59話 弁償
港町に訪れてすぐ。そして流れるように狩場まで向かいそこで出会った男。彼はギルドの人間であった。
「ギルドの管理者……え?」
「あ? 何だよその目は。疑ってんのか?」
「え……あいや……その……」
ギルドの管理者って結構忙しそうというか……もっとこう文官的な見目の人に任されてるものだと思っていたというか……。俺が出会た管理者がサラシアという仕事人間という言葉が相応しい人物であったというのもあり、何というかギャップというか違和感が凄い。
「まぁいいやギルドに行くってんなら案内するぞ。というか服の弁償してぇから来てくれ」
「え、あの……そこの魚は……?」
陸の上でびちびちと魚が跳ねている。陸に無理矢理あげられてからそこそこの時間が経過しているのでその動きも鈍くなってるようには見えるが。
「ああ、そうだったな。このサイズだと流石に切らねぇと運べねぇか……」
サイズ的には俺の身長を余裕で越えてくれている。これ普通の冒険者たちってどうやって持ち運びするんだ……? 流石に切り分けるとか行ったとしても限界があると思うんだが……。
「いや、まずはアンタの服の弁償からだな。だからまぁ今回は放置だな」
「あ、あの……それなら」
「?」
収納魔法は確か誰でも使える訳ではないが、俺にしか使えないチートみたいなものではない筈だから明かしても大丈夫だよな?
「収納魔法ありますけど……」
「マジか! 容量あるだろ、良いのか?」
「ええ、まぁ……これくらいなら全然入るんで……」
「そういう事なら頼むわ。この恩も後で返させて貰うぞ」
そう言う訳で気まぐれな提案からその巨大すぎる魚を持ち上げて収納魔法で仕舞った。最低限の絞める作業だけ先にやってもらった。若干生臭いか。
「よし、助かったぜ。それじゃ行くか」
言われるがままに彼は歩きだし始める。有無を言わさぬそれに従う形で俺もその後ろをついていった。先程は川を渡る時にまさかの大ジャンプという力技を見せてきたが俺を案内するという事で平然と橋の方まで歩いてくれていた。
その道の途中でくるりと俺の方を振り向きながら男が尋ねて来る。
「そう言えば名前言ってなかったな。オレはガレオス。アンタは?」
「サクヤ……です」
「サクヤね、OK。見た限りじゃ旅っぽいけどどっから来たんだ?」
「ああ……えーっと……」
今更ながらに思うのだけれどあの街って名前あるのか? そもそもここにしたって港になる町だから港町と呼ばれているように感じる。具体的な地名ってなると国規模の港町も最初の街もひっくるめたヴローシィというその単位くらいでしかものを知らない。けれども多分ではあるがガレオスと名乗ったこの男がギルドの管理者であるならサラシアの名前で判別できるか?
「えっと……サラシアさんがいたギルドの所から」
「ああ、あそこか。まぁサラシアしか知らねーとかなら俺が管理者ってのに違和感持つかもな」
「サラシアさんだとなんか普段から書類とか書いてたイメージあるんですけれど……」
管理者の仕事じゃないのか? 少なくともここで狩りをする余暇というか時間を確保できる程にこの男が仕事人という風には見えないんだよな。
「そりゃ彼奴がバケモンレベルに仕事早ぇだけだっつーの」
ガレオスの話によると管理者という立場ではあるが文官的なサラシアとは異なり町の警備や治安の維持、冒険者たちの安全の確保等を常としているらしい。それでもって書類関係は管理者権限で人を雇って頼んでいるのだとか。いいのかソレ。
「別に珍しい例じゃねーぞ。サラシアが異常何だよ」
「そ……そうなんですね」
「サラシアの所は初心者の冒険者ばっかりだから治安の維持も最低限しか必要ねーんだわ」
「そう言えばその……治安の維持って具体的に何をしてるんですか?」
「あん? そーだな。それこそやべぇモンスターが出てきた時の対処だったり悪漢の対処だったりだな。そうなったら頭より力だろ」
確かにガレオスのガタイ相当良いから力仕事とかそうなったら役に立ちそうではあるし、対極的なあのサラシアは聡明そうな見た目で同時に俺とタメを張れる程度の筋肉量にしか見えなかったもんな。
「取り敢えずは服を何とかしねーとな。ほれ」
会話を続ける内に連れてこられた場所は店。服屋であった。ガレオスは俺に対して「弁償だからな。好きに選んでくれ」と告げた。有難い限りではあるのだけれども、正直どれが良いのかはよく分からないんだよな。
店の中から店員さんが出てきたかと思うと俺の後ろにいるガレオスに反応を示して声を掛けていた。
「おおガレオスじゃないスか!」
「いよう!」
「どうしたんスか?」
「ああ、そこの冒険者とちょっとあってな。服の弁償だよ」
「ああ、なるほど。そういう事なら俺が見繕ってやりますよ」
言いながら店員はずずいっと此方に近寄ってきた。今回に関して言えば自分で選ぶのが面倒だったしまぁ有難いっちゃあ有難いかな。
店員に動きやすそうな服を、という注文だけしておいた。
「しかしアンタ、ガレオスが弁償する事態って……一体何したんスか?」
「狩場で色々ありまして……」
そこまで言うと納得した様子で店員は頷いて俺にアドバイスをくれた。
「って事はもしかして狩場の川下にいたんじゃないスか?」
「ええ……そうですね」
「あそこはガレオスがよく荒っぽい狩りをするってんで有名っスよ」
「荒っぽいとは何だ荒っぽいとは!?」
「実際そうじゃないスか~。冒険者たち皆近づいてないの知ってるっスよね?」
「ぐうっ……」
ガレオスが狼狽えた。確かにあの川の付近に人が近づいてる様子が無かったし俺が近づいた時に関しても皆何というか怪訝というか変わった眼で見られていたという記憶がある。
「お客さんの体格だとこの辺スかね。後は好きな色とか生地とかで選んでもらえれば……。あガレオスの財布を苦しめたいならこの辺っスね」
言いながら提示してきた服を見ると生地感は良さそうではあるがその言葉を信じるなら多分高いんだろうな。幾らなんでもそこまで意地の悪い人間のつもりはないので、安価なものを選ぶとしようか。
「ええとじゃあ取り敢えずこれ……で」
「一枚で良いんスか?」
「テメェもっと買っとけこら。そんだら、あっちにある黄色いのと……それから……」
ずいっとガレオスが割って入ってきたかと思うともっと購入しろという訳の分からない事を申し出て、勝手に数着俺用の服を買っていった。
「お客さんコレ持っていけるんスか?」
「こいつ収納魔法持ちだから問題ねーよ。それより幾らだ?」
言いながらガレオスはバッグから麻袋を取り出した。じゃら、と音がするソレを店員に渡す。
「えーっと三着なんで……まぁガレオス相手なんでちょっとまけて2000ケルマでいいスか?」
「今回は弁償だからまけなくて良いっつーの。ちゃんと代金分抜いとけよ」
正直弁償されてる側というか奢られている側からすると申し訳ないことこの上無いのだが、ガレオスが変な所できちっとしている性格故にご厚意すらスパンと打ち砕いている。
「まぁそういう事ならその方がこっちも儲け出るんで有難いスけど……」
麻袋を開くと慣れた手つきでぱぱぱ、と小銭を取り出している。何となくで枚数を数えた限りでは24枚だったので2400ケルマということか。しかし店員に関してはあまり数えている様子が無いのだけれども、その後の精算段階の時にきちっと「んじゃ2400ケルマ頂いたっスからね」と発言していた。これが慣れというやつなのだろうか。
服の購入も終わり、貰った服は指示通りに魔法で仕舞った。それから店のワンスペースを借りて着替えだけはさせて貰った。




