11話 彼女の事情
「改めて見ると……可愛い子だな、何してたんだろ」
目を瞑ったままの彼女をちらりと見た。赤みがかった毛をしていてボブくらいの長さか。年齢はあの女神のこともあるから分からないところもあるけれど、少なくともパッと見の印象としては16歳とかそのくらいに見えた。この世界の平均顔面偏差値とはかくたるものか、と思い知らされる。先程の受付のお姉さんにしてもそうだったし、こういう点も異世界に来て良かったのかも知れない。まぁそこから恋愛に発展とかは流石に思っていないけど。
そんな彼女を横に適当に地面に絵でも描きながら暇をつぶしている。特にモンスターが来る様子もないらしく本当に狩場か改めて疑わしくなる。暫くすると意識を取り戻し、がばっと起き上がった。それに気づいて何かを言おうとするけれど何となく緊張する。掛ける言葉を見失いそうになりながら、絞り出して
「大……丈夫です……か?」
とぎこちない喋りで尋ねた。
「え、へぁ……!? あ……あの……有難うございました! な、なんとお礼をしたら良いのやら……」
「ああ、いえ……倒せて良かったですけど……君はここで何を?」
「私はその……薬草を摘みに」
「薬草? ……こんなところで薬草採取って危険……では?」
言葉遣いに気を付けながら言葉を返す。
「まぁ確かにそうなんですけれど、ここで取れる薬草が欲しくて……」
不思議に思って色々と話を聞いてみた。すると彼女曰くこの森と言うのはあまり冒険者でも訪れる事が少ないという事らしい。どうにもこの森に現れるモンスターはそもそも数自体が少なく且つ冒険者にとっては厄介この上ないみたいな種類のものが多いらしく買取価格自体がそれなりに良くても割に合わないとのこと。あの女神の言葉を鵜呑みにここに来たのは間違いだったのか。
そして彼女の家は薬草売りだそうで、あまり市場に出回らない高級な植物を採取しに来たとか。結構無茶なことするんだな。
「別にお金にそこまで困っているわけではないですけれど……それでもちょっとくらい親には楽させたいですし」
「そういうもんなのか。だとしても、危な過ぎない……?」
「そういう事であれば貴方もその風体からして冒険者には見えないんですけれど、なんでここに?」
おおっと。俺はれっきとした一冒険者のつもりなのだけど、確かに他の見かけた冒険者と比べたら何というか恰好がらしくないのか……。今の格好も別段防具だとかではなくて唯の布で出来た普通の服である。一応冒険者であることを言うと驚かれ、そして怪訝な目をされた。
「いや、ほんとに冒険者だからね? まだ日が浅いだけで」
「確かにさっきの魔法の凄さ的にもそうなのかもしれませんね……」
魔法のバフがなかったら信じて貰えて無かったというのか。まぁ兎も角冒険者という事を信じて貰えたという事だし、と話を進める。
「ええと……その探してる薬草っていうのは、どんなもの? 俺に協力できそうなことなら手伝うよ」
少なくとも今の彼女はバッグを掛けているようだったのだけれど、そのバッグには特に何か入っているようには見えなかった。勝手な推測にすぎないけれど、多分まだゲットできていないんだろうと思う。
「え、あ良いんですか!? あ、でも冒険者の方に頼むとなると報酬だとかが……」
「いや、別にいいよ。ついでに森に出て来る厄介なモンスターとか狩ってれば稼げそうだし」
「ああ、そんな……有難うございます!」
いえいえ、と控えめな返事をする。この世界ではどうなのかは分からないけれど少なくとも自分の目からすると彼女は十二分に可愛くて言ってしまえば役得みたいなそんな感情故の行動だった。
「で、どんなものなの、薬草ってのは」
「私が探してるのはキュアテイルです」
「キュアテイル?」
「ご存じないですか?」
彼女の説明曰く地面に生えており木の枝の天辺に細長い球体がついたような見た目らしい。そんな茶色の見目とは裏腹に食用としても使えるし疲労回復にも一役買ってるのだとか。なるほど、キュアって回復のあのキュアか。……いやだとしても何だそれ。何だろうその見た目、想像が出来ていない。しかしここで分からない、と繰り返すのも何だか申し訳ない気がする。そこでふと思いついたように
「分かった、じゃあどうしよう、手分けしたほうが早い気がするけど、またさっきみたいに襲われたら危ないし一緒に行動する……?」
と提案した。一緒にいておけばどんなものなのか聞くことが出来るし、そもそもさっきの光景を見て単独行動させるわけにもいかないし。
「で、でしたらそれで!」
何となく安堵の表情に変わった気がした。まぁ普通に今の自分ならば大層な魔法を持っているからいいけれど、確かに唐突に猪に襲われたらまぁトラウマになりそうだしなぁ。
「じゃあ行こうか、あ……」
「どうかしましたか?」
「いや、俺そういえば……君の名前知らないなって思って……」
出会ってから先程までてんやわんやとしていて、いざ落ち着いたと思っても結局彼女の事情を聴いていただけだったし。
「そういえばそうでしたね! 私はロイと言います」
「ロイさんね。ええと苗字って」
「そ、そんな苗字なんてい大層なもの、ただの薬草売りの家なんかが持ってるわけないですよ!」
「え……あ、あーそ、そうだ……よね!」
危ない危ない。なるほど、この世界が異世界ファンタジーなのであり舞台として西洋的なのであれば大凡の時代としては全員に苗字が存在しなかった時代だからこういうこともあり得るのか。先に名乗らなくて良かった気がする。別に異世界人であることを明かすことに危険性が伴うのかは知らないけれど隠しておいた方が身の安全には良い気がする。
「ええと、そうだ、俺はサクヤっていうんだ。改めて、宜しく、ロイさん」
「こちらこそよろしくお願いします、サクヤさん」
ついでに彼女から色々聞いて売れる物と売れない物とについての情報なんかも聞いてみよう。
そうして初のミッション……擬き、キュアテイル探しが始まった。




