34話 対フォレストディアー
鹿は此方に完全に気づいたようでのし、のしとゆっくりとした足で此方に近づいている。流石に何時までもしゃがんでいるわけにはいかないのでその行動が確認された時点ですくっと立ち上がった。
高威力の魔法でもって粉微塵にすることは恐らく容易だが別にこれはレベル上げではなくて狩りである。とは言え臨戦態勢は構えてある。
フォレストディアーは俺の存在を完全に視認したようで角を此方に向けている。確かあれで防御をする戦い方を行うのだったか? 防御的な戦い方とやらがどの程度なのか分からないが、流石に女神の魔法さえあればなんとかなる……と思う。というかなれ。
「取り敢えず殺さない程度にぶっぱなすか……」
右手の指先に力を込めて、一発。水の塊を弾丸が如しに放つ。この鹿、視力がいいのかなんなのか分からないがまたもや当たり前のように角でもって弾かれた。しかも魔法を食らっても鹿自体はぴんぴんしている。
「これ一度戦闘態勢に入ったら厳しいって事……?」
一度撤退してもいいが、解決になるかと言われたら怪しいし仕留められるならこの場でしてしまいたい。
少なくとも習性であろう、鹿は此方に対して警戒を怠る様子こそ見せないがそれでも此方に対して先手をとって攻撃をしてこよう、という動きも見られなかった。完全に能力を全て防御に回しているように見える。
ならばそこに勝機を見出せる筈だ。
「ショット!」
走りながら、悪路というか道でもなんでもないその森で相手の視界端に入ろうと頑張りながら何度も魔法を放つ。けれども半端な威力の魔法では角で弾かれて決定打にならない。
フィレナの話だとあの角が高いという事だそうだから、可能ならば下手に角を攻撃し続けるのはやめておきたいところだが……。
腹部側、つまりは側面を狙いたくても一対一の状態ではそれは許されない。基本的に相手は延々と防御陣営よろしく真ん中で構えるばかりだから移動は少ない。此方は走りなので側面を取りたくても間にあわれてしまう。
魔法の軌道を操る事も考えたが俺がショットという言葉でもって放つソレに関して言えばもう相手の目が慣れたのか、それとも俺の技術不足か、軌道を操っても対応が間に合ってしまっている。
「やっぱ一度退いた方が良いのかな……」
だとしてももう一度正面から挑んで勝てるかこれ?
いや、正面からだとしても……それこそ面の攻撃でならどうだ?
「……よし」
魔法を幾つも、連続で発動させる。それらを巧みにコントロールして鹿の腹部を狙わんとする作戦だ。時間差を作って相手の対応に隙を作れないか?
一つ目に放ったものは意図的に鹿の体を狙わずブーメラン軌道のように戻る設定に、それからもう二つほども時間差で正面から叩きこめば対応に遅れが生じるはずだ。
とは言え流石に幾つもの魔法を同時にというのは試したことがないからどうなるか分からないな。……まぁやるしかない、が。
「ショット、トリプル」
角のほぼ上程の弾道を描いたソレを鹿は少しだけ屈んで避ける。当然によけずとも当たりはしないが身を屈めて足をばねにしている、とみていいか。
二発目はその身を屈めた鹿を狙い撃つかのようなショット。同時に左手で一発目をコントロールせんと小さく動かす。
「ていっ!」
二発目は角でもって防がれた。ならばと三発目をぶち込もうとする。そして、後ろからの一撃だ。
ざん、と音が聞こえる。それと同時にうめき声。目の前の鹿の苦しむ声。ばっちりヒットしたようだ。
「グォッ……!」
「よしっ……今!」
体勢が崩れたその瞬間を見逃さずもう一度魔法を放つ。フォレストディア―に対してショットをかました。今度は角で防ぐことも叶わずそのままモンスターの前足の付け根程に当たった。
「もう一発!」
更にもう一つ。それでもって目の前のフォレストディアーは意識こそあれどうまく動けない状態になっていた。
「ふぅ……」
動けない状態のフォレストディアーに対して
「ごめんな」
と一言だけ告げて右手に力を籠める。ダガーて仕留める方が楽な気がするんだけれど何分素人なので、下手に殺しきれないとなると流石にこう、鹿も可哀想になるし……という事で魔法で処理することにした。今度は威力を出し過ぎないように慎重に力を籠める。
「エアライズ、リトル」
プラシーボ効果の様なものを狙って取り敢えず威力が下がりそうな言葉を付け加える。それが功を奏したのかは分からないが少なくとも威力は低めで、それでも鹿を殺めるには十分な威力となった。
解体までする気力は起きなかったので、完全に息の根が止まっている事を確認してからフォレストディアーを持ち上げて魔法でもって仕舞う。これで重さもなくなるので優秀なことこの上ないな。というかこの魔法を使えない冒険者ってホント苦労しそうだな。まるで他人事の発言だが実際問題として他人事だ。
仕舞い終えてからふぅ、と一息つきたい気分になるが狩りを続けなくてはならない。
「にしても鹿一匹でコレは……結構時間が掛かりそうだな」
これなら多少状態が悪くてもどんどん狩りをした方が実質的には稼げる気もするな。とりあえず次なるモンスターを探すとしようか。いずれにせよ場所を確認するついでに結局、ちょっとだけ座って休むことにした。それで魔法を発動させ光の位置を確認する。
「動かない……な」
不動。最初……フォレストディアーと一緒に見つけたこの光の存在は此方と違って完全に不動であった。今も俺が適当な倒れた木の上に座って様子を見ているのだけれど、動きがない。
「動かないのってやっぱ植物って事で良いのかな」
先程はそう結論づけたけれど、果たしてそれで大丈夫か。まぁ俺と言う人間はモンスターに関する知識が乏しすぎるからな、そこを考えてもどうしようもないか。
「一度……ぶっぱなす……のはやっぱリスキーだな。近くまで寄るか、流石に」
大体の位置を把握して移動を再開する。




