39話 手料理と、その後
彼女の猛烈なアタックめいた何かによって篭絡されたといっても過言ではないだろう俺は彼女の手により夕食をいただく運びとなってしまい夕食が出来上がるまで居間で座って待つことになった。のだが、しかしながらそこで新しく問題発生。彼女の両親が戻ってきた。当然ながら彼女は俺の事など言っていない。ので居間に現れた彼女の親たちは居間に何故かいる見知らぬ男に対して驚きの声を上げた。
そしてすぐさま台所で料理をするロイの方に向かって問いただした。
「ろ……ロイ!?」
「あっお父さん」
「だ、誰なんだあの男は!?」
「あっ……」
台所から聞こえてくる会話を聞く限り完全に失念していたらしい。親の至極真っ当な反応に何故か安心感すら覚える。
「昨日森で助けてくれたっていう人! サクヤさんっていう……」
しかしながら親たちの不安がる声音も彼女のその一言で手の平を返すかの如く反応を変えた。どうにも昨日の時点で俺の存在は話したらしく、家族内の共通認識が命の恩人らしい。それが家にいるのだから歓迎しない手はないようだ。
途端に俺に向ける顔を変えたかと思うとお茶を出されテーブルの方に座る。長方形のテーブルであって二人隣同士で座れる形なのだが、俺の目の前に彼女の両親である父母がこう圧力をかけるつもりはないのだろうけれど、そんな感じで座って見せた。緊張する。
そもそもこういったノリに関しても経験がないから苦手といえば苦手だ。
「昨日はうちの娘がお世話になったようで……いやぁ感謝してもしきれませんよ!」
「あはは、いやまぁ自分も危なかったので咄嗟の行動っていうか……」
「その後の薬草採取も手伝ってくれたと聞きまして、本当に迷惑ばかりをおかけしまして……!」
「いやいやあんな森女の子一人で歩かせるわけにもいかないですよ……」
愛想笑いやら苦笑いやらが混じる。別に彼女の両親が嫌いとか馬が合わないとかそういう事ではなく、これもまた同様に慣れていないのでどんな反応を、どんな返しをしていいのか分からないだけだ。
そうした自分としては気まずい空間の中ロイの料理を待った。両親二人とも俺に興味津々のご様子なので早く料理でもって誤魔化したいところだ。少なくとも話をそらしたいな。
「そ……そう言えば……娘さん料理するんですね」
結構苦し紛れの一言という他無いのだけれども彼女たちの両親はというとそんな一言にすら興味を持つらしい。
「ええ、我々が仕事人として集中できるようにロイが率先してやってくれておりまして……」
「勿論私が作る事もありますけれど今はロイの方が多いのですよ」
「ロイの作る飯は絶品ですから、サクヤさんも遠慮せずに是非是非!」
「は、はぁ……」
駄目だ、結局ノリに慣れない。まぁ彼女の親が俺に対して延々と警戒心の様な物を抱いているよりはマシかも知れないが……。
そうこうしているうちに料理が出来上がったようで持ってきてくれた。にこにことした様子である。今日のメニュー的には豆のスープと肉入りの炒め物、それからパンだ。料理の知識に関しては乏しいので具体的な料理名までは分からないし想像で語るのはやめておくことにした。
それぞれの料理をてきぱきと各々の前に配膳し終えるとロイは椅子に座る。少し狭めな長方形のテーブルでもってロイ達一家と俺、合計四人で座る形になっている。一辺につき二人計算。それで彼女は俺の右隣である。心なしかこっちに依っている気がする。
「それではサクヤさん、食べてみてください!」
「あ……ああ、うん。頂くけど……」
隣が近いので食べづらいんだけどな……。まぁ腕が動かせない程ではないし何か今の彼女にそれを指摘しても聞いて貰える気がしなかったので取り敢えず頂くことにした。渡されたスプーンでもってスープの方を一口。
「どう……ですか?」
此方の反応が待ちきれないのか、彼女は俺が何かを言うよりも先に感想を尋ねてきた。
「え、ああ、うん。美味しいよ」
御世辞無しで普通に美味い。とは言えグルメでも何でもないから余程のものじゃなければ大体美味しいと感じられる自信はあるが……。
もっと具体的に感想を言ってあげられたら良いんだけどそもそもまだスープを一口しか食していないのとシンプルに語彙力という部分で難しかったので諦める事とした。シンプルな感想の方が案外伝わり易かったりするものだからこれもそういう事にしておこう。
「それなら……良かったです」
俺の雑な言葉に対して凄く嬉しそうな表情とトーンであった。
「あの、もっと食べてください! お替りもありますから!」
「え……ああ、うん」
しかしながら未だにこう、何というか慣れない。俺に対してのロイの反応、それを目の前で見てる彼女の親はというと莫迦なのか何なのか彼女同様にとてもにこやかな表情である。あの、親御さんよ、目の前にいる貴方がたの娘昨日であったばかりの男に対してここまで心開いてますけど大丈夫ですか。貴方の娘に何か起こっていても不思議なありませんけど本当にその表情のままでいて大丈夫ですか。彼女を助けた、それだけである。それだけで此処まで心開いて、許して大丈夫か。しかもこちとら稼げないらしい冒険者だぞ。……いや実際の所は知らないけれども。
彼女とその親たちの目線に晒されながらも夕食は進む。時たまに会話をするけれど、何というか不安感のようなものしかない。飯は美味いし彼女も親もいい人なのは何となく分かってるけれどそれでもやっぱりこんな経験したことがないので俺の立ち振る舞いはこれでいいのか、と思えて来る。
「ごちそうさま」
飯を終える。片付け位は手伝いたかったのだけれど、それにしてもロイから止められた。曰く客人なんだからゆっくりしていて下さい、という事らしい。それは流石に憚ったのだけれどそれでも尚、頑なであったので折れることにした。
まぁこの空き時間にギルドの方を訪ねる事としよう。確か飯食った後にでも来てくれ、と言われたし。その旨をロイに告げて彼女の家を出ていかんとしていた所、またもや彼女が引き留める。今度は何なのだ。正直な所……というか流石にそろそろ今日の宿を探したいところなんだが。
「あ、あの、サクヤさん!」
「流石に……そろそろ宿とか探したいんだけど……これ以上長居も出来ないし」
しかしながら彼女が俺に対して述べた言葉はというとそんな俺の言葉に都合のいいようなもので、
「さ……サクヤさんは宿をお探し何ですよね……? じゃ……じゃあうちに泊まってってください!!!」
そういう衝撃的な言葉。




