61話 リーダーと部下らしい存在
「此方におかけください」
「ああ、はい……」
「今水持ってきますから」
この辺のシステムとかに関しては元の世界に似てるな。流石にドリンクバーとかは無いだろうが。
出された水をちびちびと飲みながら一人で待っていると厨房の方から意気揚々とした感じでガレオスが大量の皿を器用に乗せてやってきた。バランス感覚どうなっているんだと思ってしまう持ち方である。皿の数はあの魚のサイズだけあってガレオス自体が持っているだけでも6皿あって、彼の後ろから他の店員が2皿ずつ運んできている。
「おらテメェ等! 俺のおごりだ! 好きに食え!!」
そう言いながら6皿の内の幾つかを他のテーブルに運んでいた。その言葉に食堂にいた者たちは沸き、それからガレオスを讃えている。それでもって後ろからついてきている店員も同様である。ガレオスは4皿程残して此方にやってくると、ドン、と置いた。
刺身に揚げ物にエトセトラエトセトラ。兎にも角にも豪華というのが印象である。湊町と呼ばれているだけあるな。刺身の概念があってもまぁ当たり前というべきか箸の文化がアジア付近であるというのも相まって刺身の概念こそあっても箸で食う、というものではないようだ。刺身に関しても当たり前というようにスプーンやらフォークやらである。
刺身につける所謂醤油も小皿式ではなくて先んじて身の上にかけるらしい。成程な、と思いながら見ていた。
しかしながら恩だの弁償だのとこのガレオスという男に先程から良くして貰ってるのが忍びないしついでに言えば怪しいというか……疑問に思ってしまう。
他の客に関しては沸いてそのままの流れでがつがつと魚に食らいついていた。がはははと高笑いを添えて。
「おら、気にせず食えよ」
「いや……何かこう……申し訳なくて」
「俺が食わせてぇだけだっての! 良いから食えって! うめぇからよ」
「は、はい」
匂い的に気になった事としては魚の上につけられたもの、それが醤油じゃなさそうっていうのは気になった。醤油文化もないのかな? まぁそれでもいい匂いではあったので口の中に含んでみる。
「美味しい……」
「あったりめーだろーが!」
味的には醤油じゃなくてポン酢とかに近いかもしれないな。それでも凄い美味しいや。これ名前何だったかな。女神の情報データを頼りに探った限りだと、キングフィッシュとかいうらしい。結構直球なネーミングをしている。まぁ王様というだけあるのかも知れない。これキングってついてるし、女神からの情報によれば結構売値はある筈なんだけれども、それをこう当たり前のように俺であったり他の冒険者であったりに配っていいのだろうか。
キングフィッシュの登場に騒がしくなる地下食堂。若干苦手なんだよな、と思いつつも魚が美味いので飯は進む。
ガレオスは何の意図か知らないけれど俺が座っているテーブルと同じ椅子に座り……というか俺と対面する形で頬張っていた。
「おい、エールだ! エール寄越せ!!!」
「え、でもガレオスさん仕事は……」
「キングフィッシュを酒無しで食えっつーのか! テメェは馬鹿か!!! こいつは酒と一緒に食うからうめぇんだよ!」
店員に当たり前のように怒鳴りつけて酒を持ってこさせた。しかもジョッキのサイズも結構デカい奴。おろおろとした様子の店員に申し訳ないという思いを募らせてしまう。多分俺がいなければこうして振舞うことって無かったんじゃないかな……分からないけど……。
酒が出て来るや否やガレオスはそれを一気に飲み干して高笑いする。一気飲みを平然と成し遂げたかと思えばすぐさま店員を呼んで二杯目をオーダーしていた。良いのかこの管理者……。
「サクヤは飲まねぇのか!?」
「いや自分未成年何で……」
「あ? ミセイネン? んだそりゃ」
何という事か、この世界もしかして未成年の概念って存在しないのか? それとも単純に目の前の男が酔った所為なのか……? 俺の言葉も虚しくガレオスは平然と俺の分のエールを頼んでいた。店員は依然としておろおろとしている。そのおろおろが未成年という概念によるものであれと取り敢えず願う他ないな。
そんな状態でいると、からんからんとベルの音がする。地下食堂の扉が開けられた時に鳴る音だ。
誰かが入ってきたようである。ちらりとドアの方を覗いてみると三名程の男の姿が見える。その者たちは此方のテーブルに真っ先に目が行ったようで声を発していた。
「あれ、リーダーじゃないっすか!」
「まーた酒飲んでやがるぞ此奴」
「うるせぇな! テメェらもどうせ飲みに来たんだろ」
おん? リーダー? 何だか聞き覚えのある単語だな、と思った。それでもってガレオスの横にいる俺に対して反応を示した。
「リーダー何すかこの子?」
「狩りでちょっとあってな。魚運んで貰った礼に奢ってんだ」
「運んで貰ったって……ガレオスが運んだ方が百倍早くねぇか」
「明らかに筋肉が雲泥の差っすもん」
「ていうかリーダーが狩りしてるところで出くわしたって蛮勇では」
俺の魔法の事を知らないからとは言え散々な言われようだな。しかしやっぱりこの目の前の酒飲みの狩りって近づくものではないという事で有名なのか。
「どんなチートっすか!?」
「チートってテメェ等なぁ……こいつはあれだ、収納魔法持ってんの」
ガレオスの発言に対して部下であろう三名はというと……。
「……収納魔法って何すか?」
「おいお前知らないのか!?」
「これは初心者だ」
一名がこの魔法自体を知らないという現象が。これ一応ロイっていう冒険者ですらない女の子でも知ってたものなんだけど……。
「バッグ無くても色々詰めれんだよ、それくらい知っとけ」
「っても多分ターニバも知らないっすよ」
「あいつは脳みそ筋肉だからな」
会話から察するに少なくともこの入ってきた三名とそれからガレオスは何かしらチームを組んでいるようであり、尚且つこの場にいない冒険者が他にも存在するという事か。
「リーダー俺らも食っていいすか?」
言いながら三名は俺に対しては断りもなく……というかガレオス自体の返事も聞かずに三名はテーブルに座った。それからまだ手付かず状態の皿をひょいと取り上げていた。それでもってガレオス同様に店員に対してエールの注文をそれから水を二杯頼んでいた。このノリは苦手である。はっきりと言える。けれども俺の心情を察したのかそれとも単純に性分なのか知らないがガレオスが彼らの行動に対して言葉を発する。
「テメェ等ちゃんと断り入れろっつーの! サクヤだって困惑してんじゃねぇか」
「まぁまぁまぁ」
男がそんな事を言いつつ渡されたエールをグイっと飲み干していた。迷惑極まりないな。
「ったく、すまねーな」
此方を見ながらガレオスが謝罪する。気のせいか泥酔というか悪酔いしてた気がするガレオスが何か普通に戻っている気がする。ちらっと見るとガレオスの手にはエールではなくて水が構えられていた。先程頼んだ水か、これ。
「いや、まぁ別に……」
ここで邪険な態度をとれるわけもなく。しぶしぶ、といった形になった。このやり取りを見てまたも部下と思しき男たちが反応する。
「っても収納魔法だけでリーダーが気に入るってのも気になるな」
「あ?」
「だってそうじゃないっすか。少なくとも自分の目から見たらただの冒険者っすよ。え、ほんとに何があったんすか?」
今度はこっちの方、俺に対して興味深そうに尋ねてきた。他の二名に関しても若干興味があるのか此方に目が向いている。
「いや……別に大したことは……」
「大したことしてないとガレオスと同じテーブルで飯食うなんて出来ねーぞ」
と言われてもほんとにそれらしい事してないんだけどな。ただただガレオスの放った魔法に対してもろに食らうだけ食らって流れで服を弁償されたくらいだからな。
「いや、だってほんとに……こう……ガレオスさんの魔法くらって服敗れて弁償してもらってみたいな……」
そう言うと皆が口々にそれじゃん、といった反応を見せた。それでもって笑い出した。




