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2話 人の記憶を覗き見しておいて引いてる女神

「ええと……女神……ていうと、あの女神なの……ですか?」

 言葉を終えようとした直前にきり、と睨まれて申し訳程度の丁寧語として「ですか」をつけた。

「貴様の言う女神がなんのことなのかは知らんが私は民から信仰される女神である」

「信仰……」

 そう言われたのであれば何となくイメージはついた。俺の国ではあまり盛んではなかったけれどそれでも世界全体の括りで見たら宗教的な信仰は幾つも歴史でも現代でも存在していた。その中に女神があったかは覚えてないけれど神を信仰する宗教と言うのはメジャーな部類のはずだ。

「それで、貴様色々と記憶が混濁しているようだが、何なのだ」

「何だ……と言われましても……」

 自分が聞きたい。目が覚めたらこんなよくわからない場所にいたのだから。少なくとも目の前の少女に見覚えは無いしこの部屋にも既視感なんてものはない。そうだ、と思い出したように自分の体を見る。服装は外出用のちゃんと自分が所持している服の一つで部屋着ではないというのは当然ながら一目で理解できた。……という事は意識が飛んだ最後の自分は恐らく外にいた、という事になる。


「……え?」

「独り合点で満足するでない! ……良い、説明するのも聞くのも面倒だ……特別に貴様の記憶を見てやる、そこに居れ」

 女神様は俺に対して呆れた、という印象を受け取ったらしく先程同様手の平を俺に向けて翳すと意味有り気な言葉を再び呟いていた。さっきは一瞬であったけれど今回は手を翳している時間がやけに長い。彼女の顔つきが真面目な辺り取り敢えず何かしら不可思議な事をやっている、という事はなんと無しに理解はできるが具体的に何をしているのかは分からず置いてけぼり状態だった。対して眼前の自称女神は漸く手を下ろし溜息をついた。


「ええと……? 何か……わかりま……したか?」

「ああ、全てな。貴様がここに居る理由こそ分かりはしなかったが経緯は概ね把握出来た」

 そういうと女神と名乗った少女は続けて俺のことについてあれやこれやと話していた。

「貴様、なるほど、先刻の名乗りに偽りはないようではある。それに……嗚呼……」

「えっと……?」

「貴様、最後の記憶は覚えているのか? 最後、恐らく何か命の危機に瀕したのではないか?」

 命の危機。言われて思い出せることは一つだけある。あの悪夢、と結論付けた光景だ。俺がトラックに引かれたという一幕。彼女の力という事が本当であればあの夢というのは夢ではなくて現実に起こった、ということになる。しかしだとすれば何で俺はここで生きているだろうか、と疑問が生まれてきてしまう。いやまぁそれこそ自分が読んでいた小説の中にはそうった所謂異世界転生をする物語も幾つも見てきたけれども。しかしまぁ魔法らしき力を目の当たりにして今更であるのかも知れないが、それでもいわせてもらうなら、そんな小説の様な事があるのか?と言う話だ。

「良い、貴様の記憶から似たような事例を既にみておる。何でも“異世界転生”なる言葉に貴様は馴染みがあるらしいからな。細かい原理は抜きにして凡その説明はその一単語で終わる」

 混乱気味の俺にそう言い放ってきた。彼女の言葉を鵜呑みにするのであれば、意味が分からないけれど俺と言う人間は、水上咲夜と言う人間は異世界転生してしまった、という事になるのか? ……とすれば誰かの力で以てこの地に落とされた、という解釈でいいのだろうか。


「異世界転生ってことは……ええと、女神様……なんですよね?」

「如何にも」

「だとすれば、その転生? とやらを魔法として行ったのが貴方様……という事に?」

「ならん。なっておるなら初手に激高等せん。それに私は魔法こそ使えても限りがある。そもそも転生魔法等と言う訳の分からぬ術は存在していない」

 続けて女神は「あと呼ぶならもっと上等な者を呼ぶわ」と付け加えてきた。それは、言う必要がないじゃないか、と怒りたくなったが遮るように彼女はべらべらと俺が有している記憶、それから過去について話を続けた。……まぁつまりは俺と言う人間の個人情報は当然、感情、果てには性癖と好き勝手言われた。そして同時に性癖の下りでめちゃくちゃ引いていた。

「貴様、少女趣味の気がないのは別に良い、あってはそれはそれでおっかないからな……とは言えもう少しだな……」

 目つきが少し宜しくない、と言うべきか彼女の目は明らかに睨んでいる事こそ同じでも侮蔑が混じっているのが容易に読み取れた。

「えっとちょっと待って……下さい。あの人の心情とかそういうの勝手に読み取っておいてその反応って……」

 少なくとも俺に少女趣味等は無くてそして俺の思考を読み取ったらしいこの女神は見目だけで言ってしまえば少女に部類されるだろう。だからこそ少女趣味を持ち出したのだろうが、それはそれとして琴線に触れ得る何か、そんな狂った性癖なんてないのだけれど……。

「ていうかそもそも俺、そんな変な何かは……」

「ふん、どうだかな。女子に対して乳房で悉くを判断する者の言葉等信用できぬわ」

 腕を組んで、ふんとそっぽを向いた。

「えっ」

 いやまぁ男だし、少女趣味ないし、俺と言う人間は正直に言えば胸は大きい方が好みだけどそれだけでこんなに不機嫌になるのか?……当たり前であるし繰り返しになるが目の前の少女は勿論少女である。我が国で言えば一桁程の見目である。これが意味する所と言えば胸の方は当然、彼女はまだないのだ。しかしそんなの当たり前だろうという感想しか出てこなかったし気にもしていなかった。

「いや……ええと……」

 どうやってフォローをしたものか、と困惑しているとそっぽを向いていた女神様とうやらが此方に再度向き直して口を開いた。


「貴様そもそも少女趣味がないというに私の体に触れ、あまつさえ弄るなど……! 私の信徒でもあり得ぬ行為だぞ!!!」


「えっ…………」


 触る? 弄る? ……あっ。

 俺がこの場所によく分からぬままに落とされた当初、左手に何か柔い感触があった。それが恐らくこの女神の体、という事なのだろうか。とすれば自分はとんでもない事をやらかしている。あの反応からして恐らく……。

「よりにもよって私の腹を触るなど……触るなど……!!」

 え、あ、腹? 少し怯えて損した気分だ。……まぁ腹ならば幾らでも触れて良い、とかそういう事を言うつもりはないけれど、それ以上に断罪物な箇所が幾つか存在していたから、不幸中の幸い程度に思っておこう。とは言え触ったことに変わりは無い。非礼はきちんと詫びねばなるまい、として形式的にどうすればいいのかは分からなかったけれど日本式の分かりやすい謝罪といえば、と床に座り両手をついて頭を下げた。所謂、土下座。

「ごめんなさい! あれは、その、不可抗力でして……そんな決して触るつもりはなくて……」

「謝れば済む話では無いぞ! ……ひとまず一度死んでおけ! 何……痛み無く消してやる!」

 声を荒げて、手を僕の前に掲げる。それから口を開いた。

「Flowin」


「ちょ……!」


 彼女の手から現れたのは、端的に言えば水の渦のようなもの。しかしそれはほんの一瞬だった。けれどやけに俺の目にはストップモーションのように見えた。だからと言って避ける事が出来る訳もなく、そのまま飲み込まれた。


 まさか、こんな短時間で二度死ぬとは……。


 あれか、それならいっそ女神様とやらの貧相な胸でもいいから触っておけば悔いは残らなかったのかも知れない……。等と失礼な事を思いながら目の前が、視界が水で埋まった。


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