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41話 女神からの問い

 無理矢理な状態で彼女の店を後にした。最低甚だしい印象だけを植え付けた気がする。彼女から告げられた最後の一言はまるで俺が戻ってくるとでも思ってるような言葉。たかだか出会って二日の人間にしていい信頼ではないだろうに、と思った。

「……」

 結局どうするのが正解何だろうか。分からないまま、ただただ忘れようとしたくてそれだけで意味もなく走ってギルドに向かった。訳が分からないままだ。

 何もかもが分からない。飄々としてそれらしく生きていたつもりでいたけれど、これは何だ? 自分で自分が分からないでいる。唐突に心の中に、感情の中にヘドロの様なものが絡みついて取れないでいる。走っても走っても当然ながらそれが拭われないし吹き飛んだりもしない。それの所為でというのか、何も分からない、どうしたらいいか分からない。

 全力疾走しても特に雑念が振り払われることは無かった。

「何なんだよ、たかだか二日だろうが……」


 ギルドの裏口に辿り着いてから無言で夕方ごろに貰った紙を取り出して受付のおっさんに見せた。カラボスではない。

「ああ、カラボスの奴ね。今呼ぶよ」

 そう言って大声で彼の名を呼ぶ。此方に気づいた解体業者のおっさんであるカラボスが「おお、サクヤか」と反応してくれた。完全に名前は覚えてくれたらしい。

「ええと鑑定総額が……フォレストディアーはあれだ、フィレナの時と違って解体してねーし状態がちょっと悪かったから価格下がってんな。まぁ分けてないから十二分だろうがよ。んで、ブラッディベア、ヴァインスネーク、ファントムツリーとそんでボアで26000ケルマってところだな。まぁ解体費用やら優先買取やらで引かれた分がそれだな」

 言いながらカラボスは麻袋を渡してきた。ジャラ、と小銭の音がした。幾らか確認する気は起きなかった。

「おい、サクヤ。お前なんか変だぞ」

 ずい、と顔を覗き込まれた。その状態でカラボスは俺に問いかけてきた。

「えっ」

「一応俺ぁ解体業だが受付もやるからな、嫌でも冒険者共の顔はみんだよ。……てかそーじゃなくてもお前の顔見りゃわかっけどな」

「そんなに……ですか」

 顔にはそこまで出してないつもりでいたのだけれど、どうなっているんだ俺の表情。生憎と現時点ではこの世界で鏡を見た記憶が無い。兎も角としてまぁ感情が現時点でぐちゃぐちゃであるという自負はある。というか至極当たり前だ、何せ先程のやりとりがあるらな。まぁ眼前のおっさんに話したとて解決する気がしないけど。

「……あれか、女か!?」

「えっ」

 カラボスが唐突に言ってきた。何で知っているんだと驚きのあまり思わず声が上ずる。それを見逃さず、カラボスは突っ込んできた。にやにやした表情である。

「だぁはっはは、図星か! 女の悩みたぁうらやましいなぁ! あれか、好きな奴でも出来たか!? それならアタックしかねぇだろ!!」

「いや……」

 ぼんぼんと背中を叩いてくる。やめてくれ。カラボスが笑いながら話してくるのだけれど此方としてはそんな呑気に笑える話ではないしなんなら彼のその態度だけでもまた感情をかき混ぜられてるかのような感じがして不快やらストレスやらを覚える。故にすぐさま、拒絶反応が如しで顔をしかめて返事をした。


「ま、俺がこれ以上何か言っても火に油だろうしほれ、早く帰りやがれ」

 俺のそういった感情をきちんと察したのか、シンプルに露骨な反応から単純に面倒くさいと判断したのかは知らないがカラボスはそう言って俺をギルドから半ば無理矢理出ていかせた。帰り際にカラボスが何か言っているようにも聞こえたがまぁいいか、と今だけは無視する。夜は完全に深まっている。とは言え時刻的には八時を回っているかという頃合いか。

「……帰りやがれっても、帰る場所なんてここにはないんだよなぁ」

 遠く遠く、そんな表現でいいのかすら分からない。そもそも距離という概念が通用するのか分からない。そこに家がある。流石に最初に落ちてきた宮殿の寝室は家でも何でもないし。


『おい貴様』

 唐突に頭の中に響く声。幾度となく聞いた覚えのある、女神の声音。このタイミングで何事か、と反応するとそれはそれは意外な言葉が返ってくる。

『貴様の先程までを見ておったのだ』

「は?」

 一抹を見ていたらしい。本当に此方の事情などお構いなしだな、と厭味ったらしくした俺の文句を無視して彼女は続ける。

『ま、女神であるからな。勝手に信徒の色恋沙汰なんてのも見てきたし勝手に相談もされたものだ。基本的に答えはしなかったがな』

 兎も角、と言って話を続ける。信徒に対してその反応をするんであればこっちも放っておいて欲しいんだが。

『ま、普段ならそうしただろうがな。今の状態の貴様じゃ私が課した使命もロクに出来んだろうが』 

 使命、というのは彼女からもらった数多の魔法によるバフ、それで以て強さを知らしめてこいとかそういうものだ。そりゃあ今すぐには、今の感情では無理だろう。

「時間が経てばどうにでもなりますよ多分」

『根本からの解決にはならんだろうが、そのまま放っておいたら延々と貴様はあの娘の言葉が離れんぞ』

「……」

 彼女から受け取った言葉、ちゃんと記憶はしているけれどもその言葉の真意が分からない。人間とは嘘をつく生き物だし間違いをする生き物である、彼女の言葉もそう思えてしまいそうになっている。


『……一つ問う。貴様はあの娘をどう思っておる?』

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