55話 雨宿りを食らった
次の日。これで街を出てから三日目になるだろうか。サラシアが言っていた徒歩距離というか時間みたいなものをそのまま信じるなら確か四日か五日で港町じたいには入る事が出来るらしいからそろそろ半分を過ぎていてもいい頃合いだよな。
風景が特に変わり映えしないというか特に真新しいものが存在しないので退屈な気もしてしまう。魔法こそあるけれどもむやみやたらに使うのも何だかな、となるしかといってモンスターも見事にここでは出現しないという事で暇ったらありゃしない。しかもサーチの魔法を使っても光らないという事で相当な距離をしかも道を外れて進まないとモンスターにも出会わないという事でそこまでしてモンスターに出会いたい、という気持ちでもないから大人しく道をそのまま進んでいく。しかしながら異世界にきて多分一週間近くたったと思うのだけれど、雨に見舞われた記憶がないなとふと思った。勿論元の世界にしたって雨が降らない時期は存在していたしこちらの世界に関しても常に雲一つない晴れ模様と言う訳でも無いからまぁ偶然だとは思うけど。
「まぁ降られたら地面ぬかるむだけだからいらんけども」
人の道とはいっても別段石畳があるとかそんなしっかりしたものではなくて、草原の中にこう、草をひっくり返したりして除いて作ったまぁつまりは土で出来た道である。なので雨が降ったら道が歩きづらいことになるだろうし只管不快な感覚になっていたことであろうな。
「雲行きがちょっと怪しい気はするかな」
そう言って言語化したからだろうか、不思議な事に雨が降り出した。まぁ小雨であったからか全然気づかなかったのだけれど、地面が若干湿っている。
「あれ……手には何もついてないよな」
試しに触れてみるが、特に肌に水滴らしいものは無いし、服も濡れている感じがしない。
けれども歩いてる足元というかその地面は濡れているんだよな。
「……まさか……?」
ふと上を見上げてみる。雨が降っていればそのまま顔に雨というか雫か落ちて来る筈なのだが、それが無いけれども不思議な事に雨らしいものは見える。
「これ……結界?」
自らがはった結界。特にはれたかどうかすら分からなかったソレであったが、もしや今俺が濡れずにいるのは結界のお陰なのではなかろうか?
段々と雨の時間は伸びて辺り一面が濡れているのが分かる。しかしながら俺はというと靴は兎も角それより上に関しては基本的に何もなってないのである。
「これ効果範囲が分かるかもしれないな」
とは言えこの状況から考えて俺を軸に移動式の結界が展開されているのだから腕を伸ばして分かる距離ではないだろう。辺りをきょろきょろとみてみると一目瞭然というか、一部空間だけ雨が降っていないというか……こう、その部分だけ別空間のようなそんな空間が俺の周りにだけ展開されている。つまりはそういうことだ。
「俺の腕より少しだけ範囲が長そう……?」
地面は兎も角服が濡れないのは有難いな。とは言え当然ながらぬかるんだ地面でその感情も見事に相殺されているわけだが。
「早く港町付きたいな……それか早く雨あがれば良いけれど……」
段々と雨足が強くなっていく感じがする。流石にこのまま進み続けるのは愚策かもしれない。ただただストレッサーが溜まりそうだしな。取り敢えずあの地面から逃れようと思い土の道から一度横に退いて草の方に移動する。靴はまぁ結局濡れるがどうにも草がしっかりしているようで、地面を踏んでいる感覚は少ない。
なのでまぁ俺の場合は結界魔法のお陰で雨宿りの必要は無いので草の上を道にそって進んでいくことにした。
暫く歩いているが冒険者とすれ違う事は無かった。普通なら雨が落ち着くまで雨宿りするという事かな。結界魔法に関しては使用者が確認されているらしいし誰かに出会ってもそのままいて大丈夫だと信じたい。
「お? おい、兄ちゃん雨だろ、何つっ立ってんだよ」
今日は言葉に命でも宿っているのだろうか、そんな事を考えた途端に冒険者に出会った。見つかったという表現でもいいかもしれない。ひょい、と木の陰から出てきたのだ。
「うおっ」
流石に吃驚してしまう。
「おう……? どうした? ……ってか兄ちゃん何だよ、濡れてねぇじゃねえか」
このまま無視して先を急ぐ、という選択肢が取れそうも無いので出てきた男に従う形で木の下に移動した。枝や葉が大きく育っており雨宿りに適しているようだ。
それにしてもこれがコミュ力というやつなのか、男はぐいぐいと話しかけて来る。解体所の人達に関して最初の方に抱いた感覚と同じようなものを真横の男にも感じる。体格がガッチリとしており、何とも威圧的に思えてしまう。取り分け解体所の人達と比べても若々しくこう、目つきとかそう言ったところでも厳つさを感じる。
「兄ちゃんやっぱ濡れてねぇよな、どういうこった?」
「あ……えーっと……魔法で」
「はー便利だな。俺ぁ使えねぇけども。しっかし久しぶりの雨だな」
「……」
返しに困る。久しぶりと言われても俺としては初めてのこの世界の雨だからな。
「兄ちゃんどっから来たんだ? 道のり的にはあれか、サラシアんところの街か」
「ええ……はい。港町に向かう途中で」
「お? そうなのか! 俺ァその港町のモンだぜ。そっからちょっくら用事で歩いてたんだよ」
「へぇ……」
「おうよ。お前、アレ食ったことあるか? マジェスティートラウト」
「マジェスティートラウト……?」
ああ、と頷く。勿論本物をこの目で見たわけではないのだけれど、女神がくれた情報の中にその魚の事は存在している。但し貰った情報に関しては名前と見た目、それから売れる売れない程度の情報でしかないが。
「港町でとれる魚だよぉ!」
彼の言葉を耳に入れつつ思い出してみる。見た目としては多分鮭がそれに近しい見目をしてるな。しかしながらサイズがデカいらしい。
「うちのリーダーがよく捌いてくれんだよな」
「リーダー……ですか?」
「おうよ。俺のパーティーのリーダーだよ。イドロヴィアつーんだけど知らねぇか?」
「いや……知らないですね」
「おーマジかぁ! 結構有名なパーティーだと思ったんだがな~」
「ああ、自分まだ冒険者になって日が浅いもんですから……」
その情報に関しては女神からもサラシアからも本当に受け取っていないので有名だと言われても知らないものは知らないのだ。
「あーなるほどな。だからそんな身なりしてんのか! っておい、今気づいたけど兄ちゃん荷物とかねぇのか?」
結界魔法を既に見せてしまってるし収納の魔法に関しては散々街の人々に明かしてるから大丈夫だろうという判断の元、スッと魔法を発動させて中から食糧を取り出した。
「うぉっ!?」
「収納の魔法あるんですよ。食糧とかナイフとかは此処にしまってるんで」
「へぇー! すげぇな! え、これめちゃくちゃ便利じゃねぇか!? おいどうやんだ!?」
どうやんだ、と言われてもこれ確か魔力量がものをいう魔法だった記憶があるのでそこいらの人じゃ難しい気がする。そもそも教えてくれ、と言われても俺にしたって結構感覚というか勘で身に着けたようなものだし説明が難しいんだよな。
「ううん……これ魔力量に左右されるっぽいので……どうでしょうね」
「お? そうなのか。まぁそうか、確かにそうだな。確かにんなもの簡単に使えたら皆使ってるわなぁ!」
何だか勝手に一人で納得してくれたらしい。無駄に会話しなくて済むならまぁ良いか。
少し情報探るがてらに過去の話見返してたら誤字で関西弁が生まれてたので慌てて直しました。




