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1話 少女が目の前にいたと思ったら女神らしい

 目が覚めた。正確に言えば閉じていた瞼をおもむろに開いた。しかし嫌にリアリティのある夢を見ていたようだ。俺が歩道に突っ込んできたトラックに跳ねられる夢。意識を取り戻してすぐ、夢でよかった、と思うと同時になんて寝覚めの悪い夢なのだと思った。けれどいつのまに寝たのだったかな、と思いながらまだぼんやりとしか見えない視界を明瞭にしようと目を擦る。

「……あれ……?」

 はて、俺の天井とはこんな模様をしていただろうか。それにベッドにぬいぐるみ等置いていたかな。自らの左端にやけに柔らかな感触があった。揉める。妙に温もりがある。……ん?


「な……な……何をしてくれておる!!!?」

 

 唐突に左耳から甲高い声が聞こえたかと覆うと頬に衝撃が走る。明らかに殴るか蹴るかをされた痛みが自らの感覚器官と肉体を襲ったかとおもうとその勢いで少し吹き飛びベッドから落とされる。そして床に背中から着地し、ずん、という鈍い音がして再び痛みが全身を駆け巡る。お陰と言うべきか、はっきりと目が覚めた。まぁ寧ろこの痛みで再び意識が飛んでいた可能性もあるが。兎も角そのはっきりとした意識で体の痛みに耐えながらゆっくりとその床から手をついて起き上がった。

少なくともこの一連の流れで既に気づいた事は一つある。それはここが自分の部屋ではない、という事だ。


 周りは装飾品に彩られておりかつて世界史の教科書でみたような、所謂宮殿めいた作りの部屋だという事は分かった。意味有り気に彫刻が施された柱にお金持ちの代表みたいな、所謂シャンデリアのような明かり。それから俺が落とされたベッドもやけにデカかった。そのベッドに目が行き流れるようにベッドの上にいる少女に目がいった。齢にして二桁とあるとは思えない背丈と顔つきに見える少女がおり赤面させながら腕を組んでこちらを只管に睨んでいた。髪の色は水色で長いポニーテールが正面からでも見えた。


「き、貴様!!! ぶ、無礼どころの話ではないぞ!!!」


 少女の服装は凡そこんな宮殿が似合う貴族の服装どころか現代のそこいらの少女と考えても程遠い服装をしており、どちらかと言えば一昔前の神様でも呼びそうな民族の格好というのか、ファッションに詳しいわけではないからこんな表現になってしまったから簡単に言うと少女がする服装には見えない、というものだ。ちょっと布面積も小さい気がする。……まぁ眼前の少女程の年齢で興奮するほど腐っても無いが。

 現時点で冷静に見える景色や物を博してこそいるがそれでも頭の中では酷く混乱している。ひとまず落ち着こう、と深呼吸を三回ほどしてから夢ではあるまいか、と頬をつねった。よく考えたら先程の痛みが伴った一連の出来事の時点で少なくとも痛みによって夢かどうかを判断するのは間違いだった。痛みが追加されただけだ。という事は強めの催眠術かそれか……、とあれやこれやと考えている俺の耳に声が入る。先程と同じ目の前の少女の声だ。


「少しは反応せんか!!」


「あ……あ……え……と」

 目の前の少女は先刻述べた通り水色の髪の色をしており更によく見ると目も碧眼、というやつか兎に角目の色はとても日本人ではない。けれども少女が喋っているのは日本語だった。再び困惑して何か返事をしようとしても言葉に詰まって何も出てこない。そんな俺に対して眼前の少女は再び声を荒げて言う。

「貴様、殺すぞ!! ていうか死んでおけ!! ええい今からこの窓から飛び降りよ!!」

「えっと……え?」

「……貴様、取り敢えず落ち着かんか。……ええい間怠(まだる)っこしい!! ひとまずそこでじっとしておれ!!」

 少女はそういうと俺に対して右の手の平を(かざ)したかと思うと

「Coolin」

 そう言い放った。途端に何か催眠術でもかけられたのか、と言うように全身が冷静になって意識のちぐはぐさもどこか遠くに行ったような気分になった。深呼吸はもういらない。

「ええと……取り敢えず……これは何……? 新しい夢……?」

「……そうであればどれ程良かったかと思っておるぞ。取り敢えず貴様、夢だと思うのであればすぐさまそこの窓から飛び降りよ」

 まともな会話の二言目から端的に訳せば死ね、と言い放ってくる少女に唖然とする。苦笑いしか出てこなかった。

「あ、あははは……は……」

「と言うか貴様、何者だ?」

「ええと……水上(みずかみ)……咲夜(さくや)……だけど」

「何だそのヘンテコな名前は。その恰好といい、私の寝室に忍び込む奇行といい、そしてその太々しい口調といい……ふざけておるのか?」

 少女は依然として睨みつけてくる。少なくとも冗談で言っているとは思えない言葉に背中から悪寒を感じた。

「……いや……あの……えっと……ごめん……なさい、誰ですか?」

 恐る恐る言葉を選びながら咄嗟の丁寧語で問いかける。

「……貴様記憶喪失か何かか。……とすれば処するのは少し早計やもしれん。よかろう名乗ってやる。……私は東の国、ヴローシィを統治する水の女神、テティスである」


 ……?


 テティス……とは?


 それにヴローシィ?


 東の国とは日本の事だろうに何変な事を言っているんだ?


 それと……メガミ?即ち女神という事なのか?


 頭の中に新しい疑問が浮かんだ。俺の無知加減に呆れて名乗ってくれたようだけれど結局のところ意味が分からないままだった。


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