32話 武器屋でナイフを探してみた
彼女から情報を頂いた。具体的には港町に関するモンスターの情報について、だ。これだけ情報を受け取ったわけだし次なる目的地に関しては港町で決定で良いだろう。歩いたらどれぐらいになるかは分からないが最悪俺の場合は転移の魔法で以て何時でも女神の寝室と言う名のベッドルームに戻れる。
「流石にこれ以降の許可はせんぞ馬鹿垂れ」
と思ったけれどこうして否定されたので宿でなければやはりならないらしい。別に金に関しては一程度溜まったから今日の分くらいは当然にどうとでもなるが、節約するに越したことはないからな。
「そ、そんな薄情な……」
「何度も言ったが神の仕事とは民の寝床の確保でも何でもない。特に貴様ならどうにでもできるだろうが」
「まぁ……金はありますけど……」
「ならばよいではないか。冒険者用の寝袋なんかも街に行けば見るかるから買えばよい」
そう言えば冒険者、と聞いてふと改めて自覚させられたけれど、俺と言う人間に関してだが、冒険者らしいものを何一つ持っていない事に気づいた。昨日から取り敢えず金を稼ごう、みたいな思考ばかりだったので他の装備やらなんやらを手にしてないのだ。
寝袋もそうだしそれ以外でも必要そうなものは出て来るだろうから遅かれ早かれ買わなきゃな。
「何かおすすめの店とかって」
「知らん。貴様の足で探せ」
即答された。民一人一人の行動を逐一チェックしてはいないらしく、特に女神という立場なので尚の事冒険者にとってのアイテムの売り場とかそういう事に関しては疎いようだ。
「さ、出ていった出ていった」
彼女は俺に対して再び手を翳した。そして小さな声で何か呪文を唱えている。それは、テレポートであった。
そう言う訳でまたも裏路地に辿り着く……というか到着させられた。そこからひょい、と表通りに出ていく。不思議と見慣れたかに思える光景である。
「さて……どうしたものか」
次なる目的地こそ決まった。しかしながらそれは目的地のみである。何が言いたいか、といえばどうやっていくのか、どうやって行くまでの道のりを過ごすのか、その辺りの算段は全く付いていない。徒歩距離でどの程度なのかは分からないが、少なくとも歩いて一日足らずではないと思う。少なくとも記憶をたどった感覚としてこの国、ヴローシィのサイズ感から考えても多分1週間はかかるんじゃないか、と推測した。
そしてそれだけの期間を要するとなれば流石に食料だって必要だろうし寝袋みたいなものも必要になるだろう。流石に地べたに寝るのは御免こうむりたいからな。
其れで以て食糧問題、となれば流石に資金がもっと必要になる。となれば狩りの必要が出て来る。となれば……。
「また森かな……」
それか草原か。しかし草原にもう一度いく勇気が出てこなかった。あんな失態をした後であるから、何となく足が重いのだ。草原は確かに狩り自体が楽でも売値として、つまり生活費の面で考えたら全然足しになる気がしない。森なら一応高値のモンスターが多いらしいから、多少の面倒くささを考えても森の方が良いだろうか。
何だか凄く遠回りな気もしてくるのだけれど、仕方がないと自らに言い聞かせて森の方へ向かった。今度は流石に一度狩りをしたら戻る、とかせずに何匹か狩りをしてから売りに出したいところだな。それこそヒュージボアの残骸めいたもので8000とかで綺麗な状態のフォレストディアーで売値半分にしても7000とかだったかな。それを考えると日に20000くらいなら余裕で稼げそうだ。
「取り敢えず知ってるモンスターを中心に借りたいところではあるけれど……」
そうはいかないのが俺が持っている魔法である。新しく想像しようにもうまく出来ずにずっとこれ。何かモンスターに対して光を映すのみなのだ。それがどんなモンスターなのか全くわからないから困りもの。更に言えば方向こそ分かれど具体的な位置が分からないからそこも困るポイントである。
「取り敢えず狩りよりも先にアイテムをそろえるか……」
何が必要か、具体的には分からないけれど少なからずナイフは欲しい所だな。森の中を探索するとあれば木々や草を掻き分ける。それこそ道なき道を進むのだから当然なのだけれど、ナイフで切っていった方が当然だけど服やらに引っ掛からなくて楽だろうし。
「……ってもそれ何処で買えるんだ?」
武器屋とかに売ってるのかな。そこに置いてあれば良しとして無ければないでついでに武器でも見ればいいか。そんな思考で武器屋を探し出し、入店した。
当然ながら自動ドア等存在せず、押して引いてするタイプの扉である。武器屋だからなのか知らないけれど心無しか武骨に見えた。扉を開けると上にベルがついていたようで小さめにちりんちりん、と音が鳴る。それに気づいたのか店主らしき声が奥から聞こえてきて
「らっしゃい!」
との言葉。野太い男の声、想像に難くない感じがする。店の中には同じように武器屋に来た客らしき冒険者のような人々が見受けられた。それで以てドアが開いた時の音故か知らないが何人かが此方に振り向いた。勿論見た後は一瞬にして元の目線に戻っていたけれど。
しかしながら俺ほどに体躯が一般人みたいな人は見当たらないと思っていたのだけれど意外とそうでもないらしい。パッとみで魅せの中に飾ってある剣やら何やらを眺めたが大きい物から小さい物までピンキリで存在しているのが分かった。成程、力が無くても持ち運びやらがしやすいものも置いてあるとみてよさそうだな。
この店であれば問題はなさそうだな、と判断して目当てのナイフを探す。刃物だからだろうけれど、どれもこれもガラス展示で、欲しい場合は店主に声を掛けろ、というスタイルらしい。まぁ店内の見えない場所で振り回されたらたまらんわな。
「小さめのナイフ……持ちやすいタイプだといいけど……」
生憎だが元の世界でも刃物を握った記憶は数える程しかないからどれがいいのか分からん。というか普段から包丁を握っていたとしても冒険者用のナイフ何て分からないとは思うけど。
取り敢えずサイズ小さ目で置いてあるスペースを探し出し、そこをうろうろした。店の内装としては入ってすぐには目を引く巨大な剣が一つあって手前を右に曲がってすぐにその目的のスペースはあった。つまり需要はそこそこあるとみて良いだろうか。
この世界では残念ながらポップなんてものは存在しないのでどれがいいのかは分からない。奥の方に先程の声の主である店主がいるだろうから声を掛けて聞いてみようかな。
奥の方に進むとレジらしきカウンターがあってそこに店主とみられる男性の姿があった。
「あのーすいません」
「おう、どうした?」
「こう……持ちやすいこう……ナイフみたいなものが欲しくて」
「ナイフねぇ……何に使うつもりで?」
見た目と違ってと言っては失礼かもしれないけれど対応は真摯だった。。
「冒険者稼業を始めたもんで……それでモンスター仕留めたりあとは草木切ったりできればなぁ……と」
「ふーむ、解体はしねぇのか。それなら……あんたくらいのサイズとなると……」
言いながら男はカウンターからこちら側に出てきて俺を案内してくれた。先程俺が見ていたスペースとはまた違う、店に入って奥の方にあるあまり目立たないスペースに連れてこられた。
「見た所冒険者になってほんとに日が浅ぇだろ。それなら狩るのはグリーンボアとかだろうから……これなんてどうだ?」
渡されたのはナイフとはちょっと違って見えるものだった。
「これは……?」
「おん? 知らねぇのか。こいつはダガーだよ」
名前だけなら聞いたことはあるな。具体的にどんなものなのかは知らないけれど。
「てめぇ見た所腕っぷしも半端に見えっからな。こいつなら投げて使えるってことよ。流石にモンスターを捌くとかだと微妙だが軽いから荷物になり難いし、使い勝手は意外と良いぜ」
「なる……ほど……」
「まぁ買うやつァすくねぇんだよな。俺ぁ結構お気に入りなんだがよ」
どうにも戦うようの武器は別で買いたいという冒険者が多いらしく、大体は大きめの剣+解体とかにも使えるナイフが主流なんだとか。
別に攻撃出来なくても構わないけれどダガーなんて中々触れる機会無いだろうし、買うのもありかな。
「見た所てめぇ鞘ぁねぇだろ。ついでに買うか?」
「鞘?」
そう言うと男は店のカウンターの方に一度戻ってきて何かを取り出した。革で出来た鞘だった。
「流石にそれ単体で持ち歩いてたら馬鹿野郎だぜ?」
だろうなぁ。幾ら収納の魔法があろうとも流石に手を切る可能性はあるだろうから持っていて損は無いだろうな。よし、買ってしまえ。
「あったら嬉しいですけど……幾らぐらいになります?」
「そうだな、そっちのダガーが6000で鞘は2000だ。まぁ一緒に買ってくれるんなら200くらいまけてやるよ」
意外とするな……。合計で8000円。ヒュージボアの売値と同じだよな。まぁ流石にこれは必要な投資だから、背に腹は代えられない。
「じゃあお願いします」
購入決定。食事以外で金を払ったの地味に初めてだな、と気づいた。




