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18話 男の提言曰く

 男曰く、転移の魔法であれば自らが知っている土地ならば好きに移動できるのだか、一度田舎とやらに戻れは良いだけの話だ、とのこと。よくよく思い返してみると確かテティスがこの街の路地裏に降り立たせるにあたってワープさせてくれていたっけか。それであればイメージは多少なりともつくけれどしかし別の問題と言うか疑問がある。


「……転移ってそんな簡単に使える者なんですか……?」

「いえ? 魔力が高くないと使う事は難しいでしょうね。しかしその点で言えば貴方は大丈夫だとお見受けしますが」

 そういうとまたもまるで台本が如くな流暢具合でつらつらと喋る。彼の推測としてはこの辺りで狩りができる森と言うのがあの俺とロイがいた森くらいのものらしくて、ロイも言っていた情報であるけれどあの森は厄介なモンスターが多いから実力に自信のある人間が飛び込むのが普通だそうだ。そして彼が言うにはそんな森に飛び込んで血の匂いがついているにも関わらずその程度の傷で済んでいるならば魔力に関して秀でた才覚を持っているのではないか、とそういうことだ。

「何でそんなポンポンと言い当てられるんですか……?」

「趣味が人間観察ですからね。人の身なりや雰囲気からどんな人か推察するのは苦ではありませんので」


 だとしてもな気がする。まるで探偵か何かだ。まぁこの世界にそんな職業は無いだろうからこのような例え話による返しは出来ないが。

「まぁ流石に貴方の帰り路なんてものまでは知り得ませんが、簡単にお金が絡まない方法での解決、であればそうなるのではありませんか?」

「……なるほど」

 成程、などと相槌こそ打っているけれどしかし困ったことに今の俺はと言うとそんな変えるべき実家と言うものがこの世界には悲しきかな存在しない。元の世界であれば存在しているしそこに帰れるのであればそこが何よりなのだけれど、流石にこんな魔法があってはいけないだろう。というかあくまで女神から授かった力に過ぎない。何が言いたいかというとつまりはは神様が出来得る範疇を超えた魔法、なんてのは恐らく出来ないと見ていいはずだ。

 まぁとは言え確かに転移の魔法があるのは失念していたから後で試してみようとは思う。


「おや、如何しましたかな? どうにも表情が暗い。夜雷風雨の雲が如しだ」

 異世界人であることは言えない。というか田舎出であることは明かしてしまったから今更別の嘘をつくのも難しいというものだ。

「……ええと、その……」

「ふむ、どうにも帰れない事情があるのですね? 親と喧嘩でもしてこの街にでも来たというんですかね」

 口を噤んでいると助け船とでも言うように向こうから言葉を投げられた。都合のいいシナリオだったので「まぁそんなところです」と乗っからせてもらった。まぁこの人とこれからそんなに会う事も無いだろうから良いか。

「喧嘩如きでこの街に来たなんてダサくて言えませんから」

「ふむ、そういうものなのですかねぇ。とは言え家にも帰れないとなると、そうですね、私は訪れたことがありませんから分かりませんけれど」

 長めの前置きをしたかと思うと彼は何処かを指さしていた。その先には店の壁しか見えない。

「この街のほら、あのデカい宮殿のような場所。あそこは確か女神テティスの神殿でしょう? テティスの信徒であればあそこにでも駆け込めば最低限何かして貰えるのではないですか? 信徒を見殺しにするなどという神はおりませんからね」

「はぁ……」

 残念ながら先程見殺しにされたばかりなのだけれどね。先のやり取りで完全に「自力で如何にかしろ」の一点張りをされたのだ。宮殿に駆け込めば確かに何かして貰えるのかもしれないから幾らか納得は出来たとしても少なくとも“信徒を見殺しにする神はいない”なんてのは嘘っぱちだ。

「……さてと、流石に長居しては店に迷惑ですし、でましょうか」

 まだ話の途中であったと思うのだけれどしかし男はそう言うと席を立ちさっさと会計を済ませて店の外に出ていた。仕方なく自分も外に出る。

 少なくとも一度宮殿を訪れるのは手かも知れない。それこそ直接テティスに会う事が叶えば何かあるかもしれないし。しかし同時に彼女のあの言葉とロイとのやり取りを笑いながら見られていたのかと思うと何だか腹立たしい気分にもなってきた。


「貴方もそう拘束されては嫌でしょう? それに今後どうするか、考える時間も必要でしょうから」

「あはは……まぁ兎も角、ご飯代金奢ってもらって……有難う御座います」

「いえいえ、お気になさらず」

「あ……そうだ」

 一つ思い出したことがあった。

「何か?」

 彼について未だに聞いていなかったことがある。

「名前をまだ……」

「おや、そうでしたか? 私は貴方の事をサクヤさん、とお呼びしていたものですからてっきり……」

「そうでしたっけ……?」

 確かに何度も俺の事は名前で呼ばれていた記憶がある。けれど何となくだが名乗ったっけか?

「まぁそういう事でしたらそうですね。私はホトギと言います。何れ会うことがありましたらまた、宜しくどうぞ」

 深々とお辞儀をされた。つられて同じようにお辞儀をする。するとどうだろう、頭を上げるとそこには彼の姿は無かった。人混みがそれなりにあるからそこに紛れてしまった、とでもいうのだろうか? だとしても唐突な感覚があるというか、こう不思議に思える。


「あれ……?」

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