17話 街で怪しげな男に出会ってしまった
ふらふらと考えながら街を歩く。単純にギルドに戻ればいいだけなのだろうけど、日に何回も訪れるのも何となく忍びない思いがしているのだ。まぁ何も策が浮かばなかったらどうする他ないだろうけれど。
考え事をしながら歩いていると目の前にやけに目につく人間がいた。先程であったロイではなくて寧ろ逆というか何やら変な行動をしている男だ。
「うーんやはりこの髪型のうなじが……ふむふむ。素晴らしい! しかし髪色が残念極まりない、この世界には色の文化は薄いから仕方ないとはいえ……」
長々と何やら独り言を呟いてはその目の前にいる女性の後ろをそこそこの長さの一定距離を保ちながらつけている。かと思えばバッと前面に出て後ろ歩きでまじまじと見つめているのだ。しかも此方もまた同じく結構な距離をとって。そして気になるのが、その女性が無反応と言う点。
まるで見えてないとでも言う風だ。周りの人々も彼の行動に対して目もくれない。
暫く見つめているとへぶ、というあまりにも情けない声が聞こえてきて、あの男は地面に倒れこんでいた。どうやら人とぶつかってしまったらしい。
その光景を見て助けようなどとはとても思えずどころか見て見ぬふりをしようと思った。直観であるけれど関わらない方が良い気がするから。
しかしその思いも虚しく目をそらすよりも先にそんな変質者が如しの彼と目があってしまった。
「いやあははは。お恥ずかしい所を見られましたねぇ」
すくっと立ち上がると此方に駆け寄って、高らかに笑いながら話しかけてきた。糸目なのか延々と笑っているだけなのか分からないそんな風体の男だった。どうにも怪しさしか感じない。
「いや……あの……ええと何を?」
仕方なく会話を続ける。
「あれは言うなれば……人間観察ってやつですかねぇ。趣味なんですよね」
そう言ってはいるけれど先程の光景は明らかに変質者のソレにしか見えなかった。そもそも今はちょっと構ってる場合じゃないんだけどな……。
「まぁここで立ち話も何ですし少し食べながらお話でもどうですか? 良ければ奢りますよ」
そんな俺に対して男はそんな話を持ち掛けてきた。怪しい人にはついて言っちゃだめだと小学生の頃再三言われた記憶はあるのだけれどしかし今の俺はと言うと何か食べたいという気持ちと魔法があるのだからなんとでもなるという二つの思いが混ざり合って、「そういう事ならまぁ……」と了承してしまった。
結果だけで言うとその了承はさして間違いではなかった。彼に連れられて入った店は言うなれば現実世界でもよく目にする一般的なレストランのような所であった。値段の感覚が分からないけれど同じように出入りしている客層を少し見た程度でも流石に高い店ではないことは理解できた。そして何より、飯が美味いのだ。中世風の異世界だとかになると飯文化がそこまで発展してないのではと危惧していた所が多少なりともあったけれどそれはどうやら杞憂のようだった。
「どうです? 私ね、よく此処に来るんですよ~。ここの料理はお気に入りでして」
「ええ、凄くおいしいですね」
感想を述べる。男は依然とにこにこと笑った様子だ。
「にしても貴方、珍しい方ですね」
「え、何がですか……?」
唐突な彼の言葉に一瞬だけドキッとしてしまった。なんというか急に異世界から来たことだとかを感づかれたのでは、という思考が頭の中を過ったのだ。
「ん、いやぁ。貴方その身なりで冒険者のようですから」
「え? ……あ、え?」
虚を突かれたような感覚。バレてないから良いか。……まぁバレていてもさしたる問題は無いのかも知れないが……。
そして確かに俺は冒険者である。特にこれに関しては具体的な免許も登録も無いから今日付けで勝手に初めた冒険家稼業みたいなものだけれど、それは兎も角としてこの人にギルドから出る処を見られた、という記憶が無いのだけれど。少なくともこの人物とはギルドを出てから暫く経っての出会いの筈だ。
「え、僕がギルドから出て来る所見てました……?」
「ああ、いえ。衣服に解れが見えますから。それと、あなたから僅かですけれど血の匂いがします。あと獣臭ですかね? ですから森の中にでも入って狩りをしていたのだなぁと推測したまでですが?」
ペラペラと糸目の男はそのような言葉を述べていた。まるで探偵か何かのような推測っぷりだ。特に匂いに関しては自分であまり気づいていなかった部分がある。そんなに匂うかな、とすんすんと体を嗅ぐと確かに言われて気付く程度だが匂いが付着していた。寧ろ目の前で血が噴き出す瞬間を見ておいてこの程度なのかとも思うが。
「ああ、まぁ普通なら気づきませんよ。私、そいらの人々に比べたら五感が良い方なんですよ」
「へぇ……」
だから張本人の俺ですら気づけてないのか。だとしたら結構どころか相当五感が良いのではないか?
「ですから先のような私の心に刺さる髪型なんてのが視界端にでもいようものなら過剰反応してしまうわけですよ、あははは」
そういえばこの人不審者であったな、と思い出させてくれた。何となくここまでのやり取りの中で関わらない方がよい、という一つの解答を私の中に生み出させてくれてはいる。けれど飯を奢られた手前この場でいきなり逃げ出すのも忍びない所はある。
「貴方は……ええと何をしていたんですか?」
「ははぁ、サクヤさん、貴方若しかして私の事疑ってはおりませんか? 言っておきますが私犯罪は決して犯しておりませんよ!」
声を荒げて言われた。先程の行為が犯罪に含まれるのか否かはこの世界の法にせよもとの世界の法にせよ知らないけれど少なくとも変人であることは確かな筈だろう。
「サクヤさんなら見ておられたでしょう? 私が誰にも気付かれずにあの方を観察していた光景を」
「まぁ……はぁ」
隠密でやっていたらそれこそ問題があるのでは?と思わなくもないがどうなんだろう。
「ですから女性の方も不快に思われませんし、私も別にあの方の髪型以外は見ておりませんからね、問題ないという事ですよ」
問題あると思うのだけれど。
「俺も別に詳しくはないんですけど、こう魔法使って姿を隠してそういうことするのって駄目じゃないんですか? なんかこう、ルール的なに引っかかるというか」
「そうですねぇ。まぁあんなのを魔法として扱える人自体少ないとは思いますけど……。私も別にこの世界の法に詳しいわけではありませんからね、勝手な推察ですけどまぁ相手に辱めを与えない、相手を不快にさせない、姿が見えている時に同じ行動をして犯罪になるか否か……とこの辺りの判断基準で変わるのではないですかね?ですから私は一定距離を保っていたわけですよ。ははは」
「ううん……?」
「まぁ私の話ばかり聞いていても詰まらないでしょう、私はつまらないですから貴方のお話も是非ともお聞かせ頂きたいのですけれど?」
「いやぁ自分はそんな話すこともありませんし……」
「しかしその服装と不慣れな様子とで見る限りこの街に来て日が浅いのではないですか?」
「え?」
「いえ、この店の料理を見た時の様子も何だか初めて見た、というそんな雰囲気を感じたものですから……それに冒険者と言うにはやけに服装がらしからぬ恰好ですから……何か早急にお金の入用があるのでは、と思いましてね。大方金稼ぎに急遽この街に訪れた……だとかそういう事ではないですか?」
何だか何も言っていないのにまるで俺の今までの行動を神様が如しで見ていたかのように思えた。その位彼の推理は当たっていてだからこそ怖くなった。まぁとは言え流石に神様ではないのだから俺が異世界からこの街にきた等と言う奇天烈展開までは推測されていなかったが。しかしなるほど金稼ぎにこの街に来た、という話にしておけばこの先ギルド云々にしても話が楽になるかもしれない。
という事で早速その推測のシナリオをパクらせてもらうことにした。
「まぁ、そんな感じですかね。田舎出の人間なもんで」
「やはり。しかしそういう事であれば狩りをしておられたのでしょう? そのアイテムを早めに買取して貰えば良いのでは?」
「そのつもりだったんですけど……引き渡しだけしちゃって……その有料で早く買取してもらうってのを忘れてまして……」
「ははあ、成程、よくある話ですね。田舎出、という事であれば頼れる人もいないということでしょうかね」
「まぁそうですね」
まぁこの世界での知り合い何て今の所悲しきかなテティスとあとは強いて言えばロイとかその程度か。少なくとも俺は目の前の名前すらそもそもよく知らない男をこの飯を共にしたというそれだけで知り合い認定したくはない。
そんな男から何とも当たり前のように提案をされる。
「でしたら頼れる方の元まで転移すればよいだけの話ですよ」
「え?」




