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28話 フォレストディアーと不意打ち

 嘘をつこうと思っていたけれど考えている時点でフィレナによって阻まれた。端的に言うと

 仕方なくサーチの魔法を発動する。

「サーチ……」

 一度目をつぶり、つぶやき、目を開く。

 視界の右側に光りがあるのが分かった。自分の目線が動いている、と言う訳ではなくてターゲットたる光の方が僅かに動いているように見えた。

「どう、何か見えた?」

「ええと……右奥の方向に何かいます。……多分移動してる……?」

「ふーん、移動ね。スピードは?」

「遠いんで何とも……でも一気に移動するって感じじゃないですね。こっちに迫ってきていたら話は別ですけど」


 目で見えた情報をそのまま彼女に伝えると、それだけでまるで全てを理解したかのように、

「じゃあ近づいてない限りはフォレストディアーかな。近づいてたらヒュージボアだけど、流石に二日続けてはないでしょ」

 と判断した。そうしてすぐさま歩き出したのでついていく。

 名前がよく分からないけれど、ディアーというのであれば鹿だろうか、確かに森のモンスターっぽさはあるか。

「フォレストディアーって高いんですか?」

「狩った時の状態次第かな。出現自体はレアよ」

 彼女が言うにはフォレストディアーで最も売値が高くつくのは角らしいのだが、その角に関しては出現してからどれくらい時間が経過したか、つまり鹿自身の過ごし方で傷がついたり欠けたりするらしい。強固な角らしいのだが、長く生きていれば自然と劣化するらしいし何より戦闘になった時に角を軸に戦うらしく、そこでもまた傷つくのだとか。

 基本的に守りに徹するようで、気性が荒い等と言う事は無いらしいが

「殆どが他の同系統の種から推測されてる動きだけどね。目撃情報やらと照らし合わせた感じだと多分あってると思う」

 フォレストディアーに関しては図鑑で見てもいないので何とも言えないが元の世界と同じようにやっぱり鹿と一口に言っても種類があるという事か。


「で、今どうなってる?」

 言われて光の方に目を向ける。基本的に真っすぐに進んでいるから、依然としてあの光は右側にちらついている。このサーチの魔法、不思議なことにというか何というか厄介な部分なのだが

 どれほど近づいているのか、に関しては何一つ分からない。光のサイズは一定なのだ。だから光が今どこにあるのか、自分が何処にいるのか、を理解しながら歩くほかない。

「依然として右側から変化ないですね……」

「距離は分かんないって事?」

 俺の言葉のあやふやさ加減からなのか、情報を素早く読み取っていた。

「ああ、はい……よくすぐに分かりますねそんなことまで」

「初めてみる得物にだって対応することがあるからね、解体業って。だからちょっとの情報で色々察する力とかあるのよ」

 そういうものか。今一つその辺りの感覚は分からない。けれど解体業とこの情報読み取り能力ってイコールで繋げていいモノなのだろうか。


「方向、どのあたりか指してみて」

「え?」

「指で、ほら」

 言われて光に焦点を当てて右手の人差し指の先っぽをっ持っていく。

「オッケー」

 そう言うと彼女は俺が指さした方と大体同じ位置に手を伸ばすと、すぅ、と息を吸い込んだ。かと思うと、すぐさま


「splash」


 そう呟く。バシュ、と鋭い音がして彼女の手の先から水らしき何かが一瞬にして一直線上に飛んでいった。

 ガサガサ、と恐らくその水らしきものが草木を掻き分けて飛んで行っているであろう音が暫く続いたかと思うと、突然

「グォォッ」

 とうめき声。


「えっ……何今の」

 遠くからだったから本当にうめき声かどうかも分からないけれど、しかし今の彼女の行動から推測すると、出会うよりも先に一発魔法を放って先にダメージを与えた、という事になるのか?

「ビンゴ、もう一回!」

 そう言うと彼女は今度は指をほんの少しだけ下におろしてもう一度、「Splash」と叫んだ。またも魔法によって水が一瞬にして前方に発射されたかと思うと再び僅かに鳴き声の様なものが聞こえた。

 それを聞くや否や彼女は俺を引っ張ると此方の事情お構いなしに全速力で駆け出した。途中、行く手を阻む草やら木の枝やらをばばば、と腰の後ろに帯刀していたあの刀の様なもので切り刻んでいた。


 暫く走って辿り着いた。

 彼女に引っ張られてからは基本的に愚直に進むばかりでどこをどう辿ってきたのか、が不明瞭である。つまり帰り道は勘の要素があるという事になるが……まぁ隣にギルド関係者がいるしそこは何とかなるか?

 兎も角として、目の前と言う訳ではないけれどきちんと視認できる程の距離にフォレストディアーと見て良いだろうモンスターの姿があった。横たわっているのが確認できた。ぴくぴく、とかすかに動いているのでまだ息はあるようだけれど、元気がなく辺りの地面に僅かに血が見える。恐らく先程の彼女の魔法でもってどこかしらに傷を受けたという事か。

 全体的な見た目は確かに鹿だな、と分かるのだが角がどうにも異色で、ちょっとした木が生えてるかのように見えた。

「あれ、こんなもん……?」

「ディアーとかって腹部とかは弱いのよ。っても私フォレストディアーは捌いたことないから詳しくは知らないけど」

 言いながらフィレナはその横たわる鹿に近づき、しゃがんで腹部分を撫でた。横たわっているとは言え不用心に思えるのだけれど、彼女は特に動じる様子はない。

「腹部に二発も受けたら大丈夫」

「ここの森にいるモンスターって厄介だって聞いたんですけど……」

「真正面から挑んだらそりゃあキツいかもね」

 気性が荒くないらしいから、不意打ちで倒れさせたら大丈夫、という事なのだろうか。

 フィレナは鹿を幾らか撫でて様子を確認していた所、よし、と突然に呟くと腰から剣を取り出して鹿の首あたりに刃をあてがった。

「よっ……と」

 そのまま首に刃を入れた。途端にその刃の辺りから血が噴き出した。流石に突然の行い過ぎてそこには吃驚したけれど、血が出ることに関してはさして感情がどうこうなるという事は無く、少なくとも普通に見ていられた。

 完全に鹿が動かなくなったのが分かると彼女は手際よく何か切り分け始めた。

「えっ……何を……?」

「解体だけど」

 当たり前じゃん、という声音。確かに解体業者だから当たり前なのか? 茫然とする僕に対して、「解体しておいた方が売値高くなるよ。解体費用がなくなるからね」という使うかどうか分からない助言をくれた。そう言えば買取に出した時に解体費用か幾らかが引かれたっけか、あまり記憶にないけれど。


「まぁ下手な解体すると逆に売値下がるけどね」

 駄弁りながらも彼女の手の動きは一切止まらず、捌いたことがない、と言っていた筈のフォレストディアーなるモンスターであるのだけれど平然とそれこそ知っていますと言わんばかりにさくさくと解体している。

 ばばば、と肉を部位毎に分けたり肉と皮を分離させたりと流石解体業者なだけあって手際は良い。そう言えば紅葉だっけか、元の世界で鹿肉というとそんな名称で食べられていた記憶があるけどやっぱりこの世界でも食べるのかな……何か臭みがどうとか聞いた記憶あるんだけど。というかこの世界の食文化、特に肉文化ってどうなってるんだろう。元の世界だと大まかに牛か豚か鶏かだったけれど。

「し……ディアーとかの肉って皆食べるんですか?」

 鹿と言いかけた。この世界で鹿は流石に通じない。

「ん? あんたは食わないの?」

「食わないというか……食べる機会は無かったですけど……」

「ふぅん。私の家だと何度か食べてたけどね」

 その言葉から恐らく常に食べられているのだな、という事は推察できる。暫くだべっていると全ての解体が完了したようで手に持っていた刃物に対して何かを唱えて魔法でもって水を出していた。どうにも水で血やらを洗い流しているらしい。

「ふう、終わった終わった。にしてもサクヤ、あんたの魔法本当なのね。フォレストディアーなんて簡単に見つからないのに、一発なんだもん」

「え、ああ……」

 正直本物じゃない方が目立たずに済んだけれどこればかりは仕方がないか。

「それで……今更だけどさ、あんたバッグの一つもないけど、まさか直に手に持って狩りするつもりだったの?」

「ああ……ええと」

 一瞬ためらう。魔法で収納が出来る、という事に関してはロイの発言から珍しくはあっても唯一無二ではないらしいから此方はまぁ出しても大丈夫だろう。というか先の失敗やサーチの魔法を見せている以上納得してもらえる……と信じたい。

「収納の……魔法あるんで」

「ああ、成程ね、流石にモンスタ―を見つける、なんて変な魔法見せられた後だし納得。そういう事なら、持ってってくれない? これの素材幾つかそのまま貰っていいから」

「ええ、ああ……はぁ」

 完全に向こうのペースで話が進んでいる。お金がもらえるのであればそこに関しては文句などはあまりないけれど、サーチの魔法に関して見られている事は別である。彼女伝いで下手にギルド関係者に伝播してくと困る。


「あの……」

「何?」

「あの……できればサーチの魔法に関してはその……内密にして貰えませんか?」

 いうと彼女は驚いた。どうにも、というか冒険者と言う稼ぎ方がある以上当然なのかもしれないけれど、珍しい魔法を持っている、というそれだけで箔がつく肩書を広めないのは損だといわれた。

「それこそ、サーチの魔法何て便利なもんならトップのパーティーからも声かかると思うけど」

「いやぁ……自分はもっとこう……ソロ狩りしながら色々他の国も見て回りたいなぁと……」

「昨日冒険者になったばっかりなのに遠大な夢ね。まぁそこまで言うなら別に私に益ある訳じゃないから言わないけど……」

「ありがとうございます」

 そうしてフォレストディアーを収納の魔法で以て仕舞い終えて、二人で街の方に一度戻ろうという事になった。時間も流石に正午を過ぎただろうからご飯も食べたいな。

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