっかか」
一通り見て雑に呟いているのが分かる。今のところ彼の目に見えるのはただの冒険者っていう印象だろうか。
「え、ああはい」
「あまり買取価格つかないとは思うが優先買取とか出すのか?」
「ああ、いえ大丈夫です」
「そうか、ちょっと待ってろ」
対応がガレオスじゃないって事で、そもそも眼前の男は俺の事は知らないらしく事務的な対応で終わった。ギルドの買取の仕組みとかはサラシアのいたギルドと大差ないらしく、買取に出した時点で優先買取かどうかを尋ねられたし同じように何か書かれた紙を渡されもした。最後までガレオスは此方に気づいていないようだったので特に今日のうちに話すこともまあないしという事でスルーしてギルドから出ることにした。買取終わるのが明日という事であるので、これからは今日の目的としていた釣りのための道具集めといこうか。
どこに道具店があるのかも聞いてはいないので自分の足で探さねばならない。とは言えそういった行為自体は嫌いではない……のだがそれは嘗てのお話とでも言うべきか。元の世界であれば最終手段としてスマートフォンが使えたのだけれどもこの世界に転移してくるにあたってかは分からないが何処かにスマートフォンを落としてしまった為所持していない。故に調べるという選択肢がとれないのである。まぁスマホがあったとてどの道この世界じゃ通信環境があるわけでもこの世界のマップがアプリで確認できる訳でもないし無用の長物と化していたことは秒読みである。
さて話はそれたが店を探すとしようか。雑にそこいらを歩いていたら見つかるだろうか? 等と気楽に考えていた。実際にそんな方式で今まで店を見つけてきたわけだし……。
今回も無事に見つける事が出来た。先程の語りがフリ等にならなくて何よりである。店としては釣り具専門店のようだった。港町だからこそ存在するって感じかな。意気揚々として店内に入ったのだが、出迎えてくれた店員はそんな俺とは相対して何というかテンション低めである。俺の姿を見て開口一番に……いや開口一番にかは分からないけど真っ先に口から洩れたのは溜息だった。失礼ではないかと思ってちょっと下手に出ながら釣り具について尋ねてみた。
「あの……釣り竿とかを探しに来たのですけれど……」
「……あんた他所モンかい」
「えっ」
何か鬱陶しそうな目線というか口調というかに驚きつつも頷いた。すると店主であろうその男はふぅと二回目の溜息を客の目の前で披露する。
「あの……?」
何事かと恐る恐る尋ねると何だか悲し気な表情と声音で答えてくれた。
「他所モンだってんなら、この時期の購入はやめておけ。今はロクに竿で釣れりゃしねぇんだよ」
「え……そうなんですか」
あれでも昨日は確か釣りをしている人の姿を見た筈なんだがな。それにイドロヴィアの人達がそうだが当たり前のように魚を抱えてギルドに毎回帰ってなかったか?
「そうだ。ちいせぇのは全然だな。代わりにデケェのは獲れるようになったがよ。竿じゃ、んなデケェのは無理だでな」
「でも昨日は……狩場で釣りしてる人とか見ましたけど……」
しかもそれ一人だけ、なんてのじゃなくて数だけで言えば三人四人とかは見た記憶あるんだよな。しかしながら俺のこの疑問に関しては悲しい理由が存在していたらしい。
「ああ、そいつらは大体魚のこと詳しくねぇ莫迦か逃避行かのどっちかさ」
「逃……避行」
闇が深そうだな……。詳しい話を聞くつもりはなかったのだけれど向こうから語ってくれた。逃避行とは即ち魚が獲れないという事実に目をそらして狩りに明け暮れているフリをしている輩が存在するらしい。……そう言えば解体所のフィレナも言っていたか? こう……冒険者で食えてる奴は一握りとか……何とか。それを考慮するなら逃避行というのも存在するのかな。今の所俺の場合は女神のチートとシンプルな運でもって食いつないでいる印象がある。
「……大きい魚しか獲れないって事でしたけど……」
「ああ、それがどうかしたか?」
「いや……その大きい魚とかはどうやって取ってるのかなぁと」
機能はイドロヴィアの人達と行動する機会がまぁ在った訳なんだがしかし狩りの現場を最初から見たりはしていない。というかピンポイントで見ていないまである。確かにあんな大きい魚を釣り竿一つでゲットするなんてのは出来ないとはまぁ思うけど、しかしであるならばどうやって魚を捕えるんだ? 漁船なんてものは無いだろうし網っても大きい魚となると限界があるだろう。
「ああ、んなもん魔法使うんさ」
「魔法……ですか」
「そうさ。魔法でもって魚を動かす。んで陸まで寄らせて殺して刈り取る」
あれか、ルアーである程度船近くまで釣り上げてそこから銛でつくっていう感じのものと同じか?
「ま、そう言うこった。うちじゃんな大層な道具は売っちゃいねぇからな」
「そう……ですか」
釣りが出来ないのは無念という他ない……が捉え方を知り得た。ひとまず店主に軽く礼だけ述べて退店する。それでもって一目散に再び狩場へと足を運んだ。




