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42話 テティスの導き

 女神テティスから問われた、とてもシンプルな質問。

「どう……って」

 上手く言葉に出来ない。上手く言葉を読み取れない。

『どんな形でもいい。それこそ第一印象だろうが何だろうが好きに言え。いや思うだけでも良い。私なら読み取れるからな』

「読み取れるって……」

 何たる迷惑な神様だ。彼女について、どう思っているのか、か。悪い人ではない、処か根っからの善人であろうしそれでもって無垢である……と思う。今考えれることはそれくらいで、それこそ彼女が言った言葉に対しての明確どころか抽象的な答えすら浮かばない。


『なるほどな、では次だ。貴様は彼女を信じれないでいるな、それは何故だ?』

「それは……」

『言わんでも分かるがな。貴様の場合はシンプルに経験がないからだろうな』

 考える間もなかった。

『言っただろうが、数多の信徒の思考を見てきたと。貴様みたいなタイプの人間だって多い。簡単に言うと“誰かを好きになった自分が恥ずかしい”それでもって“フラれる事が怖い”そのような思考故に素直になれん者は多い』

「……」

 端的でかつ的確なので黙る他無い。鋭利な刃物で一気にぐさりと差し込まれた気分だ。


『一つ仮定をしよう。彼女の言っている事が全て本心だとして、周りも何とも思わないとして、したらば貴様は彼女の言葉に対してどう反応する?』

「どうって……」

 世間体がどうだとかで彼女には無理矢理拒否をした。それがなくなって、それでもって信用しきれていない俺、というものもいなくなって、そんな状況を仮定したとして、どうなるだろうか。

「それでも……俺なんか選ぶなんてその……間違ってるというか」

『はん、そう来たか、ならばよい。貴様に提案だ。ちと来てもらうからな』


 そう言うと女神様は唐突に俺の脳内でもって何かを唱えた。それで突然視界がブラックアウトする。すぐさま視界は明瞭になり状況を確認するとそこは見慣れた場所、女神の寝室であった。

「なん……ですか」

 気力のない声を出す。それに対して女神は呆れた声と顔で返事をする。提案なんて普通にあのまま念話で終わらせてくれれば楽じゃないか。しかもわざわざ女神側から魔法で以て呼び出してくるだなんて。

「ふん、貴様の顔……改めてみると酷いな。兎に角、私がする提案は一つだ」

 そういうと手を翳してくる。手の平を。

「私の権能でもって貴様の感情をコントロールすることは容易い。貴様のその下らん思考も何もかも制御することが出来る。貴様に多少の度胸やら血の耐性やらを与えただろう? それと同じだ」

 確かに人と会話する事に対してのハードルは少し下がった気がするし何よりロイが倒れたあれ、ヒュージボアの大量の血しぶきに関しても吃驚はしたし、それこそ気持ち悪いというような感情も抱いたがけれども気絶まではしなかった。しかしながら、それを持ち出してどういうことだ?

「分からんか? 私が魔法を使えば貴様の今の悩みは解決できる、という事だ」

 俺が幾ら自らに劣等感を抱いていようが、彼女に対して何かしら思う所があろうが関係がなくなる、というそういう事らしい。ただただ女神テティスによってプログラミングされたかのように考えなくただただ彼女に「OK」の返答をするという。

「それって……」


「どうした、今の貴様ならそれこそ泣いて喜ぶかと思ったのだがな」

「だって……それは流石に……」

 言語化できないけれど流石に問題があるというか、感情の支配なんてされるのは困るし自分が自分じゃなくなりそう……というかなくなるだろう。

「ならば貴様自身の感情そのままにあやつに答えを送れば良かろうが」

「答えったって……」

 それが容易ではないからこんな事になっているのではないか、それこそ明瞭な言葉一つ浮かべば解決できる……筈だ。

「先程浮かんでいたではないか、彼女の行動が、間違ってる、とそう述べただろう? それが貴様の答えと言えるな。それを言って断れば全て解決出来るだろう」

「ロイの行動が間違ってるってそんな……そんな事……言えるわけ」

「何だ? 言えないというのか?」


 感情がぐちゃぐちゃになっていた。彼女の、ロイの言葉で動揺が生じてそれで自らの今までを考えてしまって不思議と収集がつかない所まで走っていた、そんな感覚があった。

「言えない……何ていうか……」

「言語化できないなら言わずとも良い。単純なものだからな」

 そう言うとテティスから俺の考えとやらが語られた。聞けば確かにとても単純なものだった。

「貴様の心情は単純だ。彼女が嘘をついているなどとは実は微塵も思っておらん。それと共に当然ながら嫌いでもなんでもない。しかしながらそう思わねば納得出来ん不良品めいた脳みそをしてるだけだ」

「不良……品……」

 結構な言い草だとは思うけどそれでもあながち間違っているとも思わなかった


「貴様の元の世界での行い等知らん。興味もない。しかしながら命を救ったのであればそれは誇ってよいだろうが」


「でも……」

「でもも何もあるか。そうも捻くれておるから貴様そんなんなんだぞ! もうまだるっこしい奴だな。あとは本人と話し合え、阿呆めが!」

 途端にテティスは俺の目の前に手を翳した。同時に小さく呪文を呟いて俺をワープさせる。しかしながら、その場所は彼女の家などではなくて、見慣れた路地裏だった。てっきりそのまま直接飛ばされると思っていたのだけれど。


『はっ、ここで直接飛ばすことは容易だが、それでは貴様の為にはならんしな』

「なる……ほど」

 この後、彼女の下に向かうかどうかは俺自身が選ぶべきことだ、と神様は語った。

『だが私は、ロイとやらに会って話を聞くべきだと思うがな』

「話……を」

『女神があれこれ語ったとて所詮は貴様の導きにはならん。貴様のそれを正しく解決できるのは、結局のところあやつのよ』


 テティスの言葉に乗せられたつもりはない。けれども不思議と彼女と、ロイともう一度会ってみよう、と思った。ちょっとした気まぐれでその足は彼女の店に向かっていた。

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