70話 男の推察
ホトギという男と再会した。
それから彼に言われるがままにちょこっとだけ雑談を、という運びになった。イドロヴィアの人達が現在狩りの真っ只中でその後に食事という運びが出来上がってしまっているので流石に今から食事は無理だった。と言う訳でこの件を説明したところちょっとした雑談が出来る程度の店に連れていかれた。元の世界で言うカフェ……とはちょっと雰囲気違うけど。まぁそんな場所だ。テーブルに案内されてちょっとした飲み物をサーブされる。
「いやいやすいませんね。お付き合い頂いて……」
「いえ……別に。サラシアさんが忙しいという事でしたら仕方ないですし」
「まぁ忙しくなくてもお話に伺うべきではないと存じますがね」
「……?」
彼の意味深な口ぶりにどういうことだ?と訝しんでいると俺が問うよりも先に説明してくれた。
「いえ。ホトギさんは別の場所から此処へテレポートによって訪れたのでしょう?」
「……ええ、そうですけど……」
「貴方の要件というものこそ知りませんが……サクヤさんがこの街に戻ってきている……という事実に関して怪訝に思われると考えたのですよ」
「ええ……と?」
説明を貰ったうえで結局彼の言っている言葉の意味を上手に理解出来ていない低能をさらした。けれども彼は優しく教えてくれた。
「貴方がサラシアさんにテレポートの魔法について仰っている、という事であれば話は別ですが……。そうでないのであれば貴方が港町にいたはずなのにこうもすぐに戻っていては不審に思われるのではないかな、と」
ああ、成程。そこまで説明をうけたら流石に理解できた。俺のテレポートに関しては基本的に他人に明かしていない。別にこれに関しては口止めとかはないから何となく、ではあるのだが。ただまぁ女神曰くそうそう扱えるものではないもの……だったと思うから教えない方が良いのだろうけれど。で、その上でサラシアには港町に向かうという話こそしたがこの魔法に関しては伝えてはいない。故に俺がこうして戻ってきて港町が云々と相談を持ち掛けたら困惑することになる……と言うことだ。
頭の中でそうして合点をしているとホトギが尋ねる。
「……しかしサラシアさんに一体何の用事だったのですか?」
「何と説明したら良いのか分かりませんがその……予感みたなものを覚えまして」
やはり誰しもというべきか目の前にいるホトギも同じようにハテナを浮かべていた。
「予……感ですか? それはまた魔法の範疇を逸しているように感じますがはて……」
実際には俺が感じたものではなくて女神から告げられたものだからそれを言われてもな、という感想になる。兎も角として続ける。
「その……先程まで港町にいました。そこでこう……予感みたいなものを感じまして」
「具体的には?」
「具体的……ではないんですよね。何となく雲行きが怪しい……みたいな」
「直観的に……そう思った、と? ……つりまりは文字通りに雲の流れが怪しい……だとか街やモンスターの様子が可笑しい……というような変化を抜きにして感じた、という事ですか?」
「そういう事です……」
それからイドロヴィアの人達に軽く聞いてみたという事も話した。まぁ特に参考にはならない事だけど。
「ふむ……申し訳ありませんが……流石に情報が曖昧と言わざるを得ませんね」
だよなぁ。流石に定期的に起こるらしい事象だけで何が起こるかを推測しろっていうのは土台無茶な話って奴だろう。けれども何という理知であろうか、ホトギは俺の言葉のみで何やら考え込んでいたかと思うと少しだけ推察を喋り出した。
「ふむ……そうですねまずサクヤさんは港町にてその予感……とやらを感じたのですよね?」
彼の言葉に対して頷いて肯定する。
「であれば“港町である”という所に何か理由があるのでしょう」
「というと……?」
「港町の特徴に沿った物……という事ですよ。……あくまで予想の範疇でしかありませんが、例えば港町であれば海に何かが起こるであるとか……あとはその町のモンスターに何かがあるとか……でしょうかね。それこそ魚の様子に変化があったというのであれば可能性として僅かながらに存在するのではないですか?」
「うーん……」
ホトギの言葉に頭を抱える。推測の域を出ないとは言えども何だかそれらしい予知に思えて仕方がない。
「……本当にサクヤさんが感じた物はただの予感……なのですか?」
「え?」
いや……勿論それは……本当のことを言えばNOと答えたいところであるがそうはいかないからな。
「いえ……ただの予感であれば気のせいだとかですませば良いではないですか。であるのに貴方は妙にその予感とやらに固執しておられるので、流石に疑問を呈すほかありませんよ」
「うっ……」
言葉が詰まる。女神との関わりを公言するのは如何なものだろうか……。遅かれ早かれこの答えに辿り着きそうな雰囲気を感じるから教えても問題ないのかも知れないけれども……。いや、普通に女神に尋ねるか。
人前で女神に対して念話をするのは初めてである。女神との連絡の際には大体人気の少ない所で行うケースが殆どだ。理由としては俺が声を出しかねない事であるとかあとは立ち振る舞いとかで不審に思われないようにするためである。念を送る事で行う類の会話ではあるのでつまりは声を出す必要は本来ないのだが、何というか癖で声が出る場合が多いのだ。ちょっと目の前の人間相手にコレをやるのはバレるかな? いやでも流石に女神じゃあるまいし読心術が使えるなんて事も無いだろう。
顔色だけは極力変えずに女神に対して念を送ったのだけれど、女神から反応らしい反応が無い。あれ? 珍しいな、と思ってもう一度送った。やはり反応が無いな。
「如何なされましたか? どうにも目線が不安定のようですが」
「あっ……あーいや別に……」
何でだろう。確かに俺の事を四六時中みているというわけではないだろうけど、今までこうして念を送って反応が無かった事態なんて存在しなかった。何時でも此方から何かを問いかけたら俺を見ている見ていないに関わらず返事があったと思うのだけれど……。
それでもって今現在女神との交信を図ったがゆえにホトギにちょっと怪しんだような目を向けられている。何か答えないとと更に模索をしてしまい意識が散漫する。
「……どうにも私の話も上の空のようですね。何か……言えない事情というものがありそうだ」
やべ。心の中でそう叫んでしまう。
「別段、貴方の素性をこれから模索しようなどとは考えておりませんから、そう心配しなくとも大丈夫ですよ」
いややっぱこの人読心術とか心得てる? それとも魔法として存在するのか?
「サクヤさんの顔が分かりやすいというだけです」
やっぱり読心術なのでは? と顔を顰める。
「ははは、やはり分かりやすい」
「……ほんとに表情だけで読み取ってますか?」
「そりゃあそうでしょう? 私には人の心を読み取る魔法なんて使えませんからねぇ」
「……って事はそういった魔法は……存在するの……ですか?」
「さぁて。少なくとも私が知る限りでは……諸人にはそういったモノを行使しうる存在を見た記憶はありませんね」
なんでそんな揺さぶるようなこと言うんだそれなら。けれども……少なからずそういった魔法が無い、と見て良いのだとしたら気が楽ではあるか。
「ま、何か問題があったようですし、これ以上お時間を取らせるのも心苦しいので、ここいらで退店致しませんか?」
「えっ……あー……はい」
やはりまたもや流されるように俺は退店する形になった。俺の抱えていた悩みが少しでも解決するか、と思いきやただただ話に広がりを見せただけである。更に言えば女神と連絡が取れない、という問題が発生したので寧ろ考える事が増えた可能性すらあるな。
一先ず退店をした。代金に関してはさして高くはなかったのだけれどもまたもやホトギが払った。前も奢ってもらった手前それは申し訳ないんだがな、と思って半額くらいは支払おうとしたのだけれども「別にこの位、お気になさらずとも大丈夫ですよ」とだけ言われた。綺麗に流されたな。
退店してから道端にて少しだけ会話した。このまま取り敢えずは解放されそうだから、女神と連絡をとるのはその後でいいかな。
「それで、サクヤさんとしてはすっきりしましたかね?」
「……寧ろ曇ったまでありますね」
「あははは、それは申し訳ありません」
「いえ……多少なりとも相談に乗ってもらえはしましたので……」
「そうですか。では……最後に一言だけ」
「?」
「海辺の川」
「……?」
瞬き一つ。何が言いたいんだ? と思いながら瞬きをした。その一瞬で、何事だろうか、男の姿は何処にもなかった。
「……? え?」
頭の中が一瞬混乱する。けれども何故だろうか、不思議な事に一秒一秒と経つごとに勝手に頭の中がクールダウンしていくのを感じた。




