38話 彼女からの言葉
お礼を言い続けるロイに対して流石にそろそろ顔をあげて欲しくて言葉を投げかける。
「まぁ冒険中に頭痛とかなったらいやだし……」
と、述べた。その時にふと気になることが新しく浮上した。
「あれ……ロイってこの店の子なんだよね?」
「え? はい……そうですけど」
「こう……親御さんとかを見てないなって……」
まぁ彼女の住まうこの建物の全貌を見たわけではないけれど何も他の声らしい声が聞こえてないのが不思議に思った。店番は彼女がしているし、かといって居間に連れていかれた時に関しても両親らしい姿も声も無かった。
「ああ、私の両親でしたら奥の部屋ですよ」
「あっ。成程ね……」
画していたけれど実は両親はもういない、みたいな最悪のケースを想像してたけれど杞憂らしい。本日は杞憂ばかりである。彼女の両親は奥で薬草の調合やらをやっているそうな。普段は店頭で接客もやるらしいのだが、この位の時間になると殆ど客もいなくなるので、ロイに店番を任せて裏で明日以降の為の売り物制作をしているらしい。
生活感の為にも薬草の調合場所と居間に関しては出来る限りの遮断をしてるとかで、だから俺が上がった時に特に何も見えないし聞こえない状態だったのか、と気づかされる。
「まぁ、ロイの無事も確認できたことだし、そろそろ長居したら迷惑だろうから……」
言いながら足を店の出口に向けようとしたところで彼女に止められた。
「あ……あの!」
「え……何?」
「サクヤさんってその……晩御飯とか……もう済ませちゃいましたか?」
「いや、まだだけど……」
そう答えた時点で俺の中には彼女の次の言葉が何となく浮かんでいた。フラグらしいフラグの言葉である。
「あの……良ければ食べていきませんか!?」
「えっ……」
まぁ予想こそ出来ていたけれど、だからと言ってそこにスッと上手い事返事が出来るような会話術は生憎持ち合わせていない。なので悲しきかな彼女のそのお誘いに対しても真っ先にどもってしまい、そこから何とか言葉を絞り出す。
「いや……! その……迷惑……になるし……ほ、ほら俺ロイと出会ったの昨日だし!」
「いえ、夕飯は私が作りますから迷惑だなんて! それに……私はサクヤさんと出会ったのが昨日だなんて……気にしませんよ?」
彼女の言葉を聞いて、思わず顔を反らさざるを得なかった。こんな経験、今までになかったんだから正しい返し方が分からないし彼女が本心で言っているのか、という変な勘ぐりまでしてしまう。だって昨日であった程度の仲だぞ、そもそも昨日の時点であの距離の縮め方からして今にして思うと引っ掛かる。失礼だ、失礼なのは分かってる。それでもそんな考えが巡ってしまって仕方なくなる。
彼女の様な思考がこの世界では別段不思議な事ではないという可能性こそあるけれど、それはそれで不安を覚える。
「……有難いけど……申し訳ないよ」
「そ、そんな事ないですよ! ……でもサクヤさんが迷惑だっていうなら……」
「いや、そんな迷惑だなんてことないよ! ……そんな事ないんだけど……その」
そんなことは無い。けれども勇気がないともいえる。そんな自分が恨めしくて腹立たしい。俺が元の世界でも女性の縁に関して問題なく過ごせていたら多分もっと素直に受け止められていたんだろう。
彼女に対して俺の吐き出したい言葉を上手く言語化できない。
「サクヤさんは……私の事、嫌いなんですか?」
「えっ……」
直球ストレートの言葉。不意打ちとも思える一言に思考が一瞬止まる。ぶんぶんぶん、と頭を振って雑念を振り払って思考をクリアにする。
「そんな……そんな嫌いだなんてことない……けど、何か不安で……」
「不安……ですか?」
別に過去にいじめがあったわけじゃない。フラれた過去もないていうか告白したことすらないからな。……当然元の世界じゃこんな女の子の誘い、受けた記憶は全くない。言うなれば人並みの恋愛をしたことがないのだ。それがただただ自分の中で恋愛とやらのハードルを上げてくれている。自分の中での女性像何て基本的には周りの関わりがほぼないに等しかった同級生とか、あとはネットで見かける人々とかそんなものが中心で言ってしまえば自分の中では悪評しかついていない気がする。だからこんな状態になってしまっている。
……まぁ別に女性は全て悪とか思っていないんだけれどそれが身近に感じられてないのだ。
「その……さ、こんなに女の子と親しくなった記憶が無いから」
「えっ……そうだったんですか?」
「まぁ……女性不信とかではないけど……慣れて無くて」
苦笑いで答える俺に対して彼女はぐっと俺の両手を掴んだ。それから顔を下から覗き込むようにして笑う。
「私で慣れてください、サクヤさん!」
そう言うと彼女は何か固い意志で縛られてるのかとでもいうように、俺をもう一度家の中の今に案内……というか連行した。
「サクヤさんはそこで座って待っててください!」
完全に意思を固めた声である。何事か、と尋ねるととてもシンプルな回答が返ってきた。
「サクヤさんに私の料理を食べて貰います!」
「……えっ……えっ?」
「サクヤさんが嫌って言ってもです! 決定事項です。私はサクヤさんに食べて欲しいんです!」
圧に負けた。
彼女はふふんと鼻息高く嬉し気な様子で台所の方に消えていく。この異世界、台所と居間とで分けられてるのか……いや別に中世ヨーロッパの食事事情に精通しているわけじゃないんだけど、こう偏見かも知れないが中世くらいだとそこまで部屋数が多いイメージがない。少なくとも同時期の日本は一室のイメージだ。
不思議と少しだけ元の世界の家が頭に過ぎった。
「……」
ホームシックってやつかなぁ。……二日でか。




