66話 それは正しくお告げであった
結構歩いた。港町、欠点としては基本的に海に囲まれているからか狩場以外にろくな場所がないようだ。気を付けないとな。目立つにしても少なくとも悪目立ちするのはいただけないから、周りの冒険者の数が少ない場所だ。ここだとよく何が取れるのやら。
場所としては狩場の北西部分。他の街からの道があるわけでもなくかといって川や海が取り分け近いという訳でもない位置だ。そもそもここにモンスターがいるかどうかも怪しい。
一先ずサーチで何かいないか探してみる。肉眼で見てる限りでは何も見えないが、流石魔法というべきか光は確かに存在する。光の殆どは狩場の中央に向いているから多分他の冒険者が狩ってる最中だろうからそっちはスルーで。反対側には小さめの川があったりあとは俺にとってはお馴染みになってきている気がする森が見える。とはいっても最初の街程のしっかりした森ではなくて木々がただ連なっている感じがするから林っていう方が正しいのかな。森と林の具体的なボーダーラインは知らないけど。
兎も角として幸運にも林か分からないがそういった場所があるならここに逃げ込むが吉だろうな。冒険者が少ないとはいっても数人は存在しており彼等が何をしているかというと狩りではなくて釣りであった。流石にそんな場所で狩りをするのは邪魔だろうなと思ったしそもそもモンスターらしいモンスターがいないので冒険者関係なくこの選択になっただろう。その内釣り道具を仕入れて釣りをするのもいいかもしれないな。
森に入って適当に歩く。基本的には光の方に導かれるままに、という感じだ。果たして何がいるのだろうか。……港町だったから魚とか捕まえる事が出来たらいいんだろうけど……流石に川でじっと来るのを待つわけにもいかないしな。
とは言え林の中にも川が若干ある。多分これ海に繋がっている奴なんだろうな。何かいないかな? と思って覗き込んでみるが、まぁいない。多分いても微生物とかじゃなかろうか。流石に何もない川で無為に時間を過ごすのもな、という事で移動再開。光の方向を目指す。
女神から頂いた情報は基本的に魚中心であるからここで何が出るのかまでは分からないんだよな。
……ああ、そうだ。
思い出したかのように俺は女神に念を送って連絡を取らんと試みる。
『おお、サクヤか。港町には無事についたようだの』
「おお、繋がった」
テティスは無事応答してくれた。口ぶりから察するに暫くこちらの様子を観察していなかったという事か。まぁそれは別に良いとして。
「あの今更ながらに気になったんですけど」
『?』
「いやあの……何ていうんですか? ここって地名とかって無いんですか?」
俺の問いかけに対してテティスは素っ頓狂な声で『ヴローシィという国の名があるだろうが』と返した。そうじゃないんだな……。
国レベルの地名ではなくてそれより細かい範囲である。日本で言うなら都道府県とか更にその中の市区町村みたいな話だ。少なくとも今までの会話でそういった名称は一切出てこなくて、港町というのも港があるから……とそれだけの理由だろう。女神のいるあの街にしたってイドロヴィアの人々は「サラシアん所」くらいでしか読んでいた記憶が無い。
「こう……ヴローシィの中でも細かく分かれてたりしないんですかね……」
『ふむぅ……少なくとも私が知る限りではそのような文化は無いな。基本的にギルドの管理者と地をセットで見ている傾向に感じるな』
「管理者とセットってことは……」
『概ね貴様が考えているものと同じようだ。それこそその町に関しては港町と呼ばれているようだがの。他の街は大体管理者で皆把握しているらしい』
結構不便そうだけどこういうのって自然と身につくというか生まれるものではないだろうからなぁ……。例えば国全体を取り仕切る政府のような存在があれば良いんだろうけど女神の存在とか考えるとそれも難しいのかな。でもそうだとしたらよくこの世界運営出来てるな……。
「不便じゃないんですか」
『さぁてな。私は別段個々の街でどうのこうのと見ておらん。本人たちも今の方法で落ち着いておるのだから十分という事であろうよ』
「そう言うもんなんですかね」
『要件はこれのみか?』
「ああ、はいそうですね」
『そうかならば……いやちと待て』
会話を終えようとしたところ、女神が何やら神妙そうな声音でストップをかけて来る。何だ……?
「……はい?」
『少し雲行きが怪しいな』
「……ええと?」
雲行き? 空に関して言えば先日降ったばかりなのもあって快晴だと思うんだが。
『天気の話など誰もしておらんわ。そうではなくだな……私にも詳しい事は分からんが、何かが迫っておるという話だ。貴様とあのギルドの人間がおれば問題は無かろうがな。構えておくに越した事はない』
問題ない、と言われても一体何が起こるのか此方からしたら何も分からないから大問題だと思うんだけれども。
「え、いやちょっと!? これって俺こんなところで狩りしてて大丈夫なんですか!?」
『さぁてな。私にも不穏である、という事以外は何も分からぬからな』
流石にこんな盤面で冗句をかますような女神ではないのは承知している。という事は少なくとも何かしら起こるのは確定していて更に言えばそれが具体的に何か、をこの女神自身も知り得ていない、という事になる。
「ええ……」
『一先ずは貴様を中心に町を観察しておく故……何かあったら伝えるようにはする』
「え、ほんとに何かあるんですか!? え?」
『分からぬから伝えたのだろうが。一先ずは様子見する他あるまい』
「そ、それならせめて街の人に注意喚起とか……」
『無駄に民を混乱させるのも問題なのだ』
確かいつ起こるのか、とかそもそも何が起こるのか、とかそれが不明確なのだったか。その状態で下手に他の人達に同じような話をするのは問題があるってことか。まぁ暴動とか起こりかねない……かもな。
『流石に詳しい事が判明したとなればお告げという形をとるが……今の段階ではそうはいかぬ』
「そうかも知れないですけど……」
だからってその何か分からないけれども何かやばい事が起こる、というそれを俺にだけ伝える行為も本音を言えばやめて頂きたい。というか俺にだけ片棒を担がせないで頂きたい……。
『ま、そういう事だ。此方でよく調べておく故貴様は一先ずは普段通りでよい。そっちで何か動きがあったらすぐに伝えよ』
そういって此方に対して無駄に不安感だけを煽って女神は去ってしまった。まぁ去ったという表現が正しいかどうかは別であるけども。




