16話 困ったときの(女)神頼み
思い返すとそうだった。ギルドに入って買取をしてもらう時に急ぎで頼もうと思っていたのだけれど、受付の人に普通に先程の植物と一緒の買取にしてもらってしまったのだった。つまりお金が手に入るとしても確実に明日であり且つ今日の食事と寝床に関しての目途がついていない。
「あわわ……あ、いやこういう時の神頼みだ」
ふと思い出したように女神に念じる。俺にチートバフをくれたテティスに。
「神様仏様テティス様~!!」
『うるさいわ! 貴様の動向はずっと見てから大凡の事情は知っておる』
「じゃ、じゃあ……」
『が、幾ら私が女神とは言えただの人間の寝床や食料の用意などできんわ。そんなもん女神の行いでもなんでもないわ、たわけ!』
じゃあチートバフを与えるのは女神の行いとでも言うつもりなのか。そもそもこの辺の詳しい事情だって教えてくれてなかったし、何より狩場だと言っていたあの森に関してもとてもベーシックな狩場ではないじゃないか。
『貴様ならあの森の方が楽だという私の判断よ。それに貴様に色々と与えたのは抑止力のためと言うたであろう。民を守るのが女神の行いであるからな、そのための魔法だ』
神は民を守るものだ、というのであれば信徒の一人が生きるのにも困っているこの状況に関して助け船を出してほしいのだけれど、そう願ってもすぐに突っぱねられた。
『人間一日くらい食わずとも生きていけるわ! 特に貴様は今私の加護と私の魔法による補助の下にあるのだ。そう簡単には死なぬよ。それこそ貴様自ら首を斬り落としたりなどせん限りはな』
んな物騒な事を言わないでもらいたい。確かに今の時刻こそ分からないけれど太陽の位置だとかあとは何となくの感覚として昼を超えていると思う。俺がこの世界に来る前、つまり元いた世界は恐らく朝の十時とかその程度の時刻であったから多分昼ごはんの時間は過ぎていてもおかしくないのだ。けれど腹の方はと言うとそこまで空腹はない。何となく食いたい気がするな~くらい。
だとしても個人的には流石に飯ぐらいはちゃんと食っておきたいという気持ちがあるのだ。それに例え食糧問題がどうにかなったとしても寝床の確保という問題が残っている。流石に着の身着のままというかこの服オンリーで寝たくはない。ギルドに関して寝泊りできる施設はあるようだったけれど、サイズからしてキャパシティー的に無理だろうしそもそも無料な筈がない。では何か魔法で呼び出せるようにならないのか、と思ったのだけれどそれも女神曰く『魔法が常に万能と思うなよ。この世界に飯の概念があるのも物をうる店があるのも魔法の限界が存在するからだという事はゆめ忘れるな』
「ええ……じゃあ本格的にどうすればいいんですか。魔法は駄目で金もないんですよ!」
『それは私の不備でも何でもないわ。そこまで五月蠅くするのであればあれであろう、貴様先程女子と共に行動してたであろう? 鼻の下が伸びていたな?』
唐突に言われてドキッとした。確かにこの女神がいつみているかは分からないのだけれど先程の一連のやり取りというか出来事をもしかして全部見ていたというのか?
『無論全て見ていたぞ。先程言ったであろうが貴様の動向はずっと見ておったと』
呆れた声を漏らされる。
『で、だ。その女子の家にでも泊めて貰えば良かろうが。貴様の事は好意的に思っているようではないか』
神様の顔が見えている訳ではなくて声のみ、サウンドオンリー状態ではあるのだけれどそれでもあの女神の揶揄うような表情が容易にイメージできた。というか絶対揶揄っているというのが口調でわかる。
『はん、貴様の応対が露骨でな。延々と見ていて飽きなかったわ』
「な……!? は!? あんたホントに女神かよ!!」
キレると冷静に『私こそが女神なのだ』と返ってきた。だとしたらとても神様の行いに見えない。いやまぁ最初のやり取りだとかの時点でまぁまぁ女神と言うか神様的な高貴な立ち振る舞いという点でらしくないなとは思っていたけれど。
『で、貴様この提案に関して断るというのか?』
断るというのか?と言われたとて流石に出会って初日の人の家に尋ねるのは兎も角そこから泊めてくれとは言えたものではない。例え元の世界にもそんな人間がいたとしてそれを許す人間もいたとして少なくとも俺自身はそれが出来る人間ではない。そして何より彼女が“彼女”である以上、そして実家暮らしである以上あがり込むなんて真似は流石に……。それこそ彼女が言っていた言葉を借りるなら人の善意に付け込んで、というやつだ。そんなことしたくない。
『紳士ぶっていては始まらぬぞ。それが何よりの策だと思うのだがな』
何よりの策だとは少なくとも俺は思っていない。だからこそ女神に助けを求めているわけだが聞き入れてもらえず、終いには、
『知らん。先程のギルドに戻って事情なりなんなり説明すればよかろうが。喧しいから切るぞ』
と言われて思念による対話も切られてしまった。ぶつん、とそんな電話を切る音の様なものはないけれどそんな感覚で切られた。その後幾ら念じてもテティスからの応答は皆無であった。
「どうしろと言うんだ……」
途方に暮れる。




